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Industry Eye 第72回 消費財セクター

日本の食を強く、世界へ

第2次日本食ブームが日本企業の商機となっています。健康的な食事の代名詞である日本食の根源的価値はそのままに、世界経済における日本の国際的地位の変化に伴って、その付加価値にも変化が生じています。本稿ではいくつかの事例に基づき、企業提携なども含めた日本企業にとっての商機について解説します。

I.はじめに

静かに、だが、確実に続いている、世界における日本の存在感を高める動向のひとつに、日本食ブームがあることは、ご存知な方も多いだろう。かつて、日本が世界経済を席巻し、Japan as No.1と呼ばれた時代に第1次日本食ブームが起きたものの、当時の主役は、増加する日本人駐在者を主なターゲットとした現地の日本食レストランが担っており、まだ内向きの要素が多かった。一方、2023年現在における日本食ブームは、大分異なる様相を呈しているようである。日本食の発展のいくつかの側面を切り取りつつ、企業提携・買収も踏まえた観点から論じてみたい。

II.日本産食材輸出の発展

まず、近時の日本食ブームは日本産食材の輸出を後押ししている点である。農林水産省の統計によれば、日本産食材の輸出額はコロナ禍の逆境にもかかわらず、2021年過去最高の1兆円を突破している。

日本の農林水産物の輸出額
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世界的な食料需要増といった要因もあるものの、日本産食材の高い品質や個性への認知度上昇および輸出向け食材生産に関する国内体制の整備が、継続的なトレンドを支えている要因の一部を構成しているといえるだろう。ステーキ用和牛のように、和食以外の用途も含めた食材の利用が普及しつつあり、現在の日本食ブームは海外市場における現地の需要に、より溶け込んだ存在となっている。日本産食材の輸出強化に歩調を合わせるように、国内の日本食卸売企業の海外進出は2000年代以降活発化しており、近時は現地の卸売企業の買収も進められている。日本産食材の輸出という機会は、少子高齢化によって市場が縮小に向かう日本の食に携わる企業にとって、今まで以上に取り組むべき問題となっていくだろう。

III.日本食小売事業者の東南アジア圏における成功

もう一つのトレンドは、とある日系大手小売事業者が、現在東南アジア圏で日本食ブームの立役者と表現するに差し支えないほどの成功を収めている点である。過去東南アジアに出店した日本の小売業者の戦略と異なり、同社は“ジャパンブランド・スペシャリティストア”という日本食を前面に押し出した新業態で勝負し、現地消費者の日常消費の需要を取り込んでいる。これまで高価格なため手を出しづらかった日本の菓子や寿司などの加工食品などを、リーズナブルな価格帯で訴求すると共に、現地スタッフに売り場設計の裁量を大きく委ねるなど、その独自の店作りは、東南アジア圏における日本食の新たな需要を喚起している。日常使いとしての日本食の輸出は今後さらなる市場の開拓を期待されるものだろう。

IV.海外におけるテイクアウト寿司業態が牽引する日本食レストランの成長

最後に、世界全体での日本食レストランの店舗数の着実な増加を挙げたい。2020-2021年は世界の外食産業にとってコロナ禍による試練の連続であったが、そんな中でも日本食レストランの店舗数は農林水産省の推計によれば着実に増加傾向にある。

海外の日本食レストランの店舗数
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日本食レストランの増加にも様々な要因があるものの、特にコロナ禍以降においては欧米での成長が継続している点は注目に値する。そして、その推進力となっているのがテイクアウト寿司業態の成長である。欧米における消費者の健康志向の増進およびリモートワークの浸透などを背景としたテイクアウト業態の成長などが後押しし、日本の伝統的なファーストフードとしての寿司が評価されている。外食産業においてはローカライズ(現地消費者の嗜好に合わせた商品のカスタマイズ)が成功のカギとなるが、既に海外進出してから長い年月を経ている寿司という商品はローカライズが成し遂げられている。テイクアウトという時勢に乗った出店立地・店舗業態との組み合わせによって、ローカライズされた寿司が再評価を得たといえるだろう。近年、日本においても都内を中心とした駅前・駅ナカ立地での大手回転寿司チェーンによるテイクアウト寿司小型店舗の出店が目覚ましいが、欧米でも食品スーパーなどを舞台に同様の事象が起きているのである。現在、国内外で市場シェア獲得を狙った業界再編の機運も高まっており、同分野でのM&Aが活発になりつつある。

V.おわり

国際社会における日本の立ち位置が移ろう中、日本食に対する世界の視線も変化してきている。日本産食材の輸出、日本の加工商品の日常消費、テイクアウト寿司業態の成長、といったトレンドを紹介してきたが、共通するのは、かつては高級品/高価格なものであった日本食がより親しみやすい存在に変貌してきていることである。海外においては高付加価値に基づく高価格路線を追求する戦略が多い日本企業も、この商機を捉え、これまでと一味違った海外展開を検討していくことも、2023年の時流を踏まえたひとつの選択肢ではないだろうか。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

(2023.2.13)

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