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私立大学経営に求められるマーケティング戦略 ~選ばれる大学になるために~

差別化と分かりやすいコミュニケーションの手法(第2回)

主に国内の大学等における新入学生の多くを占める18歳人口の減少など、大学を取り巻く環境が大きく変わる中で、これまでと同じように、大学が教育や研究の観点において社会に価値を提供し続けるためには、大学にとってのステークホルダーから「選ばれる大学となる」ことが重要となります。そのためには、大学においてもマーケティングの考え方を取り入れていくことが有効だと考えられます。

第1回レポート(マーケティング手法を用いた基礎的分析)の振り返りと第2回レポート目次

今後、大学は18歳人口の減少などの厳しい環境に対峙しなければならないことが予想されています。そのような環境の中で、持続可能な経営を行うには、「選ばれる大学になるしくみ」を整えることが求められています。
第1回レポート(マーケティング手法を用いた基礎的分析)ではそのための第一歩として、「事業の特性」や「市場環境」、「顧客の特徴」などの基礎分析を進めていきました。そこから読み取れたポイントとして「他大学との差別化」や「わかりやすいコミュニケーション」が求められていることを見てきました。

※第1回レポートの全文はコチラからご覧ください

本レポートでは、他大学との差別化や、わかりやすいコミュニケーションをどのように検討し、実行していけばよいかについて、考察を加えていきます。


■目次

1. 差別化の方法

  (1) 差別化とは何か

  (2) 差別化を考えるステップ

2. わかりやすいコミュニケーションの方法

 

 

差別化の方法 (1)差別化とは何か

まず初めに、他大学との差別化とはどのようなことなのかを考えていきます。図1は、差別化として目指すべき領域を図示したものです。
差別化として目指す領域を検討するにあたっては、当然のことではありますが、それが「1.自身の大学が提供したい・提供できる価値」であることが求められます。自身の大学として目指したくない領域や、実現可能性の低い領域を差別化の軸とすることはできません。続いて「2.競合大学が提供できる価値」とは異なるものであることが求められます。第1回で分析したとおり、大学教育は入学の意思決定に当たり、比較検討されるという特徴を持つサービスです。そのため競合大学との差をわかりやすく明確に伝える必要があります。そして忘れてはいけないことが、「3.顧客が期待する価値」と合致しているということです。競合大学と違うことをしようとするばかりに顧客の期待から外れたことをしては、差別化の意義が失われてしまいます。以上の3つの観点を踏まえ、差別化を検討するステップについて説明していきます。
 

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差別化の方法 (2)差別化を考えるステップ

ステップ1:自身の大学が提供したい・提供できる価値を明確にする

差別化を考えるうえで、まず大切になるのが「1.自身の大学が提供できる・提供したい価値」を明確にすることです。この領域を明確にできないと、差別化方針が現場に根付かなかったり、机上の空論となってしまったりという事態に陥ります。差別化を確実に実現させていくためにも、このプロセスを丁寧に実施することが求められています。図2は、「自身の大学が提供できる・提供したい価値」を明確にするための検討手順を図示したものです。

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はじめに、建学の理念やディプロマ・ポリシー(DP)、カリキュラム・ポリシー(CP)、アドミッション・ポリシー(AP)、教職員の思い、外部環境分析等から、大学として目指したい姿を明らかにします。その姿と大学の保有する資源との整合性が取れるのかを確認し方向性を修正するというプロセスとなります。
このプロセスを進めるにあたり、マーケティングで使われる「ペルソナ」と呼ばれる手法を活用していただきたいと思います。ペルソナとは「大学が提供するサービスの対象として、最も重要で象徴的な顧客像」を具体的に示す手法のことです。ここでポイントになるのが「具体性」です。各大学では、既にアドミッション・ポリシー等で、理想的な学生像を設定しているものと考えられます。一例を挙げると「大学で学んだ知識を活用し、社会の様々な分野で貢献したい人」といった表記です。ペルソナは、それをさらに具体的に考え、学生の生活や行動、意思決定の要因・背景を明らかにしていくものです。

以下ではペルソナの活用方法について説明をします。ペルソナのイメージを持っていただくため、表1のシートをご覧ください。このシートには、ある架空の大学における最も重要な顧客像に関する情報を記載しています。
 

ペルソナはあたかも実在する人物のように設定され、鮮明なイメージを提供してくれます。良いペルソナは、具体的で現実味があり、広報やカリキュラムデザイン等の意思決定に寄与する内容が含まれていることが求められます。ただし、内容に正解があるわけではないため、多くの教職員でディスカッションをしながら、関係者が合意できるペルソナ像を描くことが重要です。

 

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ペルソナ設定までの簡単なプロセスを紹介していきます。まずは、自身の大学に入学してくる学生の特徴(エリア、偏差値、志望動機等)を定量データから把握します。それにより、自身の大学がターゲットにしている領域を明らかにします。次に、建学の精神や各種ポリシー等を参考にしながら、理想的で象徴的な学生像の要素を決定していきます。この際、必要に応じてターゲットに合致していそうな学生へのヒアリングを行います。その後、教職員の多様な方々を巻き込んだディスカッションを行い、先のペルソナシートの項目を埋めていきます。その際、ペルソナが入学し、成長し、卒業していく姿をストーリーで語ることができるよう留意します。また、学生のペルソナから派生し、保護者についてイメージを具体化していくことも有効です。保護者については、「収入」や「最終学歴」「ライフスタイル」「こどもの育成において重視する点」などの項目について考えを深めていきます。これらの作業にあたっても、ただ単に理想を並べるだけでなく、自身の大学の特徴や資源と整合性がとれるように留意する必要があります。
ペルソナは、自身の大学が提供したい・提供できる価値を具体化し、明確なイメージとして多様なステークホルダー間で共有することを助けるツールになります。差別化を考える最初のステップとして、ぜひ作成することをお勧めします。


ステップ2:競合大学には提供できない領域を発見する


差別化を考える、続いてのステップは、「2.競合大学には提供できない領域を発見する」ことです。大学という商品は、比較・検討を通して入学の意思決定がなされるため、わかりやすい差異を示すことが重要となります。そういった他大学には提供できない差異につながる要素として、一般的に以下のような内容が想定できます。


(A) 他大学にはないコンセプトを有している
(B) 他大学にはない資源を有している(教員、施設、講義室、先輩、ブランド)
(C) 他大学にはないコスト優位性を有している
(D) 他大学にはない価値提供の手段(オンライン講座等)を有している


競合大学との差異を検討する際、どうしても(B)の資源の保有状況ばかりに思考が終始してしまいがちです。しかし、ここで最も重要なのは(A)のコンセプトの部分だと考えられます。明確なコンセプトを持ち、それを実現するために一貫した取り組みがなされている大学は、資源の保有による差異よりも模倣されにくい固有の差異を有することができます。この点が弱いという場合は、ぜひステップ1に戻り、「自身の大学が提供したい・提供できる価値」を具体的に考え、それを提供するための一貫した仕組みづくりを検討することがポイントと言えます。

ステップ3:顧客が期待する価値との整合性を再度確認する

差別化を考える最後のステップは、これまで考えてきた方針が、顧客不在の考えになっていないかを改めて確認していただくというものです。ステップ2のように、競合大学との差異を考えていくと、どうしても、顧客不在の差別化に陥りがちです。差別化の要素は顧客が求めており、顧客にとって意味のある差異でなければなりません。そのため、最後のステップとして、改めてその差別化の方針は顧客が期待するものなのかを考え直していただきたいと思います。

わかりやすいコミュニケーションの方法

差別化の検討手順について、ステップを追ってみてきました。続いて、ここまでの内容を活用しながら、顧客にとってわかりやすいコミュニケーションを実現するための方法を紹介していきます。第1回の内容とも重複しますが、コミュニケーションを検討・実行するうえで、次の3つの事項が重要なポイントとなります。


 (1) 学校として統一されたメッセージを発することができているか
 (2) 伝えたい人の関心に深く即したコミュニケーションができているか
 (3) 抽象化された分かりやすい情報発信ができているか
以下でそれぞれについて見ていきます。

(1) 学校として統一されたメッセージを発することができているか


顧客に対し、わかりやすいコミュニケーションを実現していくためには、大学内部で認識を統一し、ぶれることのないメッセージ発信をしていくことが重要です。しかし、大学全体で認識の統一を図ることは簡単ではありません。多くの学校が掲げている顧客像や大学として提供したい価値は抽象的で、多様な解釈の余地が残っています。そのため、経営部門・企画部門の考えが、現場の教職員に伝わった時には、まったく異なる内容になってしまっているという事態が生じていることが少なくありません。
これらの状況を防ぐには、差別化のために検討してきた内容が有効です。特にペルソナの設定は、具体的な方向性共有の助けとなるでしょう。方向性が明らかになっていれば、学校としてのコミュニケーションはぶれることがなく、顧客は一貫した価値を感じることができます。それらの一貫性は、中長期的にはブランド価値創出にもつながる資源となります。

(2) 伝えたい人の関心に深く即したコミュニケーションができているか


ターゲットとしている顧客にしっかりと届くコミュニケーションを実現するためには、相手のことを深く理解したうえで、どのような情報を、どのような媒体を通じ、どのようなタイミングで発信していくべきなのかというコミュニケーション戦略を考えることが求められています。ここでも、ペルソナを活用することができます。「東京に住む、偏差値50程度の高校3」という情報だけでは、具体的なコミュニケーション戦略を考えることはできません。しかし、「ペルソナの加藤さん(表1参照)」という情報があれば「大学でどの程度実践的な学びが得られるのかを知りたがっている」「HP情報はスマートフォンからでも見やすい形式にする必要がある」「まずはオープンキャンパスに来てもらい、そこで大学の魅力を伝えることが重要になる」といった具体的なコミュニケーションの戦略を立てることができます。
また、学生本人の他に、保護者や高校の先生方といった多様な存在が意思決定に関与してくることも忘れてはいけません。保護者や高校の先生についても、ペルソナの手法を応用し、深い理解に基づいたコミュニケーション戦略を立てていくことが有効です。

(3) 抽象化されたわかりやすい情報発信ができているか


大学入学のように、十分な検討の元で意思決定される、かつ、外からだと実際の価値がわかりにくいという特徴を持つ商品・サービスに対し、顧客は抽象化されたわかりやすい情報を好む傾向がある旨を第1回では確認しました。抽象化されたわかりやすい情報発信においても、ペルソナで作ったストーリーを使うことができます。ペルソナで作成した、「入学し、大学で学び、社会に出て活躍していく」という一連の流れの紹介は、顧客にとってもイメージを共有しやすく、大学の理解を促してくれます。それらのストーリーをイメージ動画としたり、類似する実際の事例を、先輩学生やOB・OGから話してもらうという手法は、その効果をさらに高めることができるでしょう。
 

さいごに

第1回、2回レポートにおいて大学経営に求められるマーケティング戦略というテーマで考察を加えてきました。冒頭で触れたとおり、マーケティングの考え方は、市場や顧客の状況を深く理解した取り組みを実施するための手法であり、大きな環境変化が予想され、競合大学との競争激化が予想される中で、重要性を増していくものと考えられます。
大学の中でマーケティングの考え方を取り入れることは決して難しいことではありません。「当たり前になり、意識していなかった市場のルールを改めて考え直してみる」「抽象的な言葉で考えを止めていた顧客像を具体化してみる」。そういった簡単な内容から、マーケティングの活用を進めていただきたいと思います。また、本内容を参考に、現場オペレーションの在り方、テクノロジー利用、組織の在り方などの現場へ落とし込んでいただければと思います。
 

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