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令和7年度適用開始の新学校法人会計基準の概要 vol.1

補助金の適正配分の目線からステークホルダーへの情報開示の目線への変革

根拠法の違いにみる現行会計基準と新会計基準の違い

①「私立学校振興助成法」に基づく現行会計基準

現行の学校法人会計基準(以下、「現行基準」という。)は、私立学校振興助成法(以下、「助成法」という。)を根拠として運用されています。助成法は、経常費補助金などの各種補助金制度を規定し、私立学校振興施策の根拠となっている法律です。国家財政が厳しい昨今でも、学校法人には学校教育が果たす社会的役割とその高い公益性に鑑み多額の税金が投入されていますが、税金が投入されている以上、各法人には正確かつ比較可能性の高い補助金等の配分計算が求められています。その実現のためには、各法人が同一基準に則った計算書類を作成する必要があり、現行基準が運用されています。

②「私立学校法」に基づく新会計基準

令和7年度から適用される新学校法人会計基準(以下、「新基準」という。)は私立学校法(以下、「私学法」という。)を根拠として運用されます。学校法人制度創設後70年余りが経過する中で社会経済情勢が変化しており、昨今はクラウドファンディングなど資金調達方法を多様化する法人、収益事業の拡大により経営を多角化する法人が増加し、法人のステークホルダーも多様化しています。この状況を踏まえ、学校法人のより高い公共性を確保し、ガバナンス強化を図るため私学法が改正されました。上記のような学校経営の変化に対応するため、学校法人会計基準は、助成法から私学法に基づくものへ位置づけが変更され、想定するステークホルダーの範囲を広げたことが新会計基準の特徴です。

改正私学法の概要については、デロイト トーマツのナレッジ「令和5年 私立学校法の改正の概要」も併せてご参照ください。

新学校会計基準の計算関係書類の体系

新基準では、より幅広いステークホルダーへ情報開示するため、計算書類の体系が見直されています。大きくポイントを4つに分けて解説します。

ポイント①:現行基準から変更のない計算書類

  • 資金収支計算書(内訳表を除く)
  • 活動区分資金収支計算書
  • 事業活動収支計算書(内訳表を除く)
  • 貸借対照表

以上4書類は、新基準上も「計算書類」として取り扱われ、現行基準から重要な変更点はありません。

ポイント②:新基準では位置づけが変更される現行の計算書類

  • 資金収支内訳表
  • 人件費支出内訳表
  • 事業活動収支内訳表

上記3書類は新基準上では作成を要求されません。しかし、助成法施行規則で所轄庁への提出が求められるため、作成実務は継続します。

  • 固定資産明細表
  • 借入金明細表
  • 基本金明細表

上記3書類は新基準上、ポイント①の計算書類の「附属明細書」として、名称がそれぞれ「固定資産明細書」「借入金明細書」「基本金明細書」に変更されます。なお、様式も一部変更箇所があるため、この点はvol.2で解説します。また、新基準ではポイント①の「計算書類」と「附属明細書」とを合わせて「計算関係書類」と呼称します。

ポイント③:新基準で新たに加わる事項/項目

  • 注記事項
  • 財産目録

上記2書類は新基準で新たに追加されます。「注記事項」は新基準の計算書類の末尾に記載することが明確化され、従来の注記項目から一部変更点が生じています。また「財産目録」の様式は、現行基準や関係法令で明確な規定が存在しませんでしたが、新基準では、作成基準等が新設されています。「注記事項」の変更点、「財産目録」の様式については、vol.2で解説します。

新学校法人会計基準の適用スケジュールと決算スケジュール

会計監査人設置かつ私学助成を受ける法人の場合で想定される新基準適用スケジュールの一例を紹介します。

令和6(2024)年
9月:学校法人会計基準の一部を改正する省令公布(新基準確定)
10月:適用に向けた法人内準備開始
12月:令和7年度予算を新会計基準に基づき作成

令和7(2025)年
4月:新会計基準適用開始
4月:現行基準に基づく令和6年度計算書類及び財産目録の作成作業
5月:現行法令・基準に基づき、令和6年度助成法監査及び監事監査を実施

令和8(2026)年
4月:新基準に基づく令和7年度計算関係書類及び財産目録並びに助成法に係る各種内訳表(上記ポイント②を参照)の作成作業
5月中旬:会計監査人による私学法監査及び助成法監査を同時に実施
6月中旬:会計監査人による私学法監査及び助成法監査報告
6月下旬:監事による会計監査人私学法監査報告の相当性評価及び監査報告
6/30まで:
〈私学法監査〉理事会承認を経て計算関係書類及び財産目録を公表
〈助成法監査〉理事会承認を経て計算書類等及び各種内訳表を所轄庁へ提出

以上が、新基準の適用及び適用時の決算スケジュールの一例です。

実際の適用は令和7年度からですが、適用年度に係る予算案の作成は当年より開始されることが想定されるため、実質的な適用は既に始まっているといっても差し支えない状況です。適用に向けた法人内の体制整備が早急に求められます。

vol.1の終わりに

vol.1では総論として、新基準の改正趣旨、計算関係書類の体系、適用スケジュールを解説しました。

今回の現行基準から新基準への移行に当たっては、負債項目に新たに引当金を計上するという会計処理の大きなトピック(詳細はvol.2で解説します)はあるものの、日常的な会計処理には重要な変更が生じていません。しかし、これまでの解説で、開示書類作成の目的、開示書類の位置づけなど、学校法人会計基準の根本が変更されている大改正であることをお分かりいただけたのではないでしょうか。

vol.2でも引き続き新基準について解説します。内容は新基準の計算関係書類体系の詳細です。そちらも併せてご覧ください。

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