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Industry Eye 第58回 自動車セクター【上編】
自動車業界における環境変化とサプライヤーの再編・M&A動向
本稿では、自動車業界における足元のトレンドとしてEV化、半導体不足に着目し、それらの自動車部品サプライヤーへの影響を中心に考察のうえ、再編、アライアンス・M&A動向について俯瞰します。
I.はじめに
「100年に一度の大変革」といわれるほど自動車業界の事業環境が大きく変化する中で起こったCOVID-19の影響に加え、「脱炭素」の世界的な流れを受けEV(電気自動車)シフトの一層の進展見通しが強まり、足元では半導体不足も深刻化している。本稿ではそれらの環境変化の自動車部品サプライヤー(以下、「サプライヤー」)への影響を中心に、企業再生、アライアンス・M&Aの観点から上編・下編の二回に分けて俯瞰していく。以下は全体の目次となるが、今回はその上編となる。
【上編】
I. はじめに
II. 業界動向(1.EV化、2.半導体不足)
III. サプライヤーへの影響(1.EV化、2.半導体不足)
【下編】
IV. サプライヤーの窮境要因/パターン
V. 企業再生に向けた方向性
VI. アライアンス・M&A動向
VII. おわりに
II.業界動向
1. EV化
世界的な「脱炭素」の動きの中、自動車OEMメーカー(以下、「OEM」)各社は新車の電動車シフトの目標を発表し、EV化の流れは本格化する見通しである。EV化によって影響を受ける部品としては①新たに搭載される部品、技術進化する部品、②EVにおいて不要・変更となる部品、③軽量化の影響で従来車を含め変更がある部品がある。従来車と比べ、EV車においては必要とされる部品数が3分の1程度に減少すると推計されている1 。
長期的にはEV化が進行することが想定されるものの、足元で消費者が次に購入する自動車の動力源としてガソリン/ディーゼル車を選好しており、また国によっても状況は異なる。以下にてデロイトが10年以上グローバルに実施している自動車に関する消費者調査の2021年版の一部をご紹介する。
「次に購入する自動車の動力源の選好」について、日本ではガソリン/ディーゼル(内燃エンジン、Internal Combustion Engine, 以下「ICE」)車とHEV(ハイブリッド)を選好する割合が45%ずつ、米国ではガソリン/ディーゼル車の購入を選好する割合が74%にも上る。また、前回の調査に比べ、今回の調査においては米国・インド・ドイツ・中国・日本・韓国のいずれにおいてもガソリン/ディーゼル車以外を選好する消費者の割合は低下しており、いずれの国においてもBEV(バッテリー式電気自動車)を選好する消費者は4%~11%にとどまる。消費者のBEV車に対する懸念としては航続距離・充電インフラの不足が上位に挙げられている。
日本では「2030年までに乗用車の新車販売に占める次世代自動車2 の割合を5~7割とすること」を目標とすることを掲げているが3 、EVの本格的な普及のためには充電インフラの整備など政策面の対応も併せて必要であり、課題は引き続き残る。
EVシフトが長期的には進行すると予想されるものの、当面は従来のガソリン車と混在する期間が続くため、自動車業界は現在の収益源である既存事業での競争と、将来のEVシフトを見据えた対応の両方を行う必要がある。
2. 半導体不足
昨年末以降、OEMが世界的な半導体不足により減産を強いられている状況にある。以下の複数の要因によりこのような状況となっていると考えられる。
半導体不足の自動車業界への影響としては、新車生産・販売台数の落ち込み、中古車市場の隆盛、およびそれに伴うアフターマーケット部品市場の隆盛が挙げられる。OEMの新車減産により新車の納期までの期間が長期化しており、消費者の需要はすぐに入手できる中古車にシフトしている面がある。また、新車納期の長期化に伴い下取り車の流通量は減少しており、中古車価格の相場は上昇している4 。
III.サプライヤーへの影響
1. EV化
サプライヤーにおいては、EV化が将来的に自社製品ポートフォリオに与える影響を分析し、新たな収益源の確保や既存の事業の売却を含めた事業ポートフォリオの見直しが必要とされている。当社が2020年8月に実施したサプライヤーの経営企画部門を中心にご参加頂いたアンケートでは、直接取り組まなければならないと感じていることとして「新規事業創出(48%)」「中長期的な事業ドメイン/ポートフォリオの検討(22%)」が挙げられている。
しかし、今日の収益を生み出す既存の主力事業を継続しながらEV関連の新領域への投資を行うことは各社の経営において大きな負担となる。EV関連は多額の研究開発投資を必要とすることに加え、既存の自動車技術とは異なる新しい分野であることから、自社リソースのみでの対応には限界もあり、サプライヤーによるEV関連ベンチャー企業との協業の事例も見られる。また、外資サプライヤーにおいてはEV関連においてサプライヤー間で協業する事例も見られる。M&Aにより事業規模を拡大してきたA社は、EV化の時代を見据えて、パワートレイン部門(ICE、EV事業の両方を含む)を分社化することによって、変化に柔軟に対応し迅速な意思決定ができるよう組織再編を行った。2030年までに旧来型のICEの開発を打ち切り、パワートレイン部門の従業員のうち、旧来型ICEに携わる約半数を配置転換するとともに、ソフトウェアに携わる従業員を増やす計画である。
EVプラットフォーム(パワートレインや電池などを組み込んだ基本構造、車台)を製造・開発するサプライヤーもあり、これらにより新興EVメーカーの参入、ひいてはIT業界など他業種からの参入も可能となる。EVプラットフォームによりハードの部分は外部サプライヤーに製造委託し効率化することも可能となり、OEMはソフトウェア領域の開発で勝負することになることが予想される。
自動車産業では2000年代からメガサプライヤー台頭によるTier1メーカーのTier2化、2012年以降における日系OEMのプラットフォーム戦略採用による系列内序列変化、2016年のパリモーターショーにおけるCASEの提唱前後における異業種の参入により、産業構造が変化してきていた。この変化がEV化の流れの本格化によってより強まったと考える。
従前より、コスト競争の激化、多極化した海外工場の複雑なサプライチェーン管理による収益性の悪化等による構造的な不況が慢性化していたが、この状況に、EV化、特にEVプラットフォームの登場の影響は大きいと考える。部品の更なるコモディティー化、ハードからソフトへの付加価値シフトにより部品モジュールにおける投資活動もソフト面が優先される可能性があるのではないか。つまり相対的に部品その物(ハード)の優位性が下がることとなり、事業環境はより一層厳しい状況となっていると考えられる。
2. 半導体不足
2020年の初頭ごろから始まったコロナ禍の影響で、2020年の初夏あたりまではサプライヤーは大きな影響を受けてきたが持ち直すサプライヤーが確認された。特にアフターマーケット向けの部品供給網を確保できているサプライヤーは、新車の落ち込みを受けるも、中古車やアフターマーケット部品市場の隆盛する恩恵で業績を補完できている。
一方で、引き続き業績が芳しくなく経営体力の弱い(自己資本比率の低い)サプライヤーや経営危機・経営破綻に陥るサプライヤーが出てきている。これらのサプライヤーに共通していることは、コロナ禍や半導体不足によって突然に経営危機に陥ったのではなく、以前から業界構造に起因して業績が悪化していたところに、コロナ禍や半導体不足が生じて「ダメ押し」となってしまったということである。今後、コロナ禍と半導体不足の影響が長期化することによる世界的なリセッションにより主要取引先の工場稼働が回復せず、その結果、製造業の資金および財務基盤が著しく毀損することにより、窮境に陥る製造業がさらに増加することが予想される。
次号では、上記にて述べた業界構造不況により窮境状況に陥るサプライヤーのパターンについて考察し、それを踏まえた企業再生の方向性について述べる。また、そのような環境の中、グローバルメガサプライヤーはどのような手を打っているか、アライアンス・M&A動向から確認する。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
*1 経済産業省、「素形材産業ビジョン追補版」https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/sokeizai/tuihobangaiyou.pdf
*2 次世代自動車には、ハイブリッド自動車、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車、クリーンディーゼル自動車を含む
*3 首相官邸、「未来投資戦略2018」、p41
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0615/shiryo_03-3.pdf
*4 日刊自動車新聞、「AA相場高騰、半導体不足で中古車に需要シフト」、2021年7月14日
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
Autoセクター
パートナー 渡邊 耕太郎
パートナー 山西 顕裕
シニアヴァイスプレジデント 石川 和典
シニアアナリスト 川内 晃太郎
(2021.9.2)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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