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経営者に「現場に実行を迫る力」を

明確な改善インパクトを生むための「見える化」

皆さんの周りでも「可視化」、「見える化」といった言葉が良く使われていると思います。しかし、見えた情報は改善インパクトを生む意思決定と現場での実行につながっているでしょうか。こと経営者にとっての「可視化」とは「大局を把握するため」のハイレベルな情報という概念に縛られがちであり、結果として報告ばかりが行われ、幾重にも集計された情報だけからでは具体的には何も起こらないケースが多いのではないでしょうか。

いくら優秀な経営者でも「情報」なくして経営は困難

グローバルにビジネスを展開し、各地で熾烈な競争を繰り広げている企業の経営者から「各地域/グローバル全体の状況が見えない」という悩みをよく伺います。これは、製品・サービス、価格・コスト面での競争が激化し、状況が刻々と変化するビジネス環境において、実は状況がわからないまま意思決定を行い、また、その決定により具体的な改善インパクトがどれだけ出ているのかを把握できないまま次の判断を行わざるをえないという(又は判断できない)、非常に困難な状況を示しています。

こうした背景を踏まえて特に「グローバルにビジネス展開」×「激しい需要変動」にさらされている業界においては近年S&OP(セールスアンドオペレーションズプランニング)というキーワードで改革に取り組む例が増えています。S&OPは時代とともにその意味が変遷していますが、最近は「金額計画と数量計画の整合」、「事業収益向上に貢献するSCM」、「損益把握に基づく経営判断とオペレーションへの反映」など、納期要求に対して供給を調整するといった単なる数合わせのSCMに、金額的要素を加えたSCMといったニュアンスで用いられることが多くなっています。

かつての「作れば売れる」、「売れれば儲かる(利益が出る)」時代には、「いかに欠品を防いて供給するか」に焦点を当てていれば、期末になって思った通りの業績が出せずに「ビックリ」するといったことは起こりにくい状況でした。しかし、グローバルに展開し、それぞれの地域で製品・サービス、価格、コスト面で競合との熾烈な競争を繰り広げ、大きな業績変動要素にさらされている環境においては最新のオペレーション計画で実現される見込みの損益をつぶさに把握し、ターゲットとの乖離を埋めるアクションを計画に反映・実行するといったスピーディーな経営が欠かせません。

これがいわゆる「S&OP」なのかはさておき、スピーディーで的確な経営判断が求められる経営者にとって、状況の把握とスピーディーな判断を行うための”武器”は必須であり、これを持たずに戦いに勝つことは、いくら優秀な経営者にとっても至難の業です。ここで武器となるのが現場に実行を迫るだけの情報なのです。しかもそれは、集計されたハイレベルのものだけではなく、アクションを判断、指示するに足る具体的な情報なのです。

報告のために大きな負荷がかかっている一方で、それが具体的なアクションにつながっているという実感は持てない

大局から細部へとストーリー性を持ったダッシュボードの必要性

経営者に「可視化」という武器が必要であることに異論はないと思われますが、スピーディーで的確な判断、アクション指示が求められる経営者にとっての「可視化」で一つ重要なポイントがあります。経営者にとって必要な「可視化」とはともすると、現場情報を幾重にも集計し直した「ハイレベルな(大局をつかむための)レポート」というイメージが定着しています。その根底には、「経営者がそんなに細かい情報を知る必要はない・わからない」という前提が横たわっているのではないでしょうか。しかし、果たして本当でしょうか。確かにビジネス状況の全体像をつかむためには「まず大局から」、というのは納得ができます。

しかし、毎月行われる経営会議の場では、実は大局だけの把握にとどまり、結論として具体的なアクションが決まらず、それは各部門が持ち帰り検討し、後で報告……といった、いわば「何も決まらない会議」が繰り広げられているケースが多いのではないでしょうか。その陰では現場担当者がものすごい工数をかけて、データ収集、変換、集計を繰り返し、体裁を整えたレポートを作成しています。

こうした会議はアクションを決めるための会議ではなく、経営者に状況を報告するための会議になっており、もし状況の共有が他の手段で既に済んでいるのであれば本来必要のない会議です。厳しい競争の中で舵取りを担っている経営者に必要なのは、必要なアクションが想像できないレベルにまで幾重にも集計が加えられたレポートだけではなく、具体的な拠点、品目、価格、コスト項目等に対する必要なアクションが立案できる、大局と細部を行き来できる「可視化」です。もし経営者の手のひらにこうした「大局と細部を行き来できる可視性」が乗っているのであれば、会議自体が不要となり必要部門にダイレクトに指示が可能となる、又は、状況報告は省いたアクションの立案のみにフォーカスした会議が可能となります。

「(アクションを議論するための本番)会議のための(報告のための事前)会議」、「報告するだけの会議」が無駄であるといった話題は頻繁に取り上げられてきたがいっこうに改善されないのは、案外「経営者には細部の情報は必要ない」といった誤った認識に起因しているのではないでしょうか。激しい競争の中で舵取りを行う経営者にとって、大局だけを把握して、原因の特定と具体的なアクション検討は現場から上がってくるまで待っている余裕はないのです。

「見えない」→「わからない」→「動かない」状態からの脱却ステップ

「経営者が見始めること」が可視化への最短ルート

それではどのようにそうした「可視性」を手に入れるのでしょうか。

もちろん経営者に必要な「可視性」を確保するには、大前提としてデータが揃っている必要がありますが、ここでつまずく企業が多いのが実態です。M&Aなどによりビジネスを拡大した結果としてデータ管理状況が異なる多くの拠点を抱え、グローバルに集計することがそもそもできていないケースが多いのが事実です。グローバル全体の在庫データを収集し、横並び可能な状態で集計するのに1ヵ月を擁するといったにわかには信じられないケースも存在しています。在庫データについては比較的管理レベルが上がっていますが、グローバル各拠点の最新価格、材料費、加工費といった最新コストとなるとなかなか管理できていないというケースはさらに増えます。

しかし、こうした「可視性」向上の取組で重要なアプローチは、「まずは見始める」です。自社のデータの網羅性、精度、鮮度に問題があるために、まずはそこを是正しなければ始まらないとばかりに、見始めることを横に置いてしまうケースが多く存在しています。そうではなく、データの網羅性、精度、鮮度向上の取り組みをすぐに始める一方で、今あるデータを使って経営に活用することをできるだけ早く始めるべきなのです。

これによりデータ品質の向上施策にも本腰が入り、スピードが格段に上がります。失敗するアプローチは、「現場でデータ品質改善に着手する」→「取り組みには業務・ルールの変更、追加などを伴う」→「工数増加、現業への影響から取組を後回しにする口実が列挙される」→「これに対抗する大義名分がなく取り組み失速」……といったサイクルに陥るというものです。そうではなく、「経営者が見る」→「経営判断の材料として使う」→「データ発生源(各現場オペレーション)でデータ品質確保に緊張感が醸成される」→「データ品質向上に向けた取り組みの優先度を上げざるを得ない」というサイクルを確立しなければなりません。そのためにも「経営者がデータを見ている」、「それをもとに経営判断している」という事実が大切なのです。

そのためにも、現状のデータ品質を把握し、その中でも経営判断の材料として活用して意味のあるもの、その場合の前提条件を明確にした上でまずは経営者に活用してもらいつつ、並行でデータ品質向上の取り組みを開始することが必要なのです。

ビジュアライゼーションツールの活用

Business Intelligence(BI) ツールという言葉を聞いてどのようなイメージをお持ちになるでしょうか。データ分析、レポート、システム、データベース……といったキーワードとともにBIを想像される方もいらっしゃる一方で、「レポートをたくさん作ったが使われていない」、「使い始めるまでに時間がかかる(システム構築が大変)」、「データ量が増えるとストレスを感じるほど動作に時間がかかる」といったイメージを持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。確かにこうしたイメージがある程度定着してしまうのは致し方ないケースが多く存在しています。

IT部門がユーザーからの要望を聞き、データベース、データ、レポート・ダッシュボードを用意した結果として膨大な数の定型レポートが準備されます。しかし、経営者向けレポートの宿命として、求められる集計、分析軸は刻々と変化します。長い時間をかけて作り上げたレポートがそれができたタイミングではもはや求められていない……という悲しい現実が存在します。また、一度作ったレポートはその後メンテナンスが必要になるケースがほとんどです。部門変更、データ定義の変更、分析軸の変更などが発生します。また、定常運用を続けるためにもデータベース上のデータの更新などの定期作業が発生するなど、その維持にも多くの労力が必要になるのです。

作成、維持の観点からもできるだけユーザーである業務部門にてスピーディーに欲しいものを手に入れられる状態が理想的です。業務部門の要望をITに伝え、IT部門にて構築し、業務部門が確認して、IT部門にて手直しを加えるプロセスを複数回繰り返して完成するというのではなく、IT部門のサポートは受けるものの、基本的には業務部門主体で、高度な専門知識なしに自分たち(経営者向けを含む)が必要なレポート、ダッシュボードを、手軽に作ることができる、という状態が望ましいのです。

実はテクノロジーの進化により、こうした理想的な状況を可能にする手段が出てきています。テクノロジーやそれを体現した製品についてここで触れることはしませんが、格段に作成、使用上の操作性、スピードを向上することができる製品が市場に出回っています。こうした製品では、まさに業務部門(ユーザー)が自ら作って、使用するというコンセプトで従来のBIとは一線を画すコンセプトを前面に出しています。作成後も直観的な操作により、大局から細部までを自由に行き来しながら問題個所の特定、分析、アクション立案に活用できるのです。

可視化ダッシュボード構築のアプローチ(まとめ)

「視える化」、「見える化」、「可視化」というキーワードが盛んに叫ばれるようになって久しいですが、実は見えるようになった情報を活用して明確な改善インパクトを起こすことができているケースは思ったより少ないと想定されます。または、見える状態を作りあげるまでに挫折してしまっているケースもそれ以上に多いかもしれません。

可視性の確保の目的は、見えること自体にあるのではなく、それにより具体的な問題を特定し、アクション実行を判断し、具体的な改善インパクトを生み出すことにあります。経営者が現場に実行を迫る力を持つためには、情報(データ)武装が必要です。これを実現するためには、経営者にとって必要な情報(データ)を今一度見直し、まずは今あるデータを実際の判断に活用することを始めること、また、それを最新のテクノロジーを活用することによりIT部門に任せっきりにせず、業務部門(経営者)自らが推進するアプローチが成功要因です。

デロイト トーマツ グループが支援させていただいた企業では、こうしたアプローチで経営者自らが自席で、又は、タブレットを活用してデータを基に問題個所の特定、アクション立案、実行指示をスピーディーに実行し、具体的な改善インパクトにつなげています。従来のレポート、ダッシュボードから想起されるイメージを一度払拭し、今一度新たに事業運営に貢献する「可視化」にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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