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学校教育における「観点別学習状況の評価」と「評定」の関係
学校教育現場において、観点別学習状況の評価の仕方について高い関心が寄せられています。その中でも特に関心が高い「主体的に学習に取り組む態度」に関する評価の在り方と評価方法、および評定との関係について解説します。
観点別学習状況の評価とは
現行の学習指導要領(平成29・30・31年改訂学習指導要領)では、核となる考え方として「何ができるようになるのか」「何を学ぶのか」「どのように学ぶのか」が挙げられています。このうち「何ができるようになるのか」においては、「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養」という3つの資質・能力の柱で整理されており、この3つ柱の観点で各教科の学びの目標や内容を見通すのが観点別学習状況の評価です。具体的には、観点別学習状況の評価には「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点があります。授業を計画・実施し、授業を受けた児童生徒を評価するうえで、これらの3つの観点をもって児童生徒の学習状況の評価および授業の改善を行うことが求められています。
出所:文部科学省「新学習指導要領下における学習評価及び指導要録の改善について」 P.3
評価の在り方
学校における児童生徒の学習評価の主たる目的は、「児童生徒にどういった力が身に付いたか」という学習の成果を的確に捉え、教師が指導の改善を図るとともに、児童生徒自身が自らの学習を振り返って次の学習に向かうことができるようにすることです。このため学習評価は、児童生徒の学びの質に関わる重要な役割があるといえます。
評価というと通知表の数字のような記録のイメージが強いかもしれませんが、学習評価には「記録に残す評価」と「記録に残さない評価(指導に生かす評価)」があります。記録に残さない評価(指導に生かす評価)の代表的な例として「見取り」による情報があります。「見取り」とは、授業中の児童生徒の反応を見極めることで、児童生徒の興味関心や課題、考えを把握することです。見取りから得られる情報は、授業を展開するうえでも、児童生徒の学習プロセスのうえでも非常に重要です。しかしながら、その情報を記録に残す必要性はありません。たとえば、ある生徒が授業のある話題に強く反応し、いつもよりも真剣に話を聞いていたとします。この反応から、その生徒がその話題への興味関心が強いことを見取ることができ、そこからその生徒に合った話題で学びを促すことができるかもしれません。ここで、仮にこの生徒が授業中に強い興味関心を態度で示したことをもって、成績にプラスの評価として数字で反映したときに、どのような不都合が生じるでしょうか。詳しくは後述しますが、成績には学校外への説明責任を果たす役割があるため、評価規準が曖昧であるとその信頼性が揺らぐ事態になってしまいます。
見取りにより得られる情報は指導上、非常に有益ですが、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について(答申)」に『評価の観点のうち「主体的に学習に取り組む態度」については、学習前の診断的評価 のみで判断したり、挙手の回数やノートの取り方などの形式的な活動で評価したりするものではない。』とあるように、見取りから得られた情報を記録に残す評価として扱うことが妥当ではないケースがあることに注意しなければなりません。
評価の種類
「見取り」以外にも記録に残さない評価(指導に生かす評価)として、「形成的評価」が挙げられます。「形成的評価」の目的は、学習活動が当初の目的を達成しつつあるのか、どのような点で軌道修正が必要であるのかについての情報を指導の途中で入手することであり、その情報には児童生徒がどの内容についてどこまで目標を実現しているのか、どこでつまずいているのかということも含みます。たとえば、教師が生徒の理解度を確認するために、単元の途中で中間チェック的に行う小テストは形成的評価にあたります。単元の途中で行う小テストの結果を成績に反映させることは、一見妥当なように見えますし、実際にそれが妥当であるケースもあります。たとえば、当該小テストの存在を事前に告知し、同時にその小テストの実施目的(その教科の知識がついているかどうかを確認する等)を明示したうえで、その成果を知識・技能の習得成果として成績に反映させる旨も伝えてあるケースでは妥当であるといえます。しかし、あくまで児童生徒の理解度の確認を主たる目的として小テストを実施する場合には、その実施目的を鑑みて、記録に残す評価とせず、指導に生かす評価として扱うことが妥当だといえます。
以上のように、評価には記録には残さず、指導に生かすために使われる評価があります。なお、形成的評価は学習のプロセスの視点で評価を分類したもので、学習活動が行われている期間に行われる評価です。学習のプロセスの視点で分類した評価には形成的評価のほかに、「診断的評価」と「総括的評価」があります。「診断的評価」は、学年初めや単元の指導に入る前に、その学年やその単元の内容を習得するのに必要な資質・能力を、生徒が身に付けているかどうかをテストなどによって診断する目的で実施します。「総括的評価」は、ある一定期間の学習が終了したあとに児童生徒の目標の実現状況を総括的に明らかにすること、また、指導計画の終了時に学習者が学習の目標やねらいをどの程度実現できたかを調べ、それをもとに指導の改善をすることを目的にして実施されます。「総括的評価」は指導に生かす評価であると同時に、記録に残す評価になります。
「主体的に学習に取り組む態度」の評価イメージとは
3つの観点のうち、「主体的に学習に取り組む態度」の評価については、教員による見取りや児童・生徒による自己評価や相互評価などによって行われます。「主体的に学習に取り組む態度」には様々な姿勢や行動が含まれていますが、文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センターの「学習評価の在り方ハンドブック」では、「粘り強い取組を行おうとする側面」と「自らの学習を調整しようとする側面」を2つの軸として挙げています。「主体的に学習に取り組む態度」の評価では、これらの側面に紐づく児童生徒の姿勢や行動の現れをみていきます。
出所:国立教育政策研究所「学習評価の在り方ハンドブック(小・中学校編)」 P8,9
評定と「主体的に学習に取り組む態度」の評価の方法
評定とは、生徒の学習状況について学校外への説明責任を果たす役割でつくられます。そのため、評定をつけるうえで使われる「記録に残す評価」は、明確な評価の根拠が必要になります。評定は3つの観点を総括してつくられます。たとえば「知識・技能」の観点であれば、総括的評価として行う定期試験で知識の定着を問う問題を設定し、正誤を採点して評価することが一般的です。このような評価の仕方であれば評価規準が明確であるため、妥当性が高いといえます。一方で、「主体的に学習に取り組む態度」は「知識・技能」のような評価の方法が難しいため、評定に含める評価を行う際には注意と工夫が必要になります。こうした課題の解決策の1つとして、文部科学省の「学習評価に関する資料」では、「ルーブリック」を用いた評価方法が挙げられており、学校現場で注目されています。
ルーブリックとは、米国で開発された「目標に準拠した評価」のための「規準」づくりの方法です。ルーブリックは学習者が何を学習するのかを示す評価規準と、学習者がどのレベルの学習到達状況かを示すことができます。具体的な評価規準をマトリクス形式で示していて、学習者の「パフォーマンスの成功の度合いを示す尺度」と、「それぞれの尺度に見られるパフォーマンスの特徴を説明する記述語」で構成される評価ツールとして使用されています。
出所:文部科学省「新学習指導要領下における学習評価及び指導要録の改善について」P11
終わりに
観点別評価による評定算出は、学校教育現場において大きな関心と課題があるテーマです。ルーブリック評価においては全国的に様々な取り組みがなされています。総合型選抜等、一般型選抜以外の選抜による入学者が国公立・私立大学を合わせて過半数を占めるようになった昨今においては、選抜結果に関わる評定を定める評価の方法とその妥当性には大きな関心が寄せられています。
参考
文部科学省教育課程部会 児童生徒の学習評価に関するワーキンググループ(第12回) 配付資料
国立教育政策研究所 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料
国立教育政策研究所 評価についてのQ&A