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Industry Eye 第11回 メディア(後編)

M&Aが切り拓く日本のメディア企業の未来

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社のインダストリースペシャリストが各インダストリーを取り巻く環境と最近のM&A動向について解説する「Industry Eye」。前回に引続き今回も、インターネットの発達により今もなお大きく変化し続けているメディア業界を取り上げます。国内外のメディア企業の事例や、業界のM&A動向を踏まえ、メディア企業の抱える課題とその解決策としてのM&A戦略について分析しています。

Ⅰ. はじめに

インターネットの発達を背景としたWEBメディアの登場により、メディア業界は大きく変化してきている。メディア各社はM&Aを活用しながら生き残りをかけた厳しい競争を行っている。前回の「メディア(前編) M&Aが切り拓く日本のメディア企業の未来」では「メディア業界」が如何に変容し、またどのようなプレイヤーが参入するに至ったかを整理したうえで、激変する業界環境のなかでメディア企業が直面する課題とその対応策としてのM&A戦略をまとめた。

後編である本稿では過去15年間のメディア業界におけるM&Aの推移を確認し、今後日本のメディア企業がとりうるM&A戦略の方向性を議論する。

II.メディア業界におけるM&Aのトレンド

1 小型化が進むメディア業界のM&A

メディア業界におけるM&Aの実態はどうなっているだろうか。図表1は、世界全体で見たメディア業界におけるM&Aの金額と件数の推移である。案件数はネットバブル崩壊の影響もあり2003年に落ち込んだものの、その後は2007年まで成長。2008年のリーマンショックの影響を受けて落ち込んだが、ここ数年は約1100件前後で横ばいに推移している。

一方金額で見ると、2006年には1450億ドルだったが、近年は500億ドルを割ってきており、2014年に至っては約250億ドルと大きく減少している。

図表2は全業種との比較を示したものだが、メディア業界におけるM&Aの件数ベースの構成比はおおよそ5%弱で推移しているのに対し、金額では3%弱となっている。実際1件あたりの金額を見ると、2008年のリーマンショック前の平均金額が約5,300万ドルだったのに対し、リーマンショック以降は約3,400万ドルと少なくなっており、案件の小型化が進んでいることがわかる。

図表:世界におけるメディア業界のM&A推移

出典:(図表1・2共に)トムソン・ロイター提供データよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

2 中型化する日本のメディア業界におけるM&A

図表3は、日本におけるメディア業界M&Aの金額と件数の推移である。案件数は順調に拡大し2009年には85件となったものの、世界経済停滞の影響を受けて2010年以降は50件前後で横ばいとなっている。金額も件数と同様の動きを示しているが、電通によるイージス買収により2012年のみ飛びぬけている。

興味深いのは1件あたりの金額で、案件数が増加した2009年までの平均金額は約800万ドルだったのに対し、2010年以降は、2012年を除いたとしても、平均で2,000万ドルと高額化している点である(※1)。全体から見ると小額案件は多いものの、中規模の案件が見られるようになっている。

                         

(※1) 2012年を含めると34百万ドル

図表:日本におけるメディア業界のM&A推移

出典:(図表3.4共に)トムソン・ロイター提供データよりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

3 日本のメディア企業による注目される取組み

では今後、日本のメディア企業はどのようなM&A戦略の実行が考えられるのだろうか。ここでは大きく3つの方向性を示してみたい。

1つ目は従来型メディア企業とWEBメディア企業の統合であり、典型例は角川ホールディングスとドワンゴの合併である。WEBメディア企業は破壊的なイノベーションを起こす技術やプラットフォームを持っているが、常にマネタイズには課題を抱えている。一方、従来型メディア企業は制作コストが高いなか売上が減少しているものの、依然として強力なビジネスモデルとコンテンツを保有する。この2つを上手く組み合わせた企業が今後メディア業界に影響力を持つようになると考えられる(※1)

2つ目はグローバル展開する大型メディア企業の買収であり、典型例は電通によるイージスの買収である。インターネットによりメディア業界がグローバル化された今、日本のメディア企業もグローバルに事業展開を行うためのインフラを早期に獲得する必要がある。グローバル化された企業を買収するという方法は、各国企業を順次買収するよりも圧倒的に早いスピードで事業展開を行うことができるようになるだけでなく、多数の国に存在する拠点を管理するためのグローバルマネジメントシステムも獲得できるという点で優れていると考えられる。

3つ目はグローバルに展開する新興メディア企業に出資をし、相互にシナジー発揮の機会を探していくという方法である。例えば日本経済新聞は2014年Evernoteへの出資を行ったが、その後2015年3月にはEvernote上で作成するノートの内容に関連深い日経の最新記事を表示し、また日経電子版のサイト上では記事に関連するEvernote上の自分のノートが表示されるようなサービスを開始している(※3)。支配権を獲得せずとも、強力な新興メディアに自社のサービスをリンクさせることで世界における自社メディアの価値を相対的に向上させている点は非常に興味深い。

                            

(※2)  「角川ドワンゴ統合の正しい解釈、川上会長の頭の中」日経ビジネスONLINE 2014年6月2日配信
(※3)  http://pr.nikkei.com/guide/evernote/

III. 最後に -今後さらに加速するメディア業界の競争に向けて-

本稿では2回にわたって、少し前までクローズドであった日本のメディア業界が、グローバル化・多様化・メディア化・デジタル化の流れのなかで様々なプレイヤーが参入してきており、また業界全体も大きく拡大していることを明らかにした。またその中でメディア企業がM&Aを主要な戦略として展開していることを示した。

データを見ると、グローバルではM&A1件あたりの金額は小型化しているものの、日本ではむしろ中型・大型の案件が出始めている。だが、まだまだ日本の金額規模は世界の案件規模には及んでいない。このような状況を考えると、海外に遅れをとった日本のメディア企業も、今後はより大規模なM&Aを行うことで、大胆な事業展開を進めて行くと予想される。

新しいハードウェアの登場は、新しいメディアを生み出す契機となる。例えばノートPCの普及はgoogleを、スマートフォンの普及はFacebookと切り離せない。古くは多色刷り輪転機の登場が雑誌TIMEを生み出した。ウエアラブルデバイス、ドローン、3Dプリンターなどの登場により、今後も新しいメディアが登場する可能性がある。この他にもNetflixの日本市場参入など、日本のメディア企業を取り巻く環境は今後さらに急速な変化を遂げると予想される。上に挙げた幾つかの例などを参考にしつつ、本稿が日本のメディア企業における戦略展開検討の一助となれば幸いである。

 

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
メディア担当
シニアヴァイスプレジデンド 川上 裕義

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