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M&Aにおける人事コンサルタントの活用方法

M&A人事 第11回

本稿では、M&Aにおいてどのようなシーンで、人事コンサルタントを外部アドバイザーとして活用すべきか、また外部アドバイザーとして人事コンサルタントを選定する際の観点や考え方を提示し、今後のM&Aの際に参考として頂きたい。

これまで10回にわたって、グローバルM&Aに関連する人事領域について種々のトピックを見てきた。日本でも、M&Aは事業戦略の実現のための手段として、既に当たり前のものと位置づけられるようになっているが、M&A実施においての組織・人事に関する課題を抱えている企業も少なくない。

日本CFO協会1の調査では、M&A経験が浅い企業では、買収後の組織設計・管理や、従業員モチベーションの低下・キーパーソンの外部流出等といった「組織・人」に関する課題を抱えていることが多いという。ビジネスや財務・法務アドバイザーはさまざまなディールで起用されるが、組織・人事に関連するコンサルティングファームの活用は他のアドバイザーと比較すると多くはない。コンサルティングファームは万能ではないものの、活用をしていれば防げたはずの課題も多くあることも事実であろう。

そこで本稿においては、M&Aにおいてどのようなシーンで、人事コンサルタントを外部アドバイザーとして活用すべきか、また外部アドバイザーとして人事コンサルタントを選定する際の観点や考え方を提示し、今後のM&Aの際に参考として頂きたい。

そもそもM&Aにおいて、組織・人事に関連する事柄を人事コンサルタントに依頼する必要があるのだろうか。読者の多くは、このように思われるかもしれない。なぜなら組織・人事は、通常の事業運営を行っていくうえで必須の事項であるため、現状の経営陣や人事部でも、「ある程度のことはできている」、もしくは「何とかなる」と考えている方が多いからである。しかしながら私たちは、これまで数多くのM&A人事に関するプロジェクトをご支援してきた経験から、「大半の企業においては、人事部だけでは、M&Aにおける人事上の課題に適切に対応することは難しい」と考えている。その理由について、以下で述べていきたい。
 

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1 「海外M&Aにおけるポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)に係る課題抽出のためのアンケート調査」日本CFO協会 

人事コンサルタントを活用する3つのシーン

M&Aにおける人事上の課題に適切に対応するためには、(1)人事部門における十分なリソース、(2)各国の人事慣行・法制度あるいはM&A全般に関する知見や対応力、(3)自社内の意思決定プロセスを効果的に進めるための調整力あるいは推進力の3点が重要となる。一方でいずれも人事部門が獲得するにはハードルが高く、全てを兼ね備えた人事部というのは、世界を見渡してもそう多くない。裏を返せば、以下3つのいずれかを埋め合わせるために、人事コンサルタントが外部アドバイザーとして活用されている。それぞれを具体的に見てみよう。

シーン1. 自社のリソース不足
シーン2. 自社の知見不足(対象国の法制度・労働慣行やM&Aに関するノウハウ不足)
シーン3. 自社内での連携不足

 

シーン1. 自社のリソース不足

人事コンサルタントを活用する際の最も大きな理由が、自社のリソース不足である。ここでのリソース不足とは、人事部の手が足りない場合という意味での工数不足を指している。

人事に係る工数不足は、デューデリジェンスからPMI(Post Merger Integration:買収成立後の統合プロセス)にわたり、M&Aの至るところで生じる。例えば、社内での厳格な情報統制により十分なリソースが確保できない、通常業務との兼務で必要な時間が割けない等の理由により、満足なリソースが得られないケースが典型例である。特に日系企業では、管理職クラスまでが日常業務に忙殺されており、M&Aのような突発的なイベントに対応する人材を抱えていない企業も多い。また、M&Aで求められるスピード感は、一般的な日系企業の人事が遂行している仕事のスピード感とは異なるため、タイムリーな業務遂行が難しいケースも多く見受けられる。

人事のリソースが十分でない場合、経営企画部門や事業部門が人事領域の業務を遂行するケースもあろう。しかしながら、人事業務の大半が人事部内で完結している日系企業においては、非人事部門のメンバーが人事業務について正しく理解することは難しい。こうした状況では、「M&A人事」の領域をカバーできる外部のコンサルタントを起用するケースが多い。

上記以外にも、人事部門が全般的な人事業務は理解しているものの、個別のテーマ(報酬制度、福利厚生、人事サービス等)については理解していない、というケースも見受けられる。こうした状況は単純なリソース不足というよりも、特定領域の知見や専門性の欠如と言える。本事例については、次のパートで詳しく見ていく。


シーン2. 自社の知見不足(対象国の法制度・労働慣行やM&Aに関するノウハウ不足)

自社の知見不足とは、M&A人事という特殊な領域に関する知見を、自社の人事部門もしくは経営企画部門等が十分に有していないことを指している。これまで10回にわたり議論を尽くしてきたが、人事領域は、“イシューフリーDay1”の実現ならびにその後のバリューアップ(対象企業、ひいては自社グループの付加価値向上)の実現に向けて極めて重要である。例えば、Day1に向けて対象従業員の転籍手続きを遂行する、継続されない福利厚生制度や人事サービスを新たに構築する、経営幹部の報酬や適切なKPIの設定など、検討すべき論点は多岐にわたる。こうした論点を検討し解決に導くという技術は、日常業務の遂行に大半のリソースを割く日系企業の人事パーソンのスキルセットとそもそも一致しておらず、社内に適切な人材がいないというケースは驚くほど多い。

海外の企業でも、幅広い人事関連のテーマ全てを自社内で解決するリソースがなく、外部のアドバイザーを起用するケースは多い。とりわけ、自国が事業を展開する各地域で人事のリソースを抱えていない場合、例えば、米国企業がこれまで進出していなかった日本の企業を買収する場合等においては、先進的な米国企業ですら、日本のコンサルティングファームへ人事アドバイザリー業務を委託する。日系企業と比べて海外の企業の方が自社に足りないリソースが何なのかを的確に把握しており、不足するスキルセットを補完すべく、外部のアドバイザーを効果的に活用していると感じる。

日系企業が人事領域における外部アドバイザーを起用する際に、補完すべきスキルとしては、以下の3点が考えられる。

第一に、対象国の法制度・労働慣行である。労働慣行は、各国が歩んできた歴史や、その中で培われてきた労働法体系に大きく依存する。とりわけ、労使関係(労働組合や労使協議会等の枠組み)や社会保障・福利厚生については、国ごとに状況が異なるため、トラブルを未然に防止する観点から、現地の法制度・労働慣行を正しく理解するアドバイザーの起用が不可欠と言える。

第二に、M&Aのプロセスに関する知見である。M&Aには一連の流れや、実施するうえでしかるべきタイミングがある。複数回のM&Aを実施されている企業の方はご理解頂けるだろうが、「人」を扱うM&A人事の場合、各施策には、「旬」がある。例えば、人材のリテンション(引き留め)や従業員コミュニケーションなどはその典型例である。これらのタイミングと準備すべき事項について、適切に行う必要があるのだが、これらに精通した企業の担当者は、経営企画部門や人事部門のメンバー内にそうないのが、我々の実感値である。

第三に、コミュニケーションの問題である。これは、単なる「英語力」の問題に留まらない。二点目とも関連するが、M&Aの流れの中では、特有のDo’s / Don’ts(やるべきこと、やってはいけない事)がルールとして存在する。M&Aの慣行を踏まえたうえで、母国語とは異なる言語を駆使して、人事関連のトピックを売り手や対象会社と議論するのは至難の業である。人事はセンシティブな内容が多く、専門用語も数多くあるため、通訳を起用しても、なかなか思い通りに意図が伝わらないケースが少なくない。経験値の高いコンサルティングファームの中には、M&A人事の勘所をわきまえている者を数多く抱えるファーム、グローバルで連携してあらゆる国・ディールケースに対応できるファームもあり、スムーズなコミュニケーションの遂行という観点からも、外部アドバイザーの起用は想定以上の価値をもたらすであろう。

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2 対象会社がDay1を迎えるにあたり、事業運営上必要となる手当が適切に行われており、大きな問題なく迎えることができる状態のこと

 
シーン3. 自社内での連携不足

(人事コンサルタント活用に限らないが)特に大規模なディールにおいて、社内の各機能間での連携やコミュニケーションがスムーズでない場合にも、外部アドバイザーとして人事コンサルタントを活用するケースが多い。具体的な例を見てみよう。買収対象の会社が大規模なディールの場合、PMIでは経営企画部門が全体を統括するPMO(Project Management Office)を担当し、その下に各分科会(例:人事総務・経理財務、購買、開発、営業等)が形成され買収後の統合作業を推進していく。

この際、ステアリングコミッティー(経営レベルでの意思決定会議)や各分科会で、さまざまな項目に関して定期的に検討を行っていくのだが、規模が大きい場合、複数の機能にまたがる検討事項が、PMOおよび各分科会同士での連携がスムーズに行われないケースが発生する。外部アドバイザーは、PMOおよび各分科会でのサポートを行っているため、外部アドバイザー経由で情報を吸い上げ、ステアリングコミッティーで検討すべき項目や情報の整理等を実施する。社内のメンバーでは難しい調整や意見の吸い上げ等を外部アドバイザーが支援するイメージと捉えて頂ければよいだろう。

どのような人事コンサルタントを選ぶべきか?

M&A領域を専門に扱う人事コンサルタントは近年増えてきているが、その中でも相応のスペシャリティを持っている人事コンサルティングファームは、かなり限定される。ここでは、自社が人事コンサルタントを活用する場合、どのような企業を選ぶべきか、僭越ながら当社の優位性や強みも踏まえながら、図に記載した5つの観点をご紹介したい。

また外部アドバイザーとしての人事コンサルタントを選定する際には、各項目で例示した質問を投げかけることをお勧めしたい。いずれのファームも「十分な経験を有している」という回答があるだろうが、各社ごとにそのニュアンスは異なるだろう。それらの反応を総合的に踏まえ、最終的な人事コンサルタントを選定・活用することをお勧めする。
 

図表1:M&A人事におけるデロイトの強み
※クリックして画像を拡大表示できます。

<M&A人事コンサルタントを選定する際の5つの観点>

(1) プロセスマネジメント
(2) グローバル対応力
(3) 日本本社への対応力
(4) 人事領域における専門性
(5) 一気通貫の支援


(1)プロセスマネジメント

近年M&A人事の領域を手掛けるコンサルティングファームは、当社をはじめとするBig4系やブティックと呼ばれる人事コンサルティングファーム等、さまざまなプレーヤーが存在する。近年のM&Aの増加に伴って、それを支援する当社も豊富なM&A経験を有しており、業界やディールの形態に関わらず、柔軟な対応を行うことが可能である。

M&Aの実施主体である各企業でも、専門チームを有する企業が少しずつ増加している。とはいえ、大半の企業では、M&Aは頻繁に実施するものではなく、専門チームを抱えるほどでもない。このため、自社で実施する場合には、M&A独特のプロセスや進め方等に不慣れである場合が多く、自社だけではやはり心もとないという企業も多いだろう。

M&Aは、個別事象の積み重ねであり、時々刻々と状況が変化していく。そのようななかで当社は、柔軟かつ実行可能性の高い「現場感」のある施策を考え抜いたうえで、最後までやり切ることを重視しており、特にPMOや事務局がうまく機能しないケースにおいては、お役立ちできるものと考えている。

コンサルタント選定の質問例
「貴社では、このようなディールについて、何件程度手がけたことがありますか?」
「貴社では、当社の業界に関するディールを経験されたことはありますか?」
「このようなディールを推進していくにあたり、どういったことが実施上の障害となりますか?」



(2)グローバル対応力

当社および多くのコンサルティングファームでは、日本語・英語のみならず、中国語・ドイツ語等、他の言語での対応が可能である。海外企業のM&Aが当たり前となった現在、クライアント企業内でも、複数の言語を扱うことができる担当者は増えているが、それでもなお、クライアントサポートの一環として、コンサルティングファームに言語面およびそのコミュニケーション支援を期待する企業は多い。また前述の通り、言語と専門性を兼ね備えた人材は、特に人事領域では未だ数が限られており、コンサルティングファームを活用する余地は大きいと言える。なお、国内企業向けのM&Aを専門に手掛けている企業の場合、言語面でも対応は難しい可能性があるので、その点は予め留意しておく必要がある。

コンサルタント選定の質問例
「貴社では、英語(もしくは他の言語)でのディール対応は問題ないでしょうか?」
「グローバルM&Aに関して、今回関与されるコンサルタントはどの程度経験をお持ちですか?」


(3)日本本社への対応力
外資系コンサルティングファームの場合、海外(例えば買収先の国にある子会社等)からの意向が強く反映され、日本本社の意図が適切に伝わらない等、コミュニケーションが後手に回るケースがある。当社の場合、日本を基盤にしたメンバーを有しており、日本本社の意図をくみ取りながら、各国と情報共有を行っていくことを旨としている。このため、必要に応じて本社としての考えを、海外のファームにしっかりと伝えながらディールを推進することが可能となる。

コンサルタント選定の質問例
「日本本社と海外子会社との連携に関するサポートも実施して頂くことはできますか?」



(4)人事領域における専門性

M&A人事に関して、クライアント企業から最も期待されているのは、当然人事領域における専門性の高さである。自社では、各国の人事労務に関する法令や労働慣行に関して知見やノウハウがないケースも多い。当社は、日本最大級のM&A人事の専門家を有していることに加え、各業界別に専門のコンサルタントを有している。このため、ディールを推進する際には、当該事業の専門家と協働で、人事領域に関しても支援を行うことが可能である点が、当社の特徴である。

また、M&A人事の専門性もさることながら、さまざまな人事領域のコンサルティング経験を有しており、その件数・規模は日本でトップクラスである。このため単に人事制度統合やリテンションといったM&A関連の人事対応のみならず、M&A後の事業構造改革や要員・人件費構造の変革、組織デザインの見直し、HR Technologyを活用したグローバルでの人事システムの統一、働き方改革等、さまざまな領域の支援も可能である点が他のコンサルティングファームとは異なっていると自負している。一方、人事専門のコンサルティングファームの場合、人事部門向けのアドバイスは優れているものの、事業創造の観点からの組織・人事に関するアドバイスや、他機能との連携も踏まえた観点でのアドバイスが抜け落ちるケースもある。M&Aという局面においては、人事の各論に陥ることなく、M&Aの成功という目標に向かって、自社の事業全体からアドバイスができる人事コンサルタントを選定することが望ましいだろう。

コンサルタント選定の質問例
「当該事業特有の人事課題として、どのようなものが想定されますか?また当社としてどのようにそれを解決していくべきとお考えですか?」
「M&A後、買収先の企業および当社では、人事・組織およびそれに関連するインフラについて、どのようにするべきか、現時点での仮説を教えてください」
「貴社では、M&A人事領域以外に、他の人事領域の観点からもアドバイスが可能ですか?」



(5)一気通貫の支援

M&Aでは、ターゲット企業に関するビジネス面だけではなく、財務・会計・法務・人事・IT等、さまざまな専門的知見が必要となるが、M&Aのゴールに向かって有機的に連携する必要がある。当社では、上記のような多様な専門家を有しており、かつ当社として一体でクライアント企業を支援することが可能だ。また、さまざまなアドバイザーとの調整が煩わしいと考えるクライアント企業もあり、そのような調整を当社が担うことで、クライアント企業のコミュニケーション負荷を低減するサポートも行っている。

コンサルタント選定の質問例
「貴社の人事コンサルタントは、財務や法務アドバイザーとどのように連携を行う予定ですか?当社がアドバイザー間のコミュニケーションにどの程度関与する必要があるとお考えですか?」
「人事領域以外に、ビジネス・財務・会計・税務・法務・IT等、貴社がアドバイス可能な領域について、ご教示ください」

 

まとめ

以上のように、M&Aにおいて人事コンサルタントを活用する場合には、単に人事領域に強いだけではなく、対象会社の事業を理解したうえで、ビジネス・財務・会計・税務・法務・IT等の各機能と有機的に連携できるアドバイザーを選定することが重要である。冒頭に申し上げたとおり、外部アドバイザーとしてのコンサルタントは万能ではない。しかし、ディールを成功させるためには、コンサルタントの知見が有益となることもまた事実であり、それらを提供できるだけのスペシャリティと実行力を持つコンサルタントを活用すれば、その分だけディールの成功率を高めることができるだろう。

余談ではあるが、PMIの途中段階で「自社内では対処することができない」と判断され、人事コンサルタントにお声を掛けて頂くケースがある。既にさまざまな検討を途中まで進めてはいるが、微細な項目を何度も検討していたり、検討論点の抜け漏れがある等、コンサルタントの立場としては「もう少し早い段階から関与できれば」と思うケースが散見される。費用面で折り合いがつくかどうかは別にして、まずはコンサルタントに声を掛け、話を聞いてみるということをお勧めしたい。

本稿が、M&Aにおいて人事コンサルタントを有効に活用するための参考となれば幸いである。

以上 


本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。 

執筆者

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
マネージャー 上林 俊介
シニアコンサルタント 淺井 優


(2017.1.25)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。 

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