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小田原城址公園の社会的価値分析

文化財(国指定史跡)の価値の可視化に関するレポート

文化財の社会的価値(Social Value)を明らかにすることが、対象の適切な保存や計画的な観光利用のための方策の設定に有効と考えられます。本レポートではアンケートに基づき、小田原城址公園の社会的価値を分析しました。

日本には古来より残る史跡や美術、建造物、四季折々の美しい自然が存在し、国内外を問わず多くの人々を魅了しています。それら文化財の存在は、景観の美しさのみならず、地域への帰属意識などの側面からも価値を持ち、この社会的価値(Social Value)を明らかにすることが、対象の適切な保存や計画的な観光利用のための方策の設定に有効と考えられます。本レポートではアンケートに基づき、小田原城址公園の社会的価値を分析しました。

文化財の存在による社会的価値

日本各地に残る史跡や美術等の文化財は、各時代に創造された価値が社会的な認知を受けたことで、地域・社会にとって貴重な資産と認知されたものである。文化財はそれ自体の存在が観光等の需要創出や、地域のアイデンティティとなる等目に見えない価値をもたらしている。文化財のもたらす価値は経済波及効果と、その他の見えない価値である社会的価値(利用価値・非利用価値)と整理できる。

経済波及効果

経済波及効果とは、対象の財が存在することである産業の需要が新たに発生することにより、周辺産業に生産を誘発する効果である。例えば、文化財がそこに存在することにより、観光需要が生まれ、観光客の来訪による交通需要や宿泊、飲食の需要が生まれること等が例として挙げられる。

社会的価値

社会的価値とは、対象の財の存在や、財を中心とした経済活動を通じて、地域や他産業などのステークホルダーに対してもたらされる公益的価値と定義される。例えば、対象の財の存在が地域のシンボルとして、住民のアイデンティティを形成している場合、地域に価値をもたらしていると考えることができる。社会的価値はその性質により利用価値・非利用価値に大きく分類することができる。利用価値はその財を直接・間接的に利用することにより得られる価値であり、例えば文化財への入場や鑑賞が挙げられる。非利用価値は、存在するという情報や後世に残すことにより得られる価値であり、上述した地域住民のアイデンティティへの貢献や、歴史的な建物の保存が挙げられる。

図1:受益者と効果・価値の2軸からなる社会的価値のマップ
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小田原城址公園の社会的価値分析結果サマリー

本件分析結果のサマリーは以下の通り。
 

経済波及効果

経済波及効果は、小田原城址公園での経済活動(観光、催事、運営・管理)に関する創出需要の及ぼす効果を神奈川県の産業連関表を用いて分析した。結果、小田原城址公園での創出需要による1年間の経済波及効果は約200億円、雇用効果は約2,360名と分析された。これは小田原市に事務所や工場が存在する企業等の雇用者数や売上規模および小田原城址公園の運営コストと比較して同等あるいはそれ以上の経済効果を地域に創出していることとなる。

図2:小田原城址公園の経済波及効果
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社会的価値

社会的価値は、小田原城址公園に関するアンケートの結果は統計モデルを用いて分析し、小田原城址公園の存在に対する支払意志額を推定することで分析した。結果、小田原市・県西地域・湘南西地域の3地域における社会的価値は合計570億円、訪問者の社会的価値は95億円と分析され、大半は非利用価値と分析された。算出された支払意志額は、現在(2021年10月時点)の小田原城天守閣への入場料を上回っており、訪問者や地域住民が入場料以上の価値を小田原城址公園に感じていることがわかる。

また、アンケート回答結果によると、近隣住民が地域のアイデンティティ・ランドマークとしての価値を見出していること、また歴史的価値を見出していることが社会的価値の源泉と考えられる。

図3:小田原城址公園の社会的価値
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