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Industry Eye 第66回 インベストメントマネジメントセクター

投資ファンドの状況

過去10年で投資ファンドの投資金額、件数は確実に伸長。今後も、事業承継やカーブアウト、非上場化、事業再生等の分野で投資ファンドの存在感はますます向上すると目されます。その中での投資ファンドの次の一手を検討していきます。

I.はじめに

過去は「ハゲタカ」と揶揄された投資ファンドも、確実に投資金額、件数を伸長させており、事業承継やカーブアウト、非上場化、はたまた事業再生における、有力な支援者、必要な機能との認識が広がりつつある。本稿では、過去10年のPEファンドにおける投資推移をレビューするとともに、今後の予測、さらに投資ファンドのあり方まで論考したい。

 

II.バイアウトファンドの市場動向

1. 市場全体の動向

日本におけるPEファンド案件数は2010年に48件/年であったものが、2019年には132件/年にまで拡大しており、CAGR(10-19)が11.9%と堅調は増加基調にある。この点、米国におけるPEファンド案件数は2019年に5,495件/年であり、まだまだ規模では劣位する状況であるが、この10年で日本の企業投資分野において投資ファンドの存在が一定の認知、存在感を示すようになった所作といえる。
 

2. 案件タイプ別および取引額別投資件数推移

案件タイプ別にみると、事業承継案件がこの10年で大幅に伸長している。具体的には、2010年に全体の中で15%であったが、2020年には62%を占めるまでに拡張した。経営者の高年齢化、経営者の後継者不足、を背景にしつつ、従来あったM&Aに対する後ろめたさ、責任放棄的な印象が薄まり、それらを解決する有効な手段として認知度が高まったことが要因と考えられる。

取引額別にみると、100億円未満の割合が約6割を占める構造自体に変動は見受けられない。大規模案件から小規模案件へと裾野が拡大しながら普及する、もしくは、案件が大規模化していくということはなく、市場全体の案件数の増加と供給体制の拡充が双方進展する中で、投資対象となりうる企業規模のポートフォリオは安定的推移したものと考えられる。実際に1件あたりの投資額をみても、米国は140億円であるに対して、日本は100億円であることからも、現在の投資規模の平均値が中庸な水準といえる。
 

3. 事業承継案件に関する考察

前述の通り、事業承継案件は堅調に拡大している(2015年の件数39に対して2020年の件数84)。後継者不在の経営者の高齢化は不可逆的に進展するため、経営者の引退平均年齢からみてピークアウトすると思われる2030年中旬くらいまでは、事業承継案件の増加は継続すると予測される。
 

4. カーブアウト案件に関する考察

過去10年で、上場会社によるカーブアウト件数は年間200件程度で安定的に推移しており、今後も堅調な推移が見込まれる。要因としては、①潜在的なカーブアウト対象事業数は豊富に存在すること。全上場企業のうち、複数事業を営む会社の割合は6割を超え、事業数は6,800社、うちカーブアウトの有力ターゲットとなりうる営業利益率5%未満の会社数は6割超の4,300社程度である。また、②事業売却を含めた事業の取捨選択が進まないことが、日本の産業成長力を削いでいるという問題意識のもと、事業売却を後押しする政策が採用される機運にあること。具体的にコーポレートガバナンスコード、東証改革、アクティビストファンドの増加などが挙げられる。③そして、これらにより、新聞等で報道された近年大型のカーブアウトディール(資生堂のパーソナルケア事業の売却、武田薬品の大衆薬事業の売却等)が行われ、事業売却が有効な経営戦略オプションとして認識される状況になったこと、などが挙げられる。
 

5. 非上場化案件に関する考察

非公開案件数は足元増加傾向(2014年6件に対して、2020年は11件)にある。今後も、中長期的な事業変革の必要性、上場維持コストの増加、アクティビストの増加、PEファンドに要る供給増加、等を背景に、増加傾向は継続するものと想定される。
 

6. 事業再生案件に関する考察

また、事業再生案件についても今後の潜在ポテンシャルが大きい。①コロナ影響を受けた外食、アパレル、観光業種等において、コロナ対応融資により資金繰り対応を行ったことによる過剰債務問題から資本性資金のニーズが高いこと、②これらの業種での業種内格差拡大による事業再編の必要性、②コロナ影響業種のFund to Fundでの案件増、などが背景にある。このため、一時的な支援局面から、自律的回復局面に移行した際に、ファンドの事業機会が増加するものと考えられる。

 

III.各投資ファンドの打ち手

上記の通り、投資ファンドに対する需要動向活況である一方、低い参入障壁および、低廉な資金調達環境から、投資ファンドのプレーヤー数やファンド調達規模も拡大しており、供給サイドも増加、結果として、レッドオーシャン化が進行しつつあるともいえる。よって、各投資ファンドには差別化の3つ方向性を提案したい。
 

1. セクターでの差別化

バリューアップに向けてより事業構造改革の難易度が上がっている状況を踏まえて、特定セクターに特化していく方向性が考えらえる。たとえば、自動車業界は「100年に1度の大変革」の渦中にあり、「EV化」「自動化」「コネクテッド」「シェアリング」など技術革新、対応の必要性が、ファンド投資の機会を醸成する。この点、欧米では、自動車部品業界への投資に特化したファンドが存在し、投資会社に対して各種事業構造改革(LCCへの生産移管、SCM等)支援メニューを提供し、バリューアップを図る業態があるが、同種の取り組みを図ることが考えられる。なお、日本でも、たとえばユニゾンキャピタルはヘルスケア、コンシューマー、B2Bサービス注力業種として、リソースとナレッジの集中を図っている。
 

2. バリューアップソリューションでの差別化

既に、いくつかの投資ファンドでは、バリューアップチーム(経営支援チーム)を有し、各種オペレーション改善を中心に投資先に対する経営支援をインハウスで実行している。また、外資系ファンド中心に投資先に対してクロスボーダーでのビジネス拡大や投資支援を実施している例もある。

今後は、昨今の製造業を中心としたクロスボーダーでの経営効率向上要請を鑑みるに、クロスボーダーでのオペレーション改善や拠点統廃合の実行力がファンドの重要なバリューアップ要素になる可能性がある。また、DXに対する取り組み、GXに対する取り組みなど経営改革のソリューション提供力を磨くことも差別化の一つの方法である。
 

3. ファイナンス方法での差別化

日本では、マジョリティ取得を前提とした投資ファンドが多い。しかし、経営権は残余させたいが、一時的な資本の下支えが欲しいとの売り手サイドのニーズが根強い。このため、マイノリティ出資やメザニン投資も用意することで、投資の入り口を多様化させる方法が考えられる。

また、個別案件単位でカーブアウトするのではなく、事業会社と共同出資によりファンド設立し、複数の案件のバリューアップを事業会社と共同で実施するような組み方も考えられる。

 

IV.おわりに

以上、投資ファンドが黎明期から成長期を過ぎ、成熟期にさしかかりつつある昨今、より、産業の新陳代謝を高め、事業構造改革を推し進める、経営の近代化、透明化を促進する、といった、投資ファンドに対する期待役割はますます高度化していくと考えられる。各投資ファンドの次の一手に期待したい。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インベストメントマネジメント(IM)セクター
マネージングディレクター 小川 幸夫

(2022.6.8)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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