ナレッジ

世界のM&A事情 ~中国~

中国企業のM&Aの動向

中国のM&A取引はコロナの影響による下落後も安定しており、その後数ヶ月間の強い反発が続き、2020年後半は前年同期を大幅に上回りました。特に国有企業の買収拡大およびプライベートエクイティの新規投資が注目されています。その背景および中国企業の買収の特徴などを考察します。

I.2020年中国企業のM&A動向

Mergermarketの統計によると、2020年の中国企業M&A取引金額は30%増の7,338億ドルとなり、2016年以来の最高水準である。主に中国国有企業と政府資金の強力な投資サポートによるもので、M&A取引の数も前年度より11%増加した。2020年に93件の大型M&A取引(一件10億ドル以上)が行われた。この背景には中国国有企業の改制加速および政府主導型の投資がある。また、プライベートエクイティの関心分野は消費財、ハイテク、工業品(例えば新エネルギー自動車)に集中している。一方コロナの影響でクロスボーダーの超大型海外買収取引は8件に留まっている。

取引件数と金額で計算すると、中国は世界のM&A市場の15%を占め、ますます重要な国際的役割を果たしている。さらに「対外開放」、「産業アップグレード」、「双循環」、「地域経済一体化」などの中国政府の政策と戦略が中国のM&A市場に影響を及ぼしている。同時に、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定は新しいビジネスチャンスをもたらし、中国の優位産業と優秀企業のグローバル競争力を大幅に向上させ、より実力のある中国企業は「海外企業買収」を推進している。

2021年に入り、中国のM&A市場は引き続き国内取引を中心にしている。特に外資系の中国における企業や資産に対して、主に国有企業およびプライベートエクイティファンドの投資取引量は引き続き増加すると予想する。一方海外投資が徐々に回復する可能性もあるが、まだ時間がかかると思われる。

 

II.中国企業におけるM&Aの特徴

1. M&Aの動機について

M&Aの動機は企業の属性によって一定の違いがある。デロイトのアンケート調査によると、国有企業は新市場進出と資源獲得に関心を持っているのに対し、民営企業は、もっとも重要な要因は技術とブランドの獲得である。国有企業の4分の1は政府政策の促進で買収を行っている。一方民営企業は常に競争力を高めることを考えて、速い意思決定のスピードを持ち、すでに市場の優位性を占めているため、新市場より新技術とブランドへの関心度は高い。調査した90%以上の民営企業は買収後、元のブランドを保留して、海外企業の技術獲得を最優先にする。

 

2. M&Aの地域および業界について

M&Aの地域および業界の選択から見ると、中国企業の海外M&Aは主に欧米地区に集中している。北米とヨーロッパの成熟市場では、工業と消費品業界は依然として中国企業の買収に重きを置いている。セクターから見ると、TMT、ハイテク業界およ医薬業界の取引件数も急速に増加している。調査では約70%の企業は北米とヨーロッパを最優先地区として挙げている。一方、「一帯一路」は今後の買収の新たなホットスポットとなりつつある。過去5年間では、中国企業の海外M&Aの数は北米、ヨーロッパ、アジアで最も著しく増加し、それぞれ26.4%、25.0%、24.9%の成長となった。

「一帯一路」の注目地域には、特に東南アジア諸国が魅力的であると回答している。しかし、「一帯一路」関連国の政治環境の不確実性と投資政策制度の不備は、中国投資家にとって最大の懸念である。日本企業の買収に対して高い関心を持っている企業も少なくないが、まだ日本の投資環境や企業文化を十分に理解できず、今後情報収集や企業動態を追跡するニーズは高い。

 

3. M&Aの対象企業について

技術とブランドに対する追求から、約44.3%の企業は成熟企業の買収を希望している。また、約50%の企業は高い成長力のある企業を狙っている。対象企業の規模から見ると、中国企業は規模が比較的小さいターゲットを好み、5億人民元未満の企業は約58%を占め、5億から20億人民元のターゲットで約26%である。約16%の企業は20億から100億元の大規模企業を希望している。そしてファミリー企業および大手企業のカーブアウトしたノンコアアセットも対象であることがわかった。

一方、日本企業に対するM&Aにおいては、70%の中国企業が適切なターゲット選定が出来ていないと認識している。適切なターゲットをスクリーニングすることは日中M&Aの中で早急に解決しなければならない最大の課題である。

 

4. M&Aの課題について

中国企業の買収対象には、ファミリー企業や大手企業のノンコア事業が多く、買収後の統合の課題もより鮮明になっている。ファミリー企業の場合、既存マネジメントチームが留任するケースは少なく、被買収会社の管理能力を向上させるためにより多くのエネルギーが必要である。ノンコア事業は独立運営能力を持たず、複雑な過渡期サービス協議(TSA)を作成し、統合の進捗を加速する必要がある。従って、明確なM&A統合戦略を持つことは買収成功の前提であり、統合計画と実行が買収成功の鍵である。通常の財務、税務整合をしっかり行うほか、人と文化の整合も重要である。

 

5. コロナの影響について

新型コロナウイルスは2020年のM&A市場全体に対して過大な影響を与え、取引件数も取引総額もそれぞれ前年同期比54.1%と76.6%下落した。一方、M&A市場へ大きなビジネスチャンスも与えた。ウイルスを抑制するため、迅速かつ効果的な公共医療衛生システムを構築するための需要は急増した。疫病を誘発すると同時に、医療サービスと公共衛生管理に関する新しい技術の応用をより速く受け入れるように促進している。

2020年からプライベートエクイティのデジタル医療分野への投資総額は2.17億ドルに達し、中国の医療業界全体の投資活動の4分の1程度を占めている。今年はさらに新しい資本が医療科学技術分野に流入することを観測されている。

 

 

III.最後に

中国企業の買収に多数関与した経験と教訓から、以下、買収を成功させる3つのポイントを挙げる。
 

1、 明確に定義され、かつ定量化された買収戦略を作成

買収前に目標に対して具体的な戦略を策定する。
例えば「買収によってグローバル市場占有率を向上させる」、「規模効果を利用して生産能力の利用率を向上させる」など、抽象的な話をしない。

2、 主導型で積極的にPMIを実行

対象企業の国家文化を尊重する前提で、管理能力を向上させて、買収交渉の段階から自社の管理理念、企業体系および価値観を積極的に伝達する。

3、 短期財務目標と長期戦略目標をバランスよく融合

対象企業の財務諸表が買収後の1年目から連結にプラスの影響を与えることを念頭に、買収方案および契約交渉に有効な措置を採択する。


ご参考になれば幸甚である。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
北京駐在 陳 真

(2021.10.8)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

関連サービス

M&A:トップページ


シリーズ記事一覧

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員が、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。

記事、サービスに関するお問合せ

>> 問い合わせはこちら(オンラインフォーム)から

※ 担当者よりメールにて順次回答致しますので、お待ち頂けますようお願い申し上げます。

お役に立ちましたか?