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グローバル生産拠点戦略の考え方
生産拠点の最適配置の検討視点
世界はボーダレス化し、日本企業が海外市場でビジネス展開する流れは継続しており、海外の顧客を目指す企業のみならず、商品メーカーの海外進出に合わせてTier1,Tier2メーカーも生産拠点を拡大することを検討せざるを得ない状況です。全社視点でものごとを捉え、生産拠点戦略を策定する必要性があります。
生産拠点戦略策定の視点
顧客の需要にタイムリーに対応するため、また物流費などのコスト低減を意識し、海外顧客の近隣地域に生産拠点を立てることは非常に重要です。
しかし、生産拠点を新設することには大きな投資が伴い、且つ既存の生産拠点も含めて有効に活用できるのかという検証をしなくては、最適な生産拠点配置と言い切れないと考えます。
そこで、「ものづくり視点」と「バリューチェーン視点」という2つの側面から何を検討しなければならいかを考察します。
ものづくり視点での生産拠点配置検討
ものづくりの観点では以下の4つの観点を複合的に検討し生産拠点配置を決定する必要があると考えます。
1.国内生産か、海外生産か
2.集中生産か、分散生産か
3.どの地域で生産するか
本記事では、順次この観点について考え方を述べます。
1.国内生産か、海外生産か
日本企業がQCDの観点から海外拠点を新設することは需要な選択肢です。しかし、全製造を海外移管するのではなく、日本と海外拠点の住み分けを検討しておく必要があります。
まず技術/ノウハウの観点です。オリジナル材料や中核部品等、独自に開発したノウハウ・技術を強みとするものについては、日本の工場で生産するという選択を取る場合が多く存在します。しかし、最終需要は海外で最終製品の製造を行いたいことから、工程を分解しノウハウが組み込まれる生産工程までの中間品を日本で製造し海外拠点に供給します。一方、一貫生産を指向すべき製品の場合は、ノウハウの源泉となる金型・冶工具の製造を日本で行い、海外に生産移管するという手法も考えられます。
また、製品立上時と製品立上後に役割を分担するということも考えられます。この場合は、国内拠点を設計・開発・パイロット生産拠点とし、量産試作から海外拠点へ移管し、量産までの技術支援を行い量産化を推進するという手法です。
2.集中生産か、分散生産か
製品ごとに一箇所で生産すべきか、あるいは複数拠点で分散生産すべきかということを考える際には、以下のような評価軸を持って検討することが必要です。
・生産コスト
・輸送コスト
・法人実効税率
・為替変動対応
・顧客レスポンス
・製品品質
・サプライチェーンリスク
・技術流出リスク
・カントリーリスク
これらを評価することでQCDのみならず、リスクも考慮した生産配置が可能になります。顧客のニーズに対応することが優先されるため、顧客の近隣に生産拠点を配置し、現地調達などによりコスト低減をすることは有効となりますが、カントリーリスクや為替リスクがある場合は、製品別や事業ごとに国や地域を分散させることが望ましいです。
3.どの地域で生産するか
世界6極(日本/中国/アジア/欧州/北米/中南米)の拠点配置の基本的な考え方です。
各市場向けの生産は基本的にそのエリアで生産することが望ましいと考えます。しかしながら、日系企業においては以下のようなことも検討されています。
日本:海外工場のマザー工場機能として統制を行う
中国:昨今はコスト高騰などの理由により、内陸またはアジアに生産移管をする動きもある
アジア:部品生産の集積拠点として注目されており、今後も拡大傾向が見られる
欧州:コスト低減の観点から中東・北アフリカに生産移管を検討する企業も存在している
中南米:北米・中南米市場向けの生産拠点
バリューチェーン視点での生産拠点配置検討
バリューチェーン視点では、拠点を一生産拠点という位置付けのみではなく、最大限の利益を生み出すためにはどうすればよいかが求められます。
具体的には、バリューチェーンを設計開発・調達・生産・物流・販売・サービスと機能分解し、これらがどこの拠点に配置させるべきかを検討することが有効です。
機能配置は以下のような点を勘案し、検討します。
設計開発:製品コンセプト、アプリケーション、技術/工法/工程
調達:優遇税制、仕入先属性(地域/資本等)、原材料/部品の種類、調達方法/形態(開発購買、集中購買等)
生産:優遇税制、工法/工程(溶接/組立等)、使用原材料、製品
物流:優遇税制、輸配送元/先・モード、保管形態、物流拠点所在地、配送量及び頻度、制度対応(各種規制等)
販売:顧客属性(地域/資本等)、販売チャネル、製品特性(カテゴリ等)、製品ライフサイクル、アップセル/クロスセル、業務区分
サービス:メンテナンス、コールセンタ
拠点配置においては、複数拠点を跨って最終製品を製造する場合もあるので、サプライチェーン全体の通算限界利益を比較し、高付加価値を提供している工場を存続させると意思決定をする事例もあり、機能配置という観点を考慮することが、利益創出という観点では重要であると考えます。