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ウズベキスタンへの本邦企業の参入可能性と今後のウズベキスタンにおける経済改革の注目点
ウズベキスタンにおけるビジネス環境改善と日本企業の進出可能性 (3)
ウズベキスタンのビジネス環境と日本企業の事業機会や今後のウズベキスタン国内の政策動向の注目事項等について考察を行う。本連載の最終回となる今回は、ウズベキスタンへの本邦企業の参入可能性と今後のウズベキスタンにおける経済改革の注目点を紹介する。
目次
- ウズベキスタンへの本邦企業の参入可能性
- ウズベキスタンへの進出の利点
(1) 市場としての将来性と日本企業のアドバンテージ - ウズベキスタンへの進出の利点
(2) 日本企業の強みが活かせる事業環境 - まとめに変えて:道半ばの経済改革・新たな大統領の手腕に期待
- 関連トピック
【第3回】
本連載の最終回となる今回は、ウズベキスタンへの本邦企業の参入可能性と今後のウズベキスタンにおける経済改革の注目点を紹介する。
ウズベキスタンへの本邦企業の参入可能性
前回までに記述したとおり(第1回、第2回)、日本は政治・経済の両面から漸進主義を進めてきたウズベキスタンとの関係を緊密化させてきた。
以下では、今回の現地調査を踏まえ、ウズベキスタンへの本邦企業の参入可能性について課題と利点の双方を踏まえ、検討していく。
外国企業の進出を阻む課題
日本企業の現地進出を阻む最大の要因が、ウズベキスタン政府による為替管理である。
ウズベキスタン政府は、国内での商取引で自国通貨スムの使用を義務付けているため、外国企業が現地で取引を行う場合、スムで支払いを受けることになる。
また、外国との商取引でドルを使用する場合、企業は外貨購入に際して銀行に対して兌換申請書」と「外国パートナーとの契約書」を提出し、ウズベキスタン政府公認銀行からの通貨両替許可を受けた上で取引所外市場で外貨購入を行うことが許されるなど、国内通貨の兌換性が極めて低い*10。
また、スムの外貨交換レートは取引所外市場での交換レート、マネーサプライの動向およびインフレーションの動きを考慮に入れて中央銀行により決定される*11など、厳しい為替管理が行われている。
上記の為替管理に加え、送金などの銀行システムも脆弱であるため、外国企業が進出しても、売上を国外へ持ち出すことが極めて困難である。
また、国家規模で見れば順調に経済成長を続けているもの、1人当たりGDPは2,000ドルにとどまっており、外国製品や国外から輸入した商品を買える人口が非常に限られている。
政府の統制の強さもあり、進出企業にとって長期の需要予測が立てにくく、事業投資計画が立てにくい点も、企業の進出を阻む要因となっている。
表 1 CIS諸国の1人当たりGDP(2014)
ウズベキスタンへの進出の利点
(1) 市場としての将来性と日本企業のアドバンテージ
次に、日本企業のウズベキスタンへの進出の利点を検討する。
先述した通り、多数の課題を抱えるウズベキスタンであるが、市場としての魅力は中央アジア諸国の中でも最大級である。
下記は、中央アジア5か国の社会・経済情勢を示したものである。
もっとも目につくのは、国土・経済規模ともにトップクラスを誇るカザフスタンである。
同国は、ベースメタル、石油、ウラン、レアアースの埋蔵量が豊富で近年の資源価格の高騰を背景に、豊富な資源を誇る資源大国としても注目されており、投資環境も中央アジア5か国の中で群を抜いてすぐれているため、魅力的な投資先となっている。トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスは人口規模・国土面積から考えても急速な経済成長の期待は薄い。
ウズベキスタンを見ると、3,000万人以上の人口規模による人口ボーナス期であることが分かる。また、外貨規制という最大の障壁はあるが、ビジネス環境を見ると「許可取得までに時間はかかる」ものの、「契約履行の強制力は強い」という特色があり、一度参入すれば商契約の執行は比較的安定的に行われていることが分かる。
上記のような、人口ボーナスやビジネス環境の改善状況を鑑みると、ウズベキスタンは市場としての魅力と成長の潜在性を徐々に高めていると言える。
*10 JETRO HP「ウズベキスタン:外国企業の会社設立手続き・必要書類(https://www.jetro.go.jp/world/russia_cis/uz/invest_09.html)」
*11 閣僚会議決定第422号「国内外国為替市場での交換レート統一に関する諸措置について」( 2001年10月25日付)閣僚会議決定第294号(2001年7月10日付)付属書第2号規則「取引所外外国為替市場での外貨の売買に関する取引遂行手続について」
図 3 中央アジア5カ国の社会・経済情勢
表 2 ビジネス環境ランキング2016(ウズベキスタンは前年比16位上昇)
(2) 日本企業の強みが活かせる事業環境
また、ウズベキスタンの産業構造を見ると、日本企業にとって参入しやすい環境であることが分かる。
まず第一に、ここ数十年でウズベキスタン国内で私企業の活動が活発化している点である。
先述した通り、基幹産業では国営企業を中心とした産業構造が残されているものの、過去10年間でGDPの60%、雇用の80%を中小企業が占めるまでに成長するなど、急速に国内で私企業が勃興している。
図 4 ウズベキスタン国内の中小企業の成長(2010-2013)
実は、こうしたウズベキスタン国内での中小企業の増加にも日本の協力が貢献している。
例えば、大臣会議令及び大臣令によって設立された教育分野のNPOである「ウズベキスタン日本人材開発センター(以下センター)」では、ウズベキスタン国内の中小企業の経営者・幹部層向けの「ビジネス人材育成コース」と日本語学習者向けの「日本語コース(初級・中級レベル)」の2種類の研修を実施している。
同コースの受講者の大半は中小企業(従業員50名以下が約80%)の経営者や幹部層である。
業種別の比率は製造業約20%、非製造業約80%であり、これまでに多数の卒業生を輩出している。
こうした日本の経営手法を学んだ優秀な中小企業経営者・幹部が存在していることも、日本企業にとってウズベキスタンへ進出する際には大きなアドバンテージである。
また、やや停滞気味であるが、ウズベキスタン政府は経済体制の近代化を促進するための法整備を進めている。
例えば、2015年4月に旧ソビエトの経営方式からの近代化促進と外資による投資促進に向け、全てのJSCを対象としたコーポレート・ガバナンスの強化に関する大統領令(UP-4720)が公布された。
これにより、2015年7月以降、全てのJSCとその子会社は財務諸表の公表と2018年を目途にIFRSに基づいた財務報告と国際監査基準(International Standards on Audit: 以下ISA)に基づいた外部会計監査を行うことが義務付けられるなど、近代的経営手法が徐々にウズベキスタンでも導入されつつある。
このように、人口規模や高い成長の潜在性、また日本企業に有利な事業環境の存在など、実はウズベキスタンは日本企業にとって進出しやすい環境が整備されつつあるのである。
また、ウズベキスタン政府も漸進的に外資誘致のための事業環境整備や民営化を促進する方向であるため、近い将来、外貨規制が緩和/撤廃される可能性は十分存在する。
こうした機が熟した際に、諸外国企業との進出競争に打ち勝ち、事業機会を獲得するためにも、現時点からウズベキスタンへの進出可能性の検討など、準備を進めることが肝要である。
まとめに変えて:道半ばの経済改革・新たな大統領の手腕に期待
以上、ウズベキスタンのビジネス環境の分析を通じて、日本企業の同国への進出可能性を検討してきた。
本パートでは、まとめに変えて、過去の日本の経験から、今後のウズベキスタンの経済改革の注目点を指摘したい。
最大の注目点は、為替制限の撤廃、具体的には国際通貨基金(IMF)協定第8条国への移行である。
IMFは、自由貿易による国際貿易の拡大と為替の安定を目的に設立された組織である。そのため、IMF 協定第8条*12では経常取引に対する為替制限は禁じている。
しかし、各国の社会・経済状況には差異が存在するため、運用上の特別措置として、暫定的に為替制限等の措置を続けること(過渡期規定)が14条で認められており、為替制限を実施している国は「14 条国」と呼ばれる。
何故IMF第8条に注目すべきかといえば、現在のウズベキスタンのGDPと1人当たりGDPを見ると、戦後日本がIMF第8条国へ移行した時期と重なっているためである(図5)。
現在でこそ経済大国化している日本も、下記のとおり、段階的に外貨規制を撤廃し、経済自由化への道を進んできたのである(表3)。
ミルジョエフ新大統領の下で、カリモフ時代に停滞していた経済改革がどれほど進むのか、またIMF8条国への移行が実現するかが今後のウズベキスタンの経済成長のターニングポイントとなる。
表 3 日本の外貨規制撤廃の歴史
- 1949年 外国為替及び外国貿易管理法制定
- 1950年 外資に関する法律制定(外国為替及び外国貿易管理法の特別法)
- 1952年 IMF加盟(為替制限が認められる14条国)
- 1950年代後半 高度成長局面
- 1959年 IMF総会で為替制限撤廃要求
- 1960年 日本政府は貿易為替自由化促進閣僚会議設置(1月)
「貿易為替自由化計画大綱」を決定(6月) - 1964年 IMF8条国へ移行(為替制限の撤廃)
- 1970年代以降 国際収支の黒字基調化を背景に資本取引の自由化が急速に進む
図 5 ウズベキスタンの経済成長と日本の経済成長との比較
*12 IMF協定第8条(為替制限の撤廃) (1)経常為替取引の制限の撤廃、(2)複数為替レートや2国間の支払協定などによる外国通貨間の差別的措置の撤廃、(3)経常的な為替取引で非居住者の取得した通貨の交換性の保証
本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
執筆者
有限責任監査法人トーマツ
アドバイザリー事業本部ODAインフラチーム 原田 幸憲
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