ナレッジ

アナリティクスによる在庫適正化 

経営環境の変化により在庫適正化の見直しが必要に 

在庫適正化というテーマは古くから存在しますが、M&Aによる拠点統合、顧客のサービスレベル要求の高まり、少量多品種生産・ライフサイクル短期化等、今日の経済環境の変化により、多くの企業が実現に向けたアプローチの見直しを迫られています。こうした変化は、今後恒常的に発生し続ける為、必要なのは「過去のやり方を見直す」だけではなく「今後発生する変化にもスピード感をもって対応できる状況を作りだしておく」ことです。

在庫可視化と適正化を阻む3つの壁

冒頭にて「今後発生する変化にも、スピード感を持って対応できる状況を作り出しておく」ことの必要性について言及しましたが、考え方自体は、在庫と、在庫にインパクトを与えるドライバーをKPI化し、基準となる適正値を設定することで、どこに問題があるかが浮かび上がるという、従来より存在するものです。

従来と異なるのは、経営を取り巻く環境の変化です。

M&Aによる会社の統廃合や、業務の分断化とソーシングにより、データの所在が常に変化し、ドライバーとなるKPIや、市場、競合、サプライヤーの状況も常に変化するため、データの取り方、視るべき指標を、柔軟かつスピーディーに対応していく必要があります。

このテーマに取り組まれた方の中には、実現に苦労された方も少なくないのではないでしょうか。

まず、第1の壁として、”必要なデータの取得”があります。

データが取得できないケースや、取得できても、クレンジングが必要なとき、時間がかかりすぎてしまうと、「情報が古いため判断できない」言われ、スピード重視で集計すると、「精度が悪いため、妥当な判断ができない」と言われてしまうことになります。

第2の壁は、”適切なドライバーKPIの定義”ですが、これも一筋縄ではいきません。

KPIが少なすぎると、課題が見落とされる恐れがあり、多すぎると運用が回らず形骸化してしまいます。在庫に与える影響が強いドライバーKPIを、適切な数に絞って設定する必要がありますが、果たしてそれはどのドライバーなのかは非常に難しいところです。

第3の壁は、”データの可視化”です。

適切なKPIを定義した後は、それを定常的にレポーティングする手段が必要です。基幹系や計画系のシステムから抽出したデータをBIで可視化するのがセオリーですが、構築に時間がかかり、完成したころには、視たい指標が変わり、データの取得元も変わっているということが今日では起こりえます。

今後は、社内・社外の経営環境が変化した都度、データ取得元の見直し、適切なKPIの再定義、レポーティング方法の変更をスピーディーに実施する必要があること、そのためには3つの壁が立ちはだかっていることをお分かりいただけたでしょうか。以降では、これらの壁を乗り越えるための最先端のテクノロジー・サービスをご紹介します。

データクレンジングと加工を短期で行う

最初に第1の壁である”必要なデータの取得”に対するソリューションをご紹介します。

前節で述べた、会社の統廃合を行ったケース、オペレーションのアウトソーシングを開始したケースでは、データの自動抽出や、自動集計の仕組みが存在しないケースがほとんどで、しばしば手作業による集計が必要となりますが、データのクレンジングと加工に費やされる時間は、データ分析の一連の活動の8割に及ぶと言われるほど、労力のかかる作業です。

まず、データ項目、金額・数量単位、データ粒度が出揃っていない部分を揃え、空白を埋めたり、ノイズを取り払う作業が必要となります。また、レポーティングを行うための下処理として、横に配列されている日付を縦型に変換するなど、データの持ち方を変換する作業も場合によって必要となります。さらに、在庫と計画を比較するなど、データの突き合わせる処理が発生する場合は、異なるデータソースの結合や集計が必要となります。

この課題に対応するため、データのクレンジングを代行するサービスを提供する企業が増えてきています。元データを提供し、要件を伝える事で、データクレンジング・加工の技術を持つスタッフが作業を代行し、一度行った処理の結果は定義データとして残す事で、2度目以降はすばやく変換ができるというものです。

また、以前は高額かつ専門的な知識が必要とされていた、EAI/ETLのツールについても、安価で、短期で導入ができ、また簡単な操作で複雑な変換処理を実施できる製品が増えてきています。

これらのサービスや最先端のツールを活用する事により、データの取得元が変化した場合も、スピーディーに対応していく事が可能となります。

その時々の重要度の高いKPIを知る

次に、第2の壁である”適切なドライバーKPIの定義”に対するソリューションをご紹介します。

在庫発生のメカニズムは複雑ですが、一般的な製造業の場合、図1のようなドライバーKPIを一例にあげる事が出来ます。

このようなKPIを定義し、どのような頻度でそれをウォッチするか、どうアクションするかを決める必要がありますが、考えられるすべてのKPIに対して手を打つのではなく、その時点の経営環境を踏まえた上で、重要度の高いKPIを見ていく事が重要です。

前述の優先度の課題に対しては、統計学的手法で、どの因子が在庫に強く影響するかを測る事が可能です。品目別に、ドライバーKPIである、先行生産の有無、部材・製品の共通化率、LT等の実績データと、それらの結果である在庫数、在庫日数等の実績データを十分な断面数、品目数でそろえる事が出来れば、回帰分析と呼ばれる処理を行う事で、どのドライバーKPIが強く在庫に作用しているかを知る事ができます。

また、各KPIをどれだけ改善すれば、どのくらいの改善効果を得られるかを、金額評価することも可能になるため、改善効果を定量的に予見する事が可能になります。また、どうアクションするかを決める際にも、改善施策の費用対効果を、デジタルに算出する事が可能となります。

このような分析は高度な専門知識が必要ですが、分析要件を設定し、データを準備すれば、分析を代行するサービスを提供する企業が増えてきています。

デロイト トーマツ グループでは、分析の専門組織を設け、データクレンジングから統計解析までを一貫して行うサービスをご提供しています。

また、分析に必要なツールも進化しています。今最も注目されているのは、Rと呼ばれるソフトで、こちらはオープンソースと呼ばれる無償で利用可能なものです。

元々は大学などの機関で研究用に使われていたもので、各利用者が開発した分析パッケージをユーザー間で自由に使えるのが強みとなり、ユーザー活用が非常に進んでいます。

これらのサービスや最先端のツールを活用する事により、経営環境が変化した場合も、スピーディーに必要なKPIを見直していく事が可能となります。

図1:在庫の分類と、在庫発生のドライバー

KPIレポートを短期間で構築する

最後に第3の壁である”KPIの可視化”に対するソリューションをご紹介します。

元情報の準備と、視るべきKPIの定義が完了したら、後はそれをわかりやすい形で集計・グラフ化し、報告する作業が必要となります。

この作業をエクセルとパワーポイントで行う場合の課題としてよく耳にするのが、データ量が多い場合に処理が難しいという点、毎回手作業で集計するため、工数がかかり、報告までに時間が経過した分だけ情報鮮度が落ちるという点になります。

データの可視化をサポートするツールとして、BI(Business Intelligence)と呼ばれるツールがありますが、構築に時間と費用がかかり、本稿で取り上げている、経営環境の変化に対する柔軟性という点においては、従来の製品では対応しづらいといった課題がありました。

ここ数年で、最新のテクノロジーを活かし、これらの課題に対応したBI製品が登場しており、大量のデータを高速に処理する事が出来ること、多彩なグラフ表現が可能で、それをユーザーの手で簡単に作成・変更できること、ドリルダウンレポートで問題個所を特定していく機能が優れている事、等が特徴として挙げられます。

その中でも注目度の高いツールとして、Tableauという製品があり、デロイト トーマツ グループの中でも、大量データを扱う機会の多いサプライチェーンのチームでは、データ分析や会議、報告で利用するケース、KPIツールとしてクライアントに提供するケースの両面で活用を進めています。

クライアントへの導入の場合、データクレンジングの期間にもよりますが、取組開始からツールの構築まで2か月程度の短期間でリリースし、その後スムーズに業務ユーザーへの移行を完了する事ができます。

このようなツールを有効活用する事で、会社として視るべきKPIが変化した場合も、スピーディーに対応していく事が可能となります。

環境変化に対応する力を、自社のものにする

今後継続的に起こり得る、企業を取り巻く環境変化に応じて、データ取得、KPI定義、可視化の流れをスピーディーに対応させていくための環境が整ってきている事をご理解いただけたでしょうか。

改めて、必要なステップを整理すると、以下の通りとなります。

(1) データを取得し、クレンジングする
(2) 視るべきKPIを適正に定める
(3) データを理解できるよう可視化し、素早く対応する

これらの作業は、いずれもデータ処理や分析の専門的な知識と経験が必要となるため、社内に有識者・経験者が少なければ、社外のサービスを積極的に活用される事で、変化に対していち早く対応する事が可能となります。

そして、最終的に目指すべき姿は、この対応力を自社のものにする事です。

本稿では、それぞれのステップを支援するツールについても触れていますが、これらのツールはかつてと比べ、利用のハードルが低く、特に可視化のツールについては、短期間の訓練で、専門知識がない業務ユーザーでも扱えるのが特徴です。

もし、在庫適正化を見直す必要性を感じられていれば、最先端のテクノロジー・サービスが登場しているこの機会を逃さず、自社のKPIを見直しと、今後の変化に対する対応力強化に取り組まれてはいかがでしょうか。

お役に立ちましたか?