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Industry Eye 第56回 エネルギー

第6次エネルギー基本計画策定に向けての展望

気候サミット(4月)やG7(6月)など、11月のCOP26に向け、脱炭素化に向けた国際的な機運が高まりを見せています。今回は、昨年10月より政府の有識者会議にて見直しが議論されている第6次エネルギー基本計画について、執筆時点(2021年3月)の議論の動向等を踏まえ、今後の展望を見ていきます。

I.はじめに~エネルギーをめぐる国内外の状況変化~

2018年7月に閣議決定された現行エネルギー基本計画では、より高度な「3E+S(安全性・エネルギーの安定供給・経済効率性の向上・環境への適合)」の原則の下、安定的で負担が少なく環境に適合したエネルギー需給構造を実現すべく、2030年の計画と2050年の方向性として、それぞれ「エネルギーミックス(火力:56%、原子力:20~22%、再生可能エネルギー:22~24%)の確実な実現」、「エネルギー転換・脱炭素化への挑戦」が示された。現行の第5次エネルギー基本計画の策定以降、気候変動問題への危機感の高まりによる世界的な脱炭素化に向けた動きの加速化やエネルギー供給基盤の揺らぎ、コロナによる投資環境の変化、新たなテクノロジーの台頭など、エネルギーをめぐる国内外の情勢は大きく変わってきている。

世界的な脱炭素の動きに関しては、気候変動問題の深刻化やグローバル金融市場における関心の高まりを背景に、これまでに120以上の国家やグローバル企業などが続々とカーボンニュートラルを表明している。また、ゼロカーボンシティ等、国と地方の協働・共創による地域レベルでの取り組みも広がってきている。脱炭素社会の実現に向け、サプライチェーン全体での脱炭素化の検討や世界的なESG投資額の拡大(世界全体では投資市場の約1/3を占める総額3,000兆円、国内では3年で6倍に増加し約300兆円規模)、企業価値評価において脱炭素の水準を考慮する動き、多額の政府資金投入によるエネルギー・環境分野産業の後押しなど、企業・産業界・国・地方のそれぞれのレベルで脱炭素社会に向けた取り組みが加速化しており、気候変動対策と整合的なビジネス戦略・国家戦略が、国際競争力の前提条件になりつつある。

図表1 世界における脱炭素化の動き
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II.2050年カーボンニュートラルに向けた検討

総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会では、昨年10月から3E+Sを原点にエネルギー基本計画改定に向けた議論が開始された。同分科会では、自動車の電動化など産業・運輸・家庭部門の電化により電力需要が3-5割増加するという想定のもと、現時点で想定し得る社会全体としての脱炭素社会への道筋の参考値として算出している。2050年の再生可能エネルギーの比率は現在の3倍の5-6割、原子力は安全性を大前提に一定規模の活用を目指すとしたうえで化石+CCUSと併せて約3-4割、水素・アンモニア火力は約1割、とのカーボンニュートラルへの転換イメージを示し、脱炭素化社会実現に向けた有識者による議論が進められている(図表2)。

図表2 カーボンニュートラルへの転換イメージ
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今回の見直しにおいては、これまで重点が置かれてきた供給側だけでなく、最終エネルギー需要において過半を占める非電力分野の需要側の環境整備も重視されている点がこれまでの計画改定とは異なる。また、2030年に向けては3Eの中でも特にエネルギーの安定供給を最も重視する方針が本年3月の政府分科会で示された。LNG等の安定供給確保、大規模停電発生時の石油製品の融通、地域間の電力融通と併せた電源(小規模/大規模電源)の日本全体での分散化等、災害下でも途絶を起こさないエネルギーレジリエンスの強化策が取り上げられており、マイクログリッドの拡大やデマンドレスポンス等、需要側の仕組みが地域で増加することによる地方創生効果についての議論も今後さらに進むことが期待される。それでは、政府分科会で議論されている2050年脱炭素化に向けた対応についてもう少し詳しく見ていくことにする。

1.カーボンニュートラルに向けた電力部門の検討~供給サイドの取組~

電力部門の供給サイドにおいては、脱炭素化された電力による安定的な電力供給が必要不可欠となる。再生エネルギーを主力電源として最大限の導入を目指す方針が示され、再生エネルギー導入の障壁となってきた基幹送電線の利用ルールの抜本見直し等再生可能エネルギーの普及に向けた動きの加速化を進めている。

図表3 電源別の課題と対応の方向性
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2.カーボンニュートラルに向けた非電力部門の検討~需要サイドの取り組み~

産業・民生・運輸の非電力部門の需要サイドにおいては、技術開発や規制見直し等、徹底した省エネとともに、再エネ電気や水素等のカーボンニュートラルな燃料等の脱炭素エネルギーの導入(エネルギー転換)を進めることが重要となる。社会実装に向けた技術開発や経済的な競争力、熱需要への対応、蓄電池を組み合わせたレジリエンス確保、消費者への訴求等といった技術・経済性・制度面での課題の克服を促進する制度設計が求められている。

<対応の方向性>

(1) 省エネ

省エネに資する技術開発や設備・機器等の導入支援、需要拡大を通じた低コスト化、制度的措置の見直し 等

(2) エネルギー転換

社会実装に向けた技術開発・投資・導入支援、カーボンリサイクル燃料の海外サプライチェーン構築、蓄電池・燃料電池の価格低減に向けた技術開発 等

(3) 製造プロセスの転換

世界に先駆けた水素還元技術の確立・導入支援、需要拡大を通じた低コスト化、規制の緩和による開発加速化、保全・安全基準の制定 等

(4) データ駆動型社会におけるエネルギー需要の効率化・省CO2化

あらゆる産業におけるDXのさらなる推進、エネルギーマネジメントの導入強化に向けた規格・基準の整備や制度の見直し、データセンターの省エネに資する技術開発 等

脱炭素化社会の実現にあたり、脱炭素に向けた克服すべき課題は存在し、技術イノベーションが不可欠な領域は、その不確実性を考慮し、DACCS等の炭素除去技術の技術開発や植林の推進による排出削減も重要な選択肢としてさらなる取り組みが検討されている。

III.おわりに

今回の第6次エネルギー基本計画の見直しに際しては、これまでのエネルギー基本計画改定では見られなかった、需要側におけるさらなる排出削減策や地域との共生などといった新しい想定や枠組みが議論され、明示されつつある。また、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現は単一のセクターの取り組みによってのみ実現するものではなく、実現に向けセクター横断的な連携の動きがさらに進むことも予想される。脱炭素化社会の実現は技術的・経済的・制度的課題もまだ多いが、今夏のエネルギー基本計画の改定が、企業・産業界・国・地方のそれぞれのレベルでの脱炭素社会に向けた動きを加速化しエネルギー業界の大きな前進の後押しとなることを期待したい。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
エネルギー担当
パートナー 三木 要
シニアヴァイスプレジデント 品川 梓

(2021.04.12)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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