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ミドルマーケットのM&A事情 第2回 社長の葛藤

「経営者」であり「株主」でもある社長の意思決定

社長が株主も兼ねるオーナー企業の事業承継においてはさまざまな選択肢がありますが、時には株主という立場における利益の最大化は、経営者としての会社の利益と相反する場合もあり、その意思決定において葛藤が生じる場合も少なくありません。本稿では、事業承継におけるオーナー社長の選択肢と主な3つの葛藤、その意思決定について解説します。

I.はじめに

どんなにすばらしい経営者であっても、人間である限り共通して背負っている宿命がある。すなわち人間には寿命があり、時の経過と共に老化し最終的にはこの世を去らざるを得ないということである。オーナー社長であれば自分の会社が将来どうなっていくかについては非常に関心があり、日頃から色々と思索を巡らせているものと思料する。その内容にオーナー社長から次世代へのバトンタッチや、その際に伝えたい理念や理想は入っているだろうか。自分が存在しないことを前提とするため想像しにくい内容であるのに加え、現状では問題も無く「まだまだやれる」と日々の業務に集中し、後回しにされている方も多いかもしれない。

 

II.オーナー社長の選択肢と3つの葛藤

オーナー社長の場合は特に言えるが、社内でのカリスマ性が高く、周りからは意見を切り出しにくい雰囲気があるため、オーナー自身の判断で自主的に20年・30年先を見据えた施策を打っていくことが好ましい。ここにオーナー社長として最初の葛藤・決断すべきポイントが現れる。すなわち自らの進退、世代交代への決断である。20年・30年先というのは今から見るとかなり先のことに思えるかもしれないが、20年前を振り返ると昨日のことのように鮮明に思い起こせる方も多いだろうと思う。20年後のことは詳細まで分からないが、20年という時間が経てば乳児も成人となり、自分の年齢にもその年月が当然加算される。寿命の限り現場に生き、現場で斃れるのは本望かもしれない。しかし、残される人間からすると可能であれば事前に準備をしておいて欲しいというのが本音であろう。自らの進退に切迫感がない場合には、やらなければならないと思いながらも逡巡してずるずると先延ばしにしてしまいがちだが、そうこうしているうちに時間がなくなってしまう。自分自身に何かあったときには、資産の売却などで買い手に足許を見られてしまうなど、あまり良い結果にはならない事例が多くみられた。自身の進退のゴールを設定し、逆算して現時点で何をすべきか検討する必要がある。

人の親なら家業をわが子に継いでもらいたいという思いはよく理解できる。ここに2番目の葛藤が存在する。親族が後継者となれば血族としての正統性もあることから周囲にも納得されやすい。またその場合には、帝王学として資産の継承と同時に後継者として幼少期より教育することも可能になる。ただし対象会社の経営が困難であり、あえて自分の子供に承継させたくない場合や、オーナーに子供がいても事業に興味がない場合、独自の道を歩みたいと子供自身が思っている場合、また少子化などに伴いそもそもオーナーの子供が存在しないという場合などにおいては、親族外の誰かが承継する(=株を手放す)か、廃業・清算するという決断に悩むことになる。

社員の雇用の維持を考えれば、廃業や清算の選択肢は取りにくいのが現実であり、企業が活動を停止してしまうことは社会的にも損失となる。そのような場合に親族外承継は、事業承継における切り札となり得る。親族外承継における後継者については会社の内部、すなわち経営陣や社員、あるいは以前より取引のある取引先や銀行から人材を招聘することもあるかもしれない。諸々事情に明るい「番頭さん」が後を継いでくれれば、きちんと今後も従前通り問題なく仕事が回っていくものと安心できよう。さらに近年ではM&Aを通じて社外の法人に株式を譲渡することも一般的となってきた。譲受先も従前は事業会社が主流だったものが投資ファンドのような金融投資家も市民権を得てきている。
 

図表1 オーナー社長の選択肢
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なお、戦前の日本とは異なり、現在は兄弟にも平等に権利を認めるという遺留分の仕組みがあるため、何も策を講じない場合には、物理学におけるエントロピー増大の如く株式の持分は代を経るごとに分散し、株主の増加に伴い、企業の意思決定上で混乱が生じることも想定される。特に中小企業の場合では、経営権を株式という形で集約して承継させたほうが、その後の経営がスムーズに行われる可能性は高い。ただし、ここにオーナー社長の三番目の葛藤が生じる。すなわち譲渡する側の株主としては株価が高い方が好ましいが、会社の経営上は後継者あるいは買い取り先の企業が高値で株式を引き取ると資金調達上の問題が発生し、それが会社へ波及することもあるため、株価は低い方が良く、オーナー社長個人として株式譲渡からの利益獲得をどの程度優先するかという決断に悩むことになる。

会社法上では上記のような場合においてはオーナー社長を取締役会の議決に参加ができなくなる「特別な利害関係を有する取締役」とすることにより対応している(会社法369条2)。この特別利害関係を有する取締役は、その決議事項について、議決に加わることができないだけでなく、取締役会の場において意見を述べることができない。この場合は事前に他の取締役との合意形成が重要となる。

III. おわりに

経営権を表した有価証券である株式の承継は大事であるが、あくまでハードウェアとしての資産の承継に関する事項と位置付けられる。株式を引き継ぐことは会社を承継するうえでの必要条件の一つにすぎず、今後その会社をいかにうまく経営するかということは別問題となる。税務的な効率を追求し、ハード面での承継のみを考えた事業承継は、「仏像作って魂入れず」のことわざ通りになりかねない。会社の中核となる経営理念などのソフトウェアの部分を含めて世代を超えて脈々と受け継がせる、それが事業承継の真の目的であると言える。また自らの節税対策を熱心に行うあまり、会社の経営幹部やこれまで会社を支持してきた既存外部株主に対して迷惑をかけるようなことがあっては本末転倒である。経営幹部や既存外部株主も、当然世代交代が必要であり、その影響についても検討に含める必要がある。

経営者として身を引いたとしても、会社には寿命は無いためその志は会社という器の中に生き続けることになる。そのためには諸々葛藤を打ち破り、オーナー社長の頭の中にある理念といった中核の部分はしっかり後世へ引き継ぎ、事業環境の変化やテクノロジーの進化等にしっかりとキャッチアップし、さらなる成長のための布石を打ちながら経営を進めていくことが重要といえよう。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
プライベートエクイティ担当 
シニアヴァイスプレジデント 永松 博幸

(2018.3.22)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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