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Industry Eye 第92回 建設不動産セクター

不動産における近年の富裕層ビジネストレンド

近年、不動産価格は上昇を続けているものの、他方で建築資材や人件費の高騰に伴う建設工事価格も上昇を続けており、不動産価値上昇に見合った収益が得にくい事業環境となっている。そのような中、コロナ禍を経た新たなトレンドとして、富裕層に向けた多様なサービス展開が注目されており、そのポイントについて解説する。

はじめに

近年、不動産価格は上昇を続けているものの、他方で建築資材や人件費の高騰に伴う建設工事価格も上昇を続けており、不動産価値上昇に見合った収益が得にくい事業環境となっている。そのような中、コロナ禍を経た新たなトレンドとして、富裕層に向けた多様なサービス展開が注目されている。本稿では、これらの富裕層向けサービスの現状を紹介し、今後のその可能性を探るとともに、導入に向けた手法について考察する。

富裕層向けサービスの現状

a) ホテルブランデッドレジデンスの活発化

日本国内のレジデンスは、国内企業の技術力と我が国の法規制から、どの物件も安定した品質水準を維持している。また国内大手デベロッパーが開発する分譲住宅における自社ブランドも、国内富裕層を含むユーザーからの信頼性が高く、高価格帯を維持してきていた。

他方で諸外国では北米市場を皮切りに、ホテルブランデッドレジデンス(以下、HBR)が高価格帯レジデンスとして世界的に拡大トレンドとなっている。現在では、北米が世界の35%程度のシェアを占めるのに対し、アジアは北米に次ぐ市場規模で市場全体の28%を占めている。ただし日本国内での事例は先述の通り日本のデベロッパーが高品質な物件を供給できている影響もありいまだ少なく、未成熟な分野である。

HBRが日本の高級レジデンスと大きく違うところは、ホテルライクなサービス提供という点にある。HBRはサービス提供者がホテルオペレーターになるため、基本的に「ホテルに住む」という商品コンセプトとなっている。したがって、ハウスキーピング、バレーパーキング、コンシェルジュ、朝食サービスといったホテルにおいて一般的なサービスが提供されることが多い。そのため建物としても、フィットネスやスパなど共用部が充実していることはもとより、各住戸においても、家具付きや、ランドリースペースが無いなどの物件も少なくない。またホテルと同様のクラブサービスを提供することにより、クラブライセンスを持つ一定層のメンバーとのコミュニティを形成することも行われている。

これらHBRのサービスはこれまでの国内の高級レジデンスとは異なるものであり、グローバルスタンダードの高品質なサービスやコミュニティを期待する層から注目されるアセットとなってきている。
 

b) コンドミニアムホテルの活況

旅行客数がコロナ禍以前の水準を上回るレベルにまで回復しており、それに伴い宿泊事業投資も活況となっている。コロナ禍中はよりパーソナルな旅行が好まれたことから、小規模高単価型の所謂スモールラグジュアリー型のホテルが活況となったが、最近ではそのパーソナルな空間に対する指向の延長から、「所有感」に対する期待も高まっている。これまでも会員制ホテルといった事業投資と施設利用を一体的に提供する宿泊事業は存在していたが、先述のパーソナルな空間形成を期待するトレンドから、レジデンスに近い居住性が求められることとなり、その結果マンションデベロッパー等の参入が加速している状況にある。コンドミニアムホテルは、マンションデベロッパーが得意とする分譲モデルと、マスターリース※ によるオーナーの非利用期間に対する収益還元を組み合わせることで、新たな事業投資と施設利用を提供するスキームとなっている。

またコンドミニアムホテルは居住性を重視する傾向から、一般のホテルに対して客室面積が広く、その影響からADRが高く設定されるうえ、ホテルとして運営されることから結果的にHBRに近い事業形態となり、ターゲットが重複してくる。現にコンドミニアムホテルとHBRを併用して提供する事業者も少なくない。

※マスターリース:不動産所有者から当該不動産を一括して賃貸し、その賃借人が実際の賃借人に転貸することを目的とした賃貸借契約

富裕層の関わり方に応じた分析

a) 利用者としての視点

利用者の期待値として主なポイントは「ウェットなコミュニケーション」である。同様のホテルオペレーターがサービス提供を行う一般的な宿泊施設と大きく異なる点として、利用者が継続的・固定的であることが挙げられる。特に分譲型のHBRやコンドミニアムホテルは、利用者=投資家となるため、施設側との接点が多くなる。加えて身の回りの世話を一手に行うホテル型のサービス提供を行うことから、必然的により頻度が高く密なコミュニケーションが期待されることとなる。特に一般的な高級レジデンスではなくHBRを指向する利用者や、通常のホテルではなくコンドミニアムホテルを指向する利用者は、こういった施設側との接点を期待して利用することが想定される。結果として利用者に対するホスピタリティが施設の価値基準ともなってくる。
 

b) 投資家としての視点

分譲型HBRは先述の通りであるが、賃貸型のHBRにおいては、高い競争力が投資家からの期待指標となっている。HBRは周辺における同様のレジデンスと比して、30%から100%を超える価格プレミアムが付くといった結果も出ており、高収益が期待できる投資物件との見方ができる。またHBRの中にはリノベーション型の物件も存在しており、投資家側の裁量によるリノベーションやオペレーション変更により飛躍的な収益向上も期待できるアセットであることも、関心が寄せられる要因となっていると考えられる。

他方でコンドミニアムホテルは、小口化によるホテルアセット所有を可能とすることに期待が寄せられている。日本のホテルマーケットは世界的にも注目されており、海外投資家からの引き合いも多く寄せられている。ただしホテルアセットの流通量は限定的であるため、期待値に対して供給量が足りていない状況にある。コンドミニアムホテルはこの状況に対し、小口化により流通量を増やし投資家の期待充足を図るほか、ホテル事業者に対し運用を任せることにより、ホテル経営の状況もモニタリングすることができ、ホテルアセットに関心を寄せる投資家層に対するエントリーモデルとして適した商品と考えられているのだろう。

事業検討におけるポイント

HBRがこれまで日本に普及しにくかった要因の一つとして、我が国の法規制による点が考えられる。諸外国におけるHBRは非利用時にホテルとして稼働させるレンタルプログラムをサービスとして提供し、所有者の収益に還元させる仕組みがある。ただし日本においては、HBRをホテルとして外部貸出を行う場合、民泊の扱いとなり外部利用の日数制限が発生する。したがってレンタルプログラムとの併用には制限がかかるため、居住を重視したHBRとして検討することが求められる。その点では、より開発エリアの選択や購入者層のターゲットの絞り込みが重要となってくる。

またコンドミニアムホテルにおいては、先述する会員制ホテルとの違いとして、区分所有として実際に不動産を取得・所有することが挙げられる。これは一定の流動性がありマスターリースで運用されているとはいえ、不動産を現物で所有し所有者リスクを少なからず負うことに他ならない。逆の立場に立てば、運営者は所有者の抱えるリスクをできるだけ解消できるよう運用していく必要がある。特にコンドミニアムホテルの場合リゾートエリアに開発されることも多く、必然的に所有者が遠方にいたり、場合によっては海外から投資されていることもあり、結果的にコミュニケーションを円滑に行うことが重要になる。つまりリスク認識があることと同時に施設運営への理解と一定の関与ができるターゲットが期待される。

いずれの場合においても、富裕層という限定されたマーケットの中で、より絞り込んだターゲティングが必要となってくる。これらの事業は、ポテンシャルが期待できるものではあるが、まだ日本においても成長途上であるため、より入念なマーケット調査とフィージビリティスタディが必要な事業でもある。

おわりに

今後、我が国の不動産マーケットでは、富裕層に対するサービス検討は不動産事業における事業性向上において、避けては通れないものとなってくると考えられる。事業構造の変革や新たな収益要素を付加することで新たな局面を迎える不動産事業に対し、当社もその発展へ寄与できることを強く願う。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インフラ公共セクターアドバイザリー/不動産アドバイザリー
パートナー 後藤 佑介

(2024.10.15)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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