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ビジネスDDガイド:コマーシャルデューデリジェンスの実務ポイント 第15回/最終回

戦略的にデューデリジェンスを行うことの重要性

M&A実施後にどのようにターゲット企業の事業運営を行っていくかは、M&Aを成立させる前に検討しておかなければなりません。そのため、デューデリジェンスで調査すべき項目を決定する必要がありますが、当然、外部環境の影響・リスクの把握、つまりコマーシャルデューデリジェンスは避けて通ることはできないのです。最終回となる本稿では、戦略的にデューデリジェンスを行うことの重要性について解説を行います。

I.はじめに

これまでコマーシャルデューデリジェンスについて第1回~第14回で解説を行ってきた。本稿は、「ビジネスDDガイド:コマーシャルデューデリジェンスの実務ポイント」の最終号であり、本稿では戦略的にデューデリジェンスを行うことの重要性について解説を行う。

II.望ましいデューデリジェンスの姿

―買収目的に基づいてデューデリジェンスにおける必要な分析項目を定義する

M&A実施後にどのようにターゲット企業の事業運営を行っていくかはM&Aを成立させる前に検討しておかなければならない。M&A成立後にPMI(Post Merger Integration)を進める中で、ターゲット企業の事業が自社の戦略に合致しないなどという状態になれば、手遅れである。そのため、ターゲット企業の実態に合わせた買収後の経営(事業運営)を想定して、デューデリジェンスで調査すべき項目を決定する必要がある。なお、買収後を見据えて、デューデリジェンスで検討すべき事項を定義するとなると、当然、外部環境の影響・リスクの把握、つまりコマーシャルデューデリジェンスは避けて通ることはできない。

実際にデューデリジェンスを行うと、ターゲット企業の実態が自社の経営戦略に照らして当初(デューデリジェンス実施前)に想定していたものと完全に合致するケースは限りなく少ないだろう。これはデスクトップ調査(机上で二次情報を用いて調査を行う方法)による情報入手の限界によるものである。

―デューデリジェンスにはリスクや課題の洗い出し、買収後の経営に活かすという2つの側面がある

財務、税務、法務といった分野のデューデリジェンスはターゲット企業のリスクや課題を洗い出すという側面が強い。そのためかデューデリジェンスは「調査」という印象を持たれがちである。もちろん、それは買収企業側にとってM&Aを行ううえで重要なことである。ただ、デューデリジェンスの目的からすると、リスクや課題の調査だけでは不十分である。買収後にどのようにターゲット企業を運営してバリューアップしていくのかについて、調査の結果も踏まえて「分析」を行うことが求められる。買収後を見据えるという視点が欠けていることが、現状のデューデリジェンスの実務において外部環境分析が疎かになる要因の1つになっているのではないだろうか。

―PMIはデューデリジェンスの結果を用いて念入りにプランニングしないと失敗に至る

M&Aを成功に導くためには買収後の統合作業であるPMIが重要であり、一方で、PMIがうまくいかずM&Aが失敗に至るケースが多いのも事実である。これは本当にPMIがうまくできていないからなのであろうか。そもそもデューデリジェンスの段階でPMIで課題になるような事象をしっかり洗い出して、アクションプランまで立てられているのだろうか。十分な情報に基づいて念入りにプランが立てられていない中でPMIを行ったとしても、うまくいくはずがない。買収前に外部環境も踏まえて、どのようにPMIを行っていくかのプランニングができているのかもう一度考えてみる必要がある。デューデリジェンスの結果を踏まえて、それをきちんとPMIに活かせているか、そもそもPMIを見据えてデューデリジェンスが実施できているか見つめ直すのも意味があるだろう。

III.戦略的にデューデリジェンスを行うことの重要性

―買収後の戦略を前提に調査すべき項目をデューデリジェンスで明らかにする

買収後にはPMIを進めることになるが、買収の効果を最大化するためには買収後から検討を開始しては手遅れであり、ターゲット企業を取り巻く外部環境も踏まえ、どのように買収後に経営を行っていくかプレM&Aの段階から検討して、ターゲット企業と交渉を行っていく必要がある。

外部環境分析は「コマーシャルデューデリジェンス」とも呼ばれ、市場動向、競合環境、顧客動向などの企業を取り巻く環境を分析するのが特徴である。これらの外部環境の動向を踏まえ、M&Aプロセス内での潜在的リスクや問題点を発見し、かつ、そこで発見された事項を戦略的に買収後の経営活動に活かすという点が重要となる。なお、誤解が生まれないように強調するが、財務、税務、法務、IT、人事等の内部環境を分析するデューデリジェンスはターゲット企業の問題点やリスクを把握するために外部環境分析と同様に重要である。

M&Aの成功にとって、買収目的の達成ができるか否かが最重要であり、M&Aの成立自体は目的ではないことは明白である。そのために戦略的にデューデリジェンスを行うことが大事になってくることは既に説明した通りである。これまで述べてきたことは当たり前のことばかりであり、今さらなぜそんなことを強調するのか疑問に感じる方もいるかもしれない。しかし、実際にはM&Aを「成立」させることが目的化しているケースが多く存在しており、買収後を見据えながらデューデリジェンスを行えていないという実情がある。

IV.総括

冒頭にも述べたが、本稿が、「ビジネスDDガイド:コマーシャルデューデリジェンスの実務ポイント」の最終号となる。これまでコマーシャルデューデリジェンスの分析方法や重要性などを解説してきたが、そもそも本シリーズの執筆を開始したのは、買収後に外部環境が要因で業績悪化に陥り、さらに具体的な打ち手も検討していないというケースが多いという問題意識があったからである。本シリーズが何らかの形で皆様のM&Aの成功に少しでも資することを、さらには日本のビジネスの発展に対して一助になることを願う。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス
ヴァイスプレジデント 中山 博喜


コーポレートストラテジー部門にて、各業種のクライアントに対して主にビジネスDD、コマーシャルDD、オペレーショナルDDを提供。クロスボーダー案件の経験も数多く、現在は在タイの日系企業を中心にM&A案件に関するアドバイザリー業務を提供。

監修

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジーサービス統括
パートナー 初瀬 正晃

主にM&A戦略、統合型デューデリジェンス(ビジネスDDを含む)、事業計画策定支援、事業価値評価、交渉支援、PMI支援、Independent Business Review (IBR)、Corporate Business Review (CBR)、Performance Improvement (PI)に従事。大手商社の経営企画部に出向し、国内外の投融資案件を多数支援した経験を有する。

 

(2021.3.11)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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