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PMI(ポストマージャーインテグレーション)

ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー

ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「PMI(Post Merger Integration)」について概説します。

1. PMI(Post Merger Integration)の概要

PMI(Post Merger Integration)とは、M&A実行後において、シナジーを実現し、企業価値を向上させるための統合プロセス全体を意味する言葉である。この包括的な表現からもわかるとおり、PMIの検討範囲は、トップマネジメントによる経営ビジョンや組織文化・風土といったソフト的・定性的なものから、事業拠点の統合、クロスセル、業務プロセスの統合等、ハード的・定量的なものまで、まさに企業経営の全領域に亘るといっても過言ではない。

1本稿では、PMIについて、「デューデリジェンスとPMIの関係」、「PMIを成功に導くためのポイント」の2つの観点から概説する。なお、本文中の見解にかかわる部分はいずれも筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。
 

2. デューデリジェンス段階からのPMI準備

M&Aに外部アドバイザーとして関与する立場として、M&Aの検討段階でPMIを強く意識している会社は決して多くはないのではないかという疑問を抱くことがある。

例えば、M&Aの実行段階では、通常、相手会社に対して財務、税務、法務、ビジネス、人事、IT等の各種デューデリジェンスが行われることが一般的であるが、自社内においてM&Aの目的や想定しうるシナジー等がはっきりしていない(少なくとも外部アドバイザーには明確に伝えられていない)場合、デューデリジェンスフェーズでは一般的な調査スコープに留まってしまい、結果として統合フェーズに入ってから漸く、具体的なシナジーの実現性の分析に取り組むといった事態に陥ることは、決して珍しいことではない。

一方で、トップダウンでM&Aの目的が共有されており、M&A検討の初期段階から想定されるシナジー仮説や統合後の姿を描いている会社からは、デューデリジェンスフェーズにおいてもシナジー仮説を検証するためのより具体的な調査が要求されるものである。例えば、購買部門の統合によるコストシナジーを仮説として立案しているクライアントの場合、デューデリジェンスにおいて相手会社の購買部門の状況(調達先、購買数量および単価、業務フローおよび人員配置、等)の調査を、(その案件の状況に応じ交渉可能な範囲内で)相手会社に要求するであろう。その調査結果に基づき、自社との重複等を把握することで、コストシナジー仮説の実現可能性や課題、定量的な影響などについて検討を進めていくのである。

デューデリジェンスを単なる形式的な手続きとして捉えるのではなく、M&A実行後のPMIについて考え準備するために、相手会社から情報を引き出すことのできる貴重な機会として捉え、入念に準備することが買手企業には求められるといえるであろう。
 

3. PMIを成功に導くためのポイント(1)

PMI検討における視点やその方法論はさまざまであり、またその案件の特性に応じても千差万別であるが、PMIを成功に導くために意識しておくことが望まれるポイントを示すと以下のとおりである。

1.経営トップの強いリーダーシップ
PMIの進捗を妨げる要因はさまざまなものがあり、自社と相手会社の組織メンバーの意識が噛み合っていないことにより、それぞれの社内事情や利害に固執してしまい、遅々として統合が進まないという状況に陥ることもある。自社にとっての案件規模にもよるが、M&Aの目的をタイムリーに達成するためには、経営トップやしかるべきポジションの経営幹部によるビジョンの提示や、リーダーシップによって迅速な統合を進めていく場面が必要となることは想像に難くないであろう。

2.統合初日までに統合プランを完成させておく
M&A実行後において、早期にシナジー効果を実現するためには、M&Aが実行され統合初日(DAY1)を迎えた時点で既に実行すべき統合プランが完成しており、一気にスタートを切る状況を目指すべきである。基本合意から、デューデリジェンスを経て、最終契約締結に至るまでのM&Aの検討フェーズにおいては、得てして取引価格や最終契約の合意をゴールとして意識しがちである。しかしながら、買収した会社を適切に運営し価値を生み出すことが出来なければ意味がないことを考えれば、初期段階で立案しているべきシナジーの仮説をデューデリジェンスを通じて検証するとともに、統合フェーズにおける各種のチャレンジを見据えたうえで最終契約締結の意思決定を行うべきである。また、契約締結からクロージングまでの期間においては、各組織レベルで実行可能なレベルにまで詳細に落としこまれた統合プランを、できるだけ早期に策定していくことも重要なタスクである。
統合プランには実行の成否を判断し必要なアクションをとるためにも、適切なKPI(重要業績評価指標、前述の例に従い購買部門の統合で例示すると、平均購買単価、購買先数、購買部門一人当たり売上高、等)を組み込んでおくことが望ましい。これらKPIを企業価値評価の際のバリュエーションモデルに織り込んでおくことができれば更に理想的である。PMIという言葉自体からはM&A実行後の概念として捉えられがちかもしれないが、むしろM&Aプロセス全体を通じたPDCA(plan-do-check-act cycle)サイクルに取り入れるべき概念としてPMIを捉えるべきとも考えられるのではないだろうか。

 

3. PMIを成功に導くためのポイント(2)

3.十分な人材を確保しておく
PMIフェーズにおいて早期にシナジー効果を実現するためには、相手会社の主体性にのみ任せるのではなく、自社の人材と時間を十分に投じることを見据えておく必要がある。例えば、前述の例と同様に購買部門の統合によるコストシナジーについて考えてみると、(1)自社と相手会社における購買実績(仕入先別、購買内容別、数量および単価データ別)の分析と両社間での重複等の把握、(2)分析結果に基づくコストシナジーの基本戦略の立案(購買先や購買物品の集約、ボリュームディスカウントの交渉、購買部門の業務効率化、等)、(3)基本戦略に基づく新購買組織の立ち上げとタスクの割り当て、(4)現状業務を維持しつつ基本戦略を実現するための詳細な統合プランの実行、といった複雑なプロセスを相手会社と自社のメンバーで協力しあいながら短期間で実行していく必要がある。購買部門の統合ひとつとってみてもわかるとおり、PMIに必要な労力は通常の業務とは比べ物にならないほど膨大であり、自社の優秀な人材をPMIフェーズにおいて惜しみなく投入することがM&Aの成功には不可欠であるといっても過言ではないであろう。

繰り返しとなるが、M&Aを成功させるためには、PMIの重要性を経営トップが認識し、自社、外部アドバイザー、相手会社をも巻き込んだ十分な人材で、常に前倒しの準備を行っていくことが重要であろう。

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