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世界のM&A事情 ~ブラジル~

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員から、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。今回はブラジルです。

ブラジルのM&Aマーケットの特徴

この数年間、ブラジルは年間800件を超えるM&A取引(公表された成立案件ベース)があり、その件数は中南米地域において突出している。同国のM&Aはディール・ブレークが非常に多いことを考慮すれば、相当数のトランザクションが水面下で動いていることが想像できる。金額ベースで言うと、同国のM&A取引は2億レアル未満のいわゆるスモールマーケットが主流であり、対象会社は非公開の同族オーナー系企業が多いのが特徴である。対象業種については、直近で上位を占めるのが情報テクノロジー(インターネット含む)、エネルギー、不動産、金融・保険、卸売・小売、食品・飲料、広告・マーケティングおよび運輸・ロジスティクスである。外国人投資家の推移については、米国企業が突出して多く(2014年は126件)、英国とドイツなどの欧州企業が続き、日本企業は6位前後(2014年は14件)で推移している。

日本企業によるブラジルでのM&A

それでは、日本企業によるブラジルでのM&Aの状況はどのようになっているのかを簡単に言及したい。過去3年間の日本企業によるブラジルでのM&Aは累計で46件(公表された成立案件ベース)となっている。同期間の日本企業のM&A対象国別で見ると、ブラジルは13番目に案件数が多かった国であり、無視できないマーケットとなっている。過去より、新日鉄による製鉄関連事業への出資やキリンによるビール会社の買収などの大型案件が幾つかあるものの、10億円から100億円規模までの取引が主流となっている。対象業種については、従来から鉱業(資源)や鉄鋼などの川上の領域が多かったが、最近では運輸・ロジスティクス、農業関連ビジネス、化学、情報テクノロジーおよびサービス(広告・人材派遣・旅行代理店)分野への投資案件が増えてきており、投資領域が広がっている。

今後の日本企業のブラジルでのM&A機会

近年のブラジル経済やM&Aマーケットの動向を分析する限りでは、以下の領域に日本企業にとっての今後のチャンスがあるように思われる。

(1) プライベート・エクイティ・ファンド(PEF)の投資エグジット案件
ブラジルはPEFによる投資案件も多く、過去5年間で約500件が公表されている。これらの投資案件が今後エグジットとして売りに出されていくことになり、日本企業にとっての投資チャンスとなり得る。今後の数年間で多く売りに出されるであろう業種は、情報テクノロジー(インターネット含む)、運輸・ロジスティクス、金融・保険、サービス(コンサル・教育業)、卸・小売、食品・飲料、エネルギーおよび農業関連ビジネスであると推測される。

(2) 国家成長加速化政策(PAC:Plano de Aceleração do Crescimento Econômico)の流れの中でのインフラ投資機会

ブラジルはGDPの規模では世界第7位の大国であるが、社会インフラが劣悪であり、世界経済フォーラムによるインフラの整備ランキングでは148ヶ国中118位という状況にある。これが更なる経済成長の足枷になっており、政府は民間の活用によるコンセッション方式によるインフラ整備を「国家成長加速化政策(PAC)」として挙げている。日本企業にとってのチャンスは、現地コングロマリットや外資系投資ファンドと組んでのプロジェクト会社への共同出資となる。日系コンソーシアム(官民ファンド含む)での出資もありえるオプションである。分野としては、物流インフラ(道路・鉄道・港湾など)、都市交通、上下水道、病院、公立学校、電力(スマートグリッドなど)および廃棄処理事業などが有望と考えられる。

(3) フード・サプライ・チェーンに付随する事業
ブラジルの農産物輸出額は世界4位であり、オレンジジュース・大豆・コーヒー・鶏肉・牛肉・砂糖の分野では既に世界で1位もしくは2位である。新興国・途上国を中心に世界の人口と所得は増え続けており、ブラジルは今後の世界の胃袋を満たす最重要国のひとつである。この視点から、国内大手や欧米外資などの強敵は多いが、穀物・食肉・食品加工・農薬・肥料などの分野でまだまだ日本企業の投資機会が増えると考えられる。また、劣悪な輸送インフラ(道路・鉄道・倉庫・港湾など)が大規模な農業ビジネスの足枷になっているため、同分野への投資機会が豊富と考えられる。

(4) 個人消費および個人サービスに関連する分野
同分野における日系企業のM&Aの実績は欧米企業に比べて圧倒的に少ないが、ブラジルの個人消費市場は大きく、金額ベースでは英国に次ぐ世界第7位である。2014年に入り個人消費は一時的に落ち込んでいるものの、2030年以降まで続く人口ボーナスや富裕層と中間層の更なる増加により、国内の個人消費マーケットを対象にした製造・販売とサービスの両輪で多くのセクターにおいてチャンスがあると考えられる。

最後に

ブラジルは元気のない状況である。中国経済の成長鈍化や資源価格下落などの影響を受けて経済成長が昨年より大幅に鈍化し、ペトロブラスを巡る汚職贈収賄スキャンダルがそれに追い討ちをかける形となり、2015年のGDP成長率はマイナスになる公算である。BRICsの名付け親であるジム・オニール氏も、この状況が続けば、BRICsからブラジルの「B」が近い将来消えるかもしれないとのコメントを最近になり出している。しかしながら、ブラジルには豊富な資源、2030年以降まで続く人口ボーナス、世界の胃袋を支える強い農業といった武器があり、被海外直接投資高も堅調な水準で推移しており、外貨準備高も高い水準である。従って、構造改革が進むことで、また元気な姿を取り戻す筈であり、2016年以降に期待をしたい。M&Aの観点から言えば、2015年に入りレアル安が進行しており、成立案件のEBITDA倍率が大きく下がってきている状況であるため、ある意味、投資には良い時期かもしれない。

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
前サンパウロ駐在員
佐々木 幹

(2015.04.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

執筆者


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Deloitte Brazil について

成長し続ける巨大消費市場、洗練された金融システム、加えて大の親日国。日本にとっても重要国であるブラジルには、短期の景気の波に左右されない戦略投資が続いています。インフラ、自動車、食品、天然資源、教育、保健分野をはじめ、更なる発展のために日系企業の技術と経験が求められています。デロイト ブラジル日系企業サービスグループは、貴社のブラジル事業成長への道を共に歩むパートナーであることを常に志しています。

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