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DMPを活用したカスタマー・エクスペリエンスの変革

進化した顧客の価値観にどう対応すべきか

Customer Experience(顧客体験)の重要性が叫ばれて久しいが、定着化しているとは言い難いのが日本市場である。企業はその重要性を認識しつつも、その取組みの難しさを感じている。B2C企業にとって、より深層で顧客の価値観を把握する力を身につけることとITの力で顧客をフォローすることが重要となる。DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)はそのIT基盤として顧客志向の企業に必須のものとなっている

顧客の価値観の変化

ソーシャルメディアの広まりやモバイルデバイスの進化により、顧客の購買行動は短期間で大きく変化し、各企業が顧客の購買行動の変化のスピードに追いつけなくなっています。それは、従来の顧客マネジメントの手法が機能しなくなってきていることを意味しています。
「顧客体験」(Customer Experience)の重要性が叫ばれて久しいですが、まだ定着化していない状況であっても、企業はその重要性を認識しつつ、他方でその取り組みの難しさを感じています。

その例として、スマートデバイスを利用する消費者の多くは、来店(バーチャル、リアル店舗を問わず)する前にまわりの「評価」を調べて来店する「決めうち型の来店」のスタイルをとっています。これは、来店する前に既に勝負がついていることを意味していますが、このように来店する前にまわりの「評価」を調べて、購入する商品を絞り込んでいる世界では、顧客体験にもとづく顧客の「評価」が商品選択の重要な要素となってくることを再認識する必要があります。

ソーシャルメディア(SNS)が普及している現在ほど個人の情報発信が活発していなかった時代では、企業は消費者に商品やサービスを買ってもらうまでのプロセスが重要でした。そしてまわりの「評価」は、友人・知人といった限られた範囲での意見、マスメディアで紹介された範囲での意見に留まり、「お金」の比較が購買決定要素の大半を占めていました。

しかし、ソーシャルメディアの普及により、顧客体験によって生み出された「評価(reputation)」は、これまでの経済の「お金(money)」のように、流通し、蓄積していわば資本化されていきます。評価の高い商品・サービスを持つ企業とそうでない企業では、実経済に加えて、評価の世界でも実力の差が出てくるでしょう。そのため、企業の中でも、来店前の顧客の価値観を理解し、先回りして顧客のニーズに対応することのできる企業だけが生き残っていくものと考えられます。
 

では、企業はそれぞれの戦略的方向性をもっている中で、その方向性と、顧客体験の整合性はどのようにコントロールされるべきなのでしょうか。様々な機能を通じて企業は顧客に体験を提供していますが、これらをコントロールすべきなのはいったい誰なのでしょうか。

B2C企業にとっての論点

B2C企業にとって、まず、より深層で顧客の価値観を把握する力と、一方で自らも確固とした企業価値観を作り上げる必要があるでしょう。さらに個々の顧客との接点では、企業価値観のコアな部分は動かさないまま、膨大な数の「個客」が求める価値観に素早く変容する対応力も必要となってきます。

企業が実際にこの能力を身につけるためには、非常に多くの新たな戦略的取り組みが必要ですし、これまでの理論の延長線上ではなく、経験則を活かせない部分があるため、手探りの領域でもあります。その間にも「個客」の価値観は変わり、広がり、手の届くところにはいなくなってしまいます。

これまで、顧客ニーズに対する、実現のための採算性は、相反する関係でした。顧客のニーズの高まりにともない、企業がそれに合せて実現のレベルを上げようとすると、莫大なコストがかかってしまいます。しかし、対応できなければ、対応できる企業に顧客を奪われてしまうでしょう。適切なコストでこのトレードオフを解消し、顧客とWin-Winの関係を作り上げることができないでしょうか。

これができれば、顧客がこれまで「どうせ実現されない」と諦めていたことを企業が実現してくれることで、顧客と企業の意識や価値観を近づけることができます。このWin-Winの関係構築と、顧客と企業の価値観を近づけることを同時に実現することが、今後のB2C企業戦略の重要なテーマとなるでしょう。 

顧客の価値観変化に対応する組織能力

顧客の価値観の変化に対応するためには、以下の3つのサイクルをまわすことのできる組織能力が必要となってきます。

  1. 顧客の声を真摯に聴く
    - 顧客の価値観を交流させる場を提供し声(評価)を聴く能力(リスニング・ケイパビリティ)
  2. 企業も自らの価値観を確立させる
    - 顧客を理解し、企業の価値観を築く能力(インテリジェンス・ケイパビリティ)
  3. 確立した価値観をもって顧客を動かす
    - 顧客の価値観を動かす能力(エンゲージング・ケイパビリティ)

さらには、これら3つの能力を組織横断的にまとめあげ、顧客から見るとあたかも1人のパートナーが対応しているように感じることのできる組織・部門が必要となるでしょう。また、3の「顧客の価値観を動かす」能力については、ITの力を活用した顧客のフォローが必須となります。

これまで企業は、顧客の購買情報からの知見(インサイト)をもとに活動を行ってきました。しかし今後は、顧客の「評価」を加えて新しい知見を見出し、施策を打つ必要があります。

膨大な顧客の数と処理の数を考え、さらに個々の顧客のネットワークをフォローすることは、もはや人力では不可能な領域です。人間が直接コミュニケーションを行い、付加価値を高める場合もありますが、ITの力によって効率的に進める領域を広げることを考えるべき状況になっています。

組織能力を実現する仕組みとしてのDMP(1/2)

「顧客の価値観を動かす」能力を実現させるにはITの力で顧客をフォローすることが重要であることは前述しました。そして、膨大な顧客の数と処理の数(広大なスコープ)に加えてその対応処理スピードが差別化要素となります。「顧客の価値観を動かす」ためには、様々な顧客接点のデータを統合し、より密な関係性を構築する必要があります。

これまでの企業と顧客との関係性構築への取り組みは、会員属性やネットでの購買という限られたデータを活用したものにとどまっていました。

今後、いわゆるオムニチャネル時代においては、従来の店舗、コンタクトセンターといったチャネルに加えてPOEメディアの様々な顧客接点のデータを統合し、より密な関係性構築へ役立てる必要があります。こうして顧客を動かす価値の高いデータを基に「個客」に応じた「適切なタイミングで適切なメッセージ」を提供できるマーケティング施策を実施することが可能となるわけです。
 

以上の組織能力/機能を実現する仕組みとしてDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)があり、膨大な数の「個客」を相手にする際の強力なIT基盤となります。これまでの購買履歴に基づくクロスセルやアップセルのお知らせといった既存顧客に対する一般的な活用領域に加えて、購買実現率の高い潜在顧客の特定、既存・潜在顧客への

- キャンペーン管理の自動化(On-lineから店舗などのOff-lineへ)
- ソーシャル・メディア(On-line)からソーシャル・メディア( On-line)への誘導
- 店舗(Off-line)からソーシャル・メディア(On-line)への誘導

といった『相互送客のO2O』に活用しうるIT基盤です。 

組織能力を実現する仕組みとしてのDMP(2/2)

DMPを取り巻く環境でプレイヤーは大きく2つに分かれます。『データを他社に提供するプレイヤー』と『データを自社で活用するプレイヤー』です。

『データを提供するプレイヤー』は、いかに多くのオーディエンス・データを持ち、それを有効な切り口で他社に提供できるかが差別化要因となり、中には3億人以上のオーディエンスデータを3万以上のセグメントで分類し、顧客に合わせてデータを提供する会社も存在します。また、データを活用するプレイヤーとして、店舗形態の設計から店舗レイアウトの調整、自社ブランド商品や対象を絞った販売プロモーションの開発をデータに基づき実施することで、シェアを数倍に拡大した会社もあります。

日本でもDMPの動きが活発化し始め、『データを提供するプレイヤー』では、多くのマーケティングツール会社(メールオートメーション、CMS、DSP等)と提携し、データ連携から施策実行をシームレスに実現することを可能にすることや、コンサルティング会社やシステム会社と提携し、戦略策定からプラットフォーム構築まで一貫して支援することを試み始めています。 

クロージング

このようにして構築されたDMPは、企業が顧客の変化スピードに追いつくための「強力な武器」となり得ます。

DMPプラットフォームを一気に構築するには組織的に体力が必要となりますが、いたずらに時間をかけずにスピード感をもって取り組まなければ確実な効果を出すことは難しいでしょう。

ただ、DMPといったIT基盤の整備も必要である一方で、顧客の価値観を理解し、自社の価値観を体現するのは自社のリソースであることを理解し、顧客へ接する「社員」への投資もしつつ、そのバランスが変革を推進していく上での成功要因となります。 

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