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Industry Eye 第67回 銀行セクター

改正銀行法 投資専門会社の活用状況について

近年の経済情勢の変化に対応する形で、銀行法の改正が進み、銀行への規制を緩和する流れが続いています。本稿では、2021年の銀行法改正の概要を改めて確認したうえで、「投資専門会社」を経由した出資可能範囲が拡大された点に着目し、改正内容・投資専門会社の活用状況・本改正から予想される今後の展望を述べます。

I.はじめに

1. 2021年11月施行の改正銀行法の概要

2021年11月施行の改正銀行法では、デジタル化や地方創生など持続可能なビジネスモデルを構築し、日本経済の回復・再生を支える要としての役割を地域金融機関が果たすための規制緩和が行われた。今回の規制緩和の内容を類型化すると、以下の通りである。

(2021年11月施行 改正銀行法概要)

① 銀行業高度化等会社の業務範囲の見直し(拡充)

② 銀行本体の業務範囲の見直し(拡充)

③ 出資規制の見直し(緩和)

④ 外国子会社・外国兄弟会社の業務範囲の見直し(緩和)

(出所:「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律案 説明資料」、金融庁、2021/3)

 

本稿では、ポストコロナにおいて一層の活用が想定される③出資規制の見直し(緩和)に着目し、地域金融機関における当制度の活用状況について考察する。

 

2. 「投資専門会社」を経由した出資可能範囲の拡大

改正③「出資規制の見直し(緩和)」の改正ポイントは、(1)投資専門会社の業務範囲にコンサルティング業務を追加し、出資先に対するハンズオン支援能力を与えた点、(2)投資専門会社の出資可能範囲・期間の拡大、の2点である。

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II.地域金融機関による企業出資の概況

1. 地域金融機関による企業出資件数の動向

投資専門会社を通じた出資は、資本性資金の供給不足を解消することを目的として、下表の通り、段階的に規制緩和がなされてきた。

(投資専門会社を通じた出資に関する規制緩和の流れ)

1997年 投資専門会社⇒ベンチャービジネス会社への投資が解禁

2008年 投資専門会社⇒事業再生会社への投資が解禁

2013年 投資専門会社⇒地域活性化事業会社への投資が解禁

2019年 投資専門会社⇒事業承継会社への投資が解禁

2021年(本稿で解説した改正)

・投資専門会社⇒ベンチャービジネス会社・事業再生会社・事業承継会社への投資要件について緩和

・地域活性化事業会社への出資規制について緩和

(出所:金融審議会「銀行制度等ワーキング・グループ」(第1回)議事配布資料3 事務局説明資料)

 

地域金融機関による企業出資の件数は、図表1の通り推移しており、出資件数はここ10年で増加している。また、2022年は5カ月間累計の件数で、既に前年を上回る水準で推移している。地域金融機関による投資専門子会社の設立は、2019年の出資規制の緩和以降に相次いでおり、その出資の内訳をみると、投資専門子会社を経由したものが相応に見受けられることから、規制緩和が出資件数の増加を後押ししていることがうかがえる。

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2. 出資先の状況

地域金融機関の出資先を業種別に分類した結果は、図表2の通りである。

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出資先業種の件数割合として、最も多くを占める業種は「ソフト・情報」であり、次いで「食品」、「農林水産」である。

「ソフト・情報」に関しては、Fintech・システム開発・ITコンサル等のシステム関連のベンチャー企業が出資先として多く見受けられ、「食品」に関しては、地元の特産品を加工する食品メーカー等の地元企業への出資が多く見受けられる。

 

続いて、出資先の所在地別に見てみると、図表3の通りである。

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出資先所在地の件数割合は、「北海道」がトップであり、次いで、「関東」、「四国」、「九州」と続いている。北海道の主な出資先をみると、農業や漁業等を行う地元企業への出資が多く見受けられ、関東に関しては、大部分が東京都であり、「ソフト・情報」業種のベンチャー企業が多く見受けられる。

III.おわりに

本稿では、2021年11月施行の改正銀行法のうち、「投資専門会社」を経由した出資可能範囲の改正に着目し、改正内容・改正経緯・銀行による投資専門会社の活用状況を確認してきた。

投資専門会社を通じた出資可能範囲・期間の拡大により、ポストコロナでの事業再生、事業承継、地方創生といった重要課題に対して、地域金融機関が資本性資金を供給するとともに経営に関与していくことが期待されている。地域金融機関が地域経済で担うべきエクイティ機能への期待について、今後活発な議論が起きることが予想され、それとともに投資専門会社の活用は今後益々増加していくものと考えられる。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
銀行・証券セクター
マネージングディレクター 河村 弘毅
シニアヴァイスプレジデント 田中 盛隆
シニアアナリスト 山本 桂資
アナリスト 小林 秀臣

(2022.7.13)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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