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M&A会計 企業結合の実務 第6回

価格調整の会計処理

企業結合の実務をQ&A形式でわかりやすく解説します。今回はM&A実務で見受けられる買収対価の価格調整に関する会計処理について考えます。

1.はじめに

Q:本日は、M&A実務で見受けられる買収対価の価格調整に関する会計処理について、以下の設例を前提に意見交換したいと思います。

【前提条件】

• A社は、X社の株式を売主Y社から100%買収する。

• A社は3月決算である。

• SPA(株式譲渡契約書)の締結はx1年9月末であり、クロージングはx2年3月末である。

• SPAで買収価額は100億円で合意しているものの、価格調整項目(Net debt、運転資本等)があり、X社の3月末のB/Sに基づき、買収価額の調整が行われる。

• X社のB/Sの確定(したがって買収価額の確定)は、A社のx2年3月末の決算締めには間に合わない。

 

2.企業結合日ののれんを調整する2つの会計処理

-条件付取得対価と暫定的な会計処理

A(会計士):この設例では、買収対価(取得原価)の計算式は合意されているものの、その基礎となる数値が整わないため、取得企業であるA社の決算に企業結合の会計処理が完全には確定しない、という場合ですね。

Q:その通りです。関連しそうな会計ルールとしては、決算日後に取得対価が増減した場合に適用される「条件付取得対価の会計処理」と、企業結合日後1年以内であれば資産・負債の測定数値の変更を認める「暫定的な会計処理」があると思います。これらの会計処理が適用されると、企業結合日の「のれん」の金額が調整されますね。この設例で適用することはできますか。

3.条件付取得対価の会計処理

-将来の業績に依存して対価の金額が変動する場合が対象

A(会計士):それでは、まず企業結合会計基準で条件付取得対価の会計処理はどのように規定されているかを見てみます。

 条件付取得対価の会計処理

27. 条件付取得対価の会計処理は、次のように行う(注2)。

 (1) 将来の業績に依存する条件付取得対価
条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価を追加的に交付する又は引き渡すときには、条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれんを追加的に認識する又は負ののれんを減額する。
-以下省略-

(注2) 条件付取得対価とは、企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される若しくは引き渡される又は返還される取得対価をいう。

96. 被取得企業が、例えば、企業結合契約締結後の特定年度において特定の利益水準を維持又は達成したときや、特定の時期までに製品の研究開発段階におけるマイルストーンを達成したときに、取得企業が株式を追加で交付する条項があるなど、条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合がある。-以下省略-

96-2. 対価の一部が返還される条件付取得対価は、追加的に交付される又は引き渡される条件付取得対価の場合と同様に、契約交渉の過程における買手側と売手側のリスク分担によって設定されるものであり、-以下省略-


Q:この設例では、価格調整は、X社の3月末のB/S、すなわち企業結合日以前の状況に基づき実施されることになっており、取得の対価の確定が計算技術的にA社の3月末の決算までに間に合わないだけといえますね。条件付取得対価の会計処理は、96項の「特定年度において特定の利益水準を維持又は達成したとき」や、「特定の時期までに製品の研究開発段階におけるマイルストーンを達成したとき」を想定しているようですし、96-2項の「契約交渉の過程における買手側と売手側のリスク分担によって設定されるもの」とされていますので、これには該当しないようですね。ただ(注2)の「企業結合契約において定められ」ており、また(企業結合日後ではなく)「企業結合契約締結後」の「将来の特定の事象又は取引の結果に依存」あるいは27項の「将来の業績に依存」とされているので、「特定の事象又は取引」や「業績」の範囲を広くとらえるとすれば、一概に該当しないとも言い切れない感じもします。

A(会計士):私もそのように思います。ただし、条件付取得対価の会計処理の趣旨は、「契約交渉の過程における買手側と売手側のリスク分担によって設定されるもの」、換言すれば、当事者間の条件交渉後において将来の特定の事象の発生の有無等により企業価値が大きく変動した場合に対応するための会計処理であることを踏まえると、設例のような場合には条件付取得対価には該当しないのではないかと思います。なお、条件付取得対価に該当するものとして扱う場合には「企業結合契約に定められた条件付取得対価の内容及びそれらの今後の会計処理方針」を注記することになります。

4.暫定的な会計処理

-取得企業が受け入れた資産・負債に適用、ただし趣旨を踏まえた柔軟な解釈も可能か?

A(会計士):次に暫定的な会計処理の規定を見てみましょう。

 取得原価の配分方法

28. 取得原価は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して企業結合日以後1年以内に配分する(注6)。

(注6) 企業結合日以後の決算において、配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる。
なお、暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行う。企業結合年度の翌年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下合わせて「財務諸表」という。)と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させる。

 

Q:暫定的な会計処理を定める(注6)は、取得原価の配分(被取得企業から受け入れる資産及び引き受けた負債)に関するものですね。今回は取得原価、つまり取得企業の支払額が未確定ということなので、暫定的な会計処理も該当しない、ということになりますか。

A(会計士):そうですね。取得原価の算定のところにも(注6)が付されていれば良いのですが・・。

Q:それでは価格調整の金額が決算日までに確定しない場合には、企業結合日ののれんを調整することはできないので、A社はx2年末(決算日)に価格調整に関する取得原価を概算で計上し、翌年度に生じる確定額との差額は、損益に計上することになりますか。

A(会計士):そのように会計処理することもルール上は直ちに否定されるものではないと思います。ただし、設例の場合には、取得の対価の金額そのものは当事者間で合意しているものの、その算定基礎となる数値の集計が時間的に間に合わないだけであり、差額の性格は明らかに「のれん」です。また、暫定的な会計処理を制度として認めている趣旨も、企業結合の場合には、資産・負債の確定に時間がかかることへの実務上の配慮であり、それは取得の対価についても同じことはいえます。したがって、会計基準で定められていませんが、「暫定的な会計処理」に「準じて」のれんの調整とすることも否定されるものではないと思います。このようなケース、特に金額的に重要なケースでは、もちろん暫定的な会計処理を適用した場合の注記(取得原価の配分が完了していない場合は、その旨およびその理由)に準じた開示が必要になると思います。ちなみに、国際会計基準(IFRS)では、暫定的な会計処理は、取得の対価の算定についても適用されることになっています。

Q:なるほど。注記を前提に、のれんを調整する会計処理の方が納得感がありますね。

5.売手側の会計処理

-売却価額を合理的に見積もって売却損益を認識

Q:次に売手のY社にとってはX社株式の売却金額が未確定の状態となりますが、どのように会計処理するのでしょか。

A(会計士):こちらは一般的な会計の考え方に従い、決算日においては売却金額を合理的に見積もったうえで、売却損益を認識し、翌年度に差額が生じた場合には、その差額を損益に追加計上することになると思います。2期間にわたり損益が認識されますが、やむを得ないと思います。なお、価格調整の変動幅が大きいと想定される場合には、売却価額の見積額が過大とならないように留意する必要がありますね。また、必要に応じて注記することもあるでしょう。

Q:本日はありがとうございました。
 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2019.3.11)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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シリーズ記事一覧

M&A会計 企業結合の実務

第1回 のれんの評価と監査報告書の記載
第2回 企業結合会計基準等の公開草案の解説
第3回 逆取得となる株式交換の会計処理
第4回 持分変動と税効果会計
第5回 会計基準と会社法との関係
第6回 価格調整の会計処理

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