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世界のM&A事情 ~東南アジア 基礎編~

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員から、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。今回は主に日系企業による東南アジアでのM&Aの現状をご紹介します。

東南アジア企業を対象としたM&Aの状況

2013年を底にM&A件数は増加傾向

東南アジア企業を買収対象としたIn-InおよびOut-In案件のM&A件数は、2010年をピークに以降は2013年まで減少を続けた。特に、2010年まで取引が増加傾向にあったインドネシアおよびベトナムにおいて、1)資源価格や不動産価格の下落による景気悪化や、2)規制緩和等の構造改革遅延の影響等によりM&Aが激減している。一方、2014年はシンガポールにおけるM&Aが前年比3割増するなど、足元では東南アジア全体としてM&A件数は増加傾向にある。これは中国への投資が東南アジアへ本格的にシフトしたことや資金のある域内企業(ローカル企業)がM&Aを積極化させたことが主因といわれている。

小規模M&A

取引金額が開示されている全取引の約40%がUS$10 mil以下の案件である。金額開示のない案件にも小規模案件が相当数含まれることも考えると、小規模な取引が多いことが東南アジアM&Aの特徴であり、欧州・米州等に比べれば手軽に行える投資が多い。一方、投資先として適当なビジネス機能を備え、かつ一定規模の案件を発掘することが非常に難しいともいえる。

但し、US$100 milを超える案件も2014年では約140件、2015年も8ヶ月間で約60件が実行されていることから、大型案件を生み出すマーケットの動きにも注意が必要である。

日系企業による東南アジアでのM&A

5件に1件は日系企業によるM&A 

日系企業による東南アジア企業のM&A件数は2010年から2014年において概ね増加傾向にあり、結果として、東南アジアにおけるクロスボーダーM&Aの5件に1件は日系企業が買い手となっている状況である。東南アジア圏へ投資している国としてはシンガポールや米国などに比しても日本が群を抜いており、売り手にとって”最も有望な買い手候補国”になっていると言える。

ここで、日系企業によるM&A取引の増加は、総合商社やグローバル製造企業といった所謂M&Aの常連企業の貢献のみならず、クロスボーダーM&Aが初というオーナー企業や上場企業の取引が増えていることが一つの要因となっている点は注目に値する。

なお、日系企業によるM&Aの投資規模に関しては、2014年においては金額が公表されている案件の約60%がUS$10 mil以下の案件であり、上記のクロスボーダーM&Aに不慣れな企業による東南アジア地域での事業拡大の基礎、足がかりとしての投資が多いように見受けられる。 

日系企業にとっての東南アジアディールの困難性

売り手市場- 価格期待ギャップ

東南アジアは誰もが認識する成長市場であり、同市場でのM&A機会を全世界(日系のみならず東南アジア域内企業、米国、欧州、中国、韓国および豪州など)の企業が探っており、売り手は自ら”売り手市場”であることを認識している。さらには、東南アジアには非常に多くのM&Aアドバイザー(ブローカー含む)が存在しているため、売り手は比較的容易に買い手候補を探すことができる環境にある。

このため、売り手は売却対象となるビジネスの価値を非常に高く設定している案件が多く、この価格期待ギャップを如何に埋めるかがディール成否の鍵となる。

なお、東南アジアの売り手からは初期的な意向表明段階(デューデリジェンス実施前)で実質的な価格合意(Bindingベース)を求めてくるケースがあり、この点も日系企業にとってはディール成立の困難性を高める要因となりうる。

スピーディーな意思決定が求められる

日系企業は初期的な意向表明や、はたまたミーティング調整においても時間がかかる場合が多い。この点、東南アジアのM&Aマーケットにおいては、先述した通り世界各国の潜在買い手候補がおり、他候補が迅速に意思決定を行うことで、短期間で基本合意、最終合意に至る案件が少なくない。特に、意思決定の早い会社(Private Equity Fund、東南アジア企業や中国企業など)が既に売り手へアプローチをしているケースでは、日系企業においても早い意思決定が求められる案件が多い。秘密保持契約書締結後意向表明書提出前において、または、DD実施中に交渉を急に中断されたといった経験をされている方も少なくないと理解している。 

不十分な情報開示

そもそも東南アジアは日本と比較して公表情報が少なく、仮に情報ベンダーやコンサルタントへの調査を依頼したとしても、対象会社や売り手しか知り得ない情報が取得できる可能性は低いと言える。更に、概して東南アジア企業は情報開示に非常に慎重である。これは、日系企業の多くは十分な情報開示を前提として、継続検討の是非及び価格感を検討するというスタンスである一方、東南アジアの売り手は買い手の本気度を測りつつ非公表の重要情報の開示可否を検討するスタンスであることに起因する。そして、買い手が本気かどうかを重要情報を開示する前に一定の価格を意向表明書で提示できるか否かによって判断する売り手も多い。

買い手候補企業は、優先順位の高い情報に絞って情報開示を交渉し、その得た情報の範囲内で売り手が納得する一定の価格を提示しない限り、基本合意交渉段階で破談となることもある点に留意が必要である。

最後に

上記のように、東南アジアでM&Aを“成立”させることには一定の困難性もある。ましてや、M&Aを“成功”させることはさらにハードルが高い。買収後のPost-Merger Integrationのステージにおいても 言語、宗教、教育水準、商習慣の違いを克服し、想定したシナジーを実現させることは至難であり、更には何らかのクライシス(不正、贈賄等)に直面することもあろう。

しかし、リスクの無いM&Aなどそもそも無く、リスクをどうマネージするかが肝要である。幸いにして、東南アジア企業は更なる成長を求めて、新しく価値を生み出してくれる提案に対しては常に「Open to Discuss」という姿勢を持っていることが多い。彼らは新たな投資家が何をもたらしてくれるか、そしてケミストリーが合うかどうかを非常に重視する傾向にあるため、そこをクリア出来れば上述の困難性も乗り越えていくことが出来よう。

そのような状況であるからこそ、また、各国が熱視線を送る東南アジアであるからこそ、日系企業においてはM&A機会の紹介を待つというスタンスではなく、前もって東南アジアマーケットやプレイヤーの状況を把握し、積極的に仕掛ける“攻め”の姿勢で臨むことが重要であると理解している。

東南アジアにおいてM&Aを検討している日系企業に本稿が少しでもご参考となれば幸甚である。

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをご了承頂きたい。
*本稿内の数字データはトムソン・ロイター公表による。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
シンガポール駐在
片岡 亮裕 ・ 鈴木 直人

(2015.11.25)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

執筆者


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