ナレッジ

世界のM&A事情 ~タイ~

M&Aを用いたタイ進出における留意点および動向

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員が、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。今回はタイ進出の際のM&Aの動向と留意点について、事例を紹介しつつ解説します。

タイにおけるM&Aの動向

タイの現地企業を買収対象としたM&Aについては、2008年~2010年は年間10~20件程度1と低調であったものの、2011年以降は30~40件程度と回復している。

タイでは、2006年から続いたタクシン派と反タクシン派の対立による政情不安、2008年のリーマンショックに端を発する経済の停滞で2008年~2010年頃は様子見モードで投資が控えられた。2011年には大洪水で多くの工場で操業停止、また、同年には東日本大震災が発生してサプライチェーンが寸断し、タイで操業する工場にも影響が及んだものの、M&A件数は32件と比較的堅調であった。

------------------------------------------------
1
 件数は公表日ベース

規模別・業種別の特徴

タイにおけるM&Aの規模は約半数が30Million USD以下と比較的小規模な案件が多いが、1Billion USDを超える大型のディールも行われている。

業種別に見ると、製造業および金融が多い。製造業はタイのGDPの約4割を占めており、特に自動車産業に強みを有する。一方で金融はGDPの構成比は高くはないものの、日系企業による代表的な買収事例としては三菱UFJフィナンシャル・グループによるアユタヤ銀行、明治安田生命保険によるタイ・ライフ・インシュアランスへの出資が挙げられる。

 

図表 タイ企業を対象とするM&A件数と金額
※クリックして画像を拡大表示できます

タイのM&A事例

タイにおけるM&Aは現地企業を買収してタイにおける事業拡大を図るケースが多いが、その他にもさまざまなケースが見受けられる。例えば、タイに拠点を持つグループ会社の株式をタイ現地企業に一定割合売却して現地企業の物流網や調達力などを活用し、共同で事業拡大を試みる事例が挙げられる。

また、2011年頃からタイからCLMV地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)へのFDI(直接投資)が急速に増加している。背景としては、タイでは人件費の上昇が続いていることや、将来的に労働力人口が減少すると予測されていることが挙げられる。タイは、CLMV各国との陸上国境の割合が5割を超えており、地理的関係が深く、タイの現地企業を買収して、タイを拠点にCLMV地域に事業拡大するケースも見受けられる。

一方、買収後に問題が発生するケースも見られる。近年、タイでは人件費が上昇傾向にあるが、被買収企業の事業計画に十分に人件費上昇が織り込まれておらず、当初想定していた収益を達成することができないケースや、買収後に想定していたシナジーが実現できないケースなどがあり、減損損失を計上している企業も存在している。

このような失敗を防ぐためには、買収前に対象会社の事業計画の妥当性を専門家を交えて入念に検証する必要があり、さらに買収後にどのようにPMI(Post Merger Integration)を進めるか、事前にきちんと準備をしておくことが重要である。

 

タイでのM&Aの留意点

タイでは、外国人2の投資に関して外国人事業法(Foreign Business Act)で規制が設けられており、直接的に議決権の過半数を占めることが困難となる。そのため、規制を回避して経営権を取るために、友好的な株主が対象会社の株式を保有する方法や優先株式を利用する方法が挙げられるが、実際の利用については慎重に検討を行う必要がある。

また、土地法では原則として外国人は土地を所有することができない点にも注意が必要である。ただし、例外としてBOI(タイ投資委員会)奨励企業やIEAT(タイ工業団地公社)認定の工業団地に立地する企業は土地所有が認められる場合がある。

その他には、クロスボーダーのM&Aに関連する言語や商習慣の違い、デューデリジェンス期間中の情報開示が日本に比べて不十分であったり、必要な書類が整備されていないなどのケースがあり、M&A実施の際には留意する必要がある。

------------------------------------------------
2  総資本の50%超を外国資本が占める場合に外国人と定義される。なお、土地法では外国資本の割合が49%超となる場合を外国人の定義としている。

 

今後のタイ経済および政治情勢について

これまでタイは、農林水産業(Thailand1.0)、軽工業(Thailand2.0)、重工業(Thailand3.0)を経て成長を遂げてきたが、現在、中所得国の罠(Middle income trap)に対する懸念がある。そのため、今後さらなる成長を遂げるために「Thailand4.0」で次世代自動車など、10個の産業を重点領域に定めており、注力する方針となっている。

現状の政治情勢については、プラユット首相による軍事政権となっており、タクシン派と反タクシン派の対立は一時的に沈静化しているとみられる。今後、2018年以降に民政移管が行われると想定されているため、継続して状況を注視する必要がある。

 

最後に

さまざまな不確定要素が存在するものの、今後も日系企業が海外進出を加速させていくなかで、引き続きタイが重要な投資先の一部になると考えている。また、大型の買収案件も増えてきており、買収の成否がより重要となることは明らかでる。本稿が少しでもタイにおいてM&Aを検討している日系企業の参考となれば幸甚である。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
バンコク駐在 中山 博喜

(2017.9.22)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

記事全文[PDF]


こちらから記事全文[PDF]のダウンロードができます。
 
[PDF: 325KB]

関連サービス

M&A:トップページ
 ・ M&Aアドバイザリー
 ・ 海外ビジネス支援
 ・ タイでの日経企業向けサービス


シリーズ記事一覧

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員が、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。

 ・ 世界のM&A事情

記事、サービスに関するお問合せ

>> 問い合わせはこちら(オンラインフォーム)から

※ 担当者よりメールにて順次回答致しますので、お待ち頂けますようお願い申し上げます。

お役に立ちましたか?