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アウトバウンド取引

ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー

ファイナンシャルアドバイザリーに関わる用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「アウトバウンド取引」について解説します。

1. 近年におけるアウトバウンド取引の概要

買収企業と被買収企業の国籍が異なるクロスボーダーM&A取引のうち、買収企業が日本企業となるM&A取引をアウトバウンド取引(In-Out取引)という。2008年のリーマンショック以降、日本企業が実行するM&A取引は、全体的に減少傾向にあるが、その中でアウトバウンド取引は、その案件数を伸ばしている。2011年9月現在において、M&A取引全体の件数ベースでは約25%、金額ベースでは約50%以上をアウトバウンド取引が占めるまでに拡大し、日本のM&A市場において、大きな存在感を持つまでに至っている(「図表1~3」を参照のこと)。これは、日本においては、少子高齢化による人口減少や消費・産業構成の変化などを背景に低成長が続く中、海外市場(特に新興国)は、生産国という立場から消費国へと変貌を遂げ、高い経済成長を継続的に達成していることが大きく影響している。いち早く海外の成長市場に参入するためには、既に現地で営業インフラを持った企業をM&Aにより取り込む方が、時間を短縮でき、新規展開に伴う様々なリスクを軽減することができるためである。また、昨今の円高による買収価格の割安感も日本企業がアウトバウンド取引を検討する追い風となっていると言える。 

日本企業が実行したM&A取引の推移(件数ベース)

日本企業が実行したM&A取引の推移(金額ベース)

日本企業が実行したアウトバウンド取引の推移(件数・金額)

2. アウトバウンド取引の類型と留意点

近年のアウトバウンド取引を目的別に分類すると概ね3つのタイプに分けることができる。
1. 内需型企業による海外進出を目的としたM&A取引
2. 主に事業強化(開発力・技術力の獲得等)を目的としたM&A取引
3. エネルギー・鉱物資源の確保を目的としたM&A取引

また、アウトバウンド取引の大部分が、大企業によるものであったが、中堅・新興企業によるケースも散見されるようになってきており、業種においても、人材、教育関連企業が買収ターゲットとなるケースなど、従前に比べ多岐に亘る傾向が見受けられる。

実際に海外企業とM&A交渉を行う場合、買収までの基本的な手続きは、ターゲット企業の選定、デューデリジェンス、交渉など大まかな作業内容でみる限り、国内取引とそれほど大きな違いはない。

しかしながら、制度や文化的背景などが異なることを踏まえて、留意すべき点がある。まず、ターゲット企業の選定においては、可能な限り現地特有のカントリーリスクやオペレーションリスクを考慮することが重要である。新興国ではストライキやデモ等が発生する可能性は日本に比べて高く、いったん起きると事業継続に深刻な影響を与えることもある。

次に、ターゲット企業との交渉に際しては、海外企業とのM&Aおよび現地の制度に知見を有する専門家(フィナンシャルアドバイザー、弁護士、会計士等)を利用すると共に、事前準備、プロジェクトマネジメントを十分に行うことが重要である。例えば、買収に必要な手続が一つ追加される程度であっても、対象国が複数に跨れば、時間およびコストの想定外のロスになる場合もある。

最後に、全般を通じて言えることだが、現地のビジネスに精通した人材を確保することも重要である。これは、ターゲット企業の検討、交渉およびその後のPMIプロセスにおいて、上述の専門家だけでは対応しにくい、現地の実情に即したアドバイスや人脈の紹介などが得られることがあるためである。 

3. 今後の動向

現在、欧州債務問題など、世界的な景気の先行きに不透明感が強まる状況下にあるが、その中でも新興国は、日本に比べ、今後も高い経済成長を達成していくと予想されており、日本企業による、海外の成長マーケットを獲得するためのアウトバウンド取引も一層増加していくものと考えられる(※1)。

日本企業によるアウトバウンド取引を地域別で見ると、現在、中国や東南アジア諸国での取引数の伸張が目を引く一方で、隣接国のインドは、中国の1/3程度の取引実績でしかない(※2)。同国は、世界第2位の人口を有し、高い経済成長を継続的に達成しており、かつ日本企業も多数進出していることを勘案すれば、今後のアウトバウンド取引のポテンシャルは高いものといえる。

また、中東・アフリカ地域では件数自体は現状少ないものの、南アフリカ共和国においてカーディーラー、トルコにおいて損害保険会社を日本企業が買収するケースなど、現地マーケットを獲得するためのM&Aも見受けられるようになっており、今後同地域のマーケットの成長とともに、日本企業によるアウトバウンド取引も増加していくものと考えられる。

(※1)
出典:IMF「World Economic Outlook」(September 2011) を基にデロイト トーマツ FASにて試算。2011年~2016年の名目GDP(予測値)における年平均成長率が、日本3.0%に対して、ブラジル6.0%、ロシア10.4%、インド10.4%、中国11.0%、イラン5.8%、インドネシア10.6%、エジプト8.1%、韓国7.7%、トルコ8.2%、ナイジェリア7.8%、パキスタン8.2%、バングラディッシュ8.6%、フィリピン7.3%、ベトナム11.6%、メキシコ4.9%、南アフリカ4.9%など
(※2)
出典:「MARR 2011年11月号」2010年実績ベースにおけるアウトバウンド取引より、中国42件に対してインド14件

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