事例紹介

スマート東京先行実施エリアプロジェクト(東京都)

スマートシティ化実現に向けた先行実施エリア(西新宿・大丸有・竹芝・豊洲)を支援

デロイト トーマツは東京都が推進するスマート東京政策の先行実施エリアである西新宿、大丸有、竹芝、豊洲エリアにおけるスマートシティ実現に向けた支援を行っている。エリア戦略、都市OS、ファイナンス、運営組織等をテーマに、各種エリアにおけるスマートシティの社会実装を後押しするべく、知見を提供している。

東京都におけるスマートシティ実現の課題

東京都は、これからのまちづくりに必須となるデジタル技術やデータ活用が、世界の他都市に対して後れを取っている状況を踏まえ、2020年2月に「スマート東京実施戦略」を提示し、デジタルテクノロジーを最大限に活用することでまちのデジタルトランスフォーメーションを進めることを政策として明示した。

その後新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延により社会構造や人々の価値観が大きく変化したことを受け、With/After COVID-19時代に東京都心部が目指すべき姿を検討し、デジタルテクノロジーで実現する従来と異なるスマートシティの必要性が高まった。

また、これまで多くの民間企業や行政、有識者などによりスマートシティの検討や実証は進められてきたが、真の意味での社会実装ができているとは言えず、実装に向けた強力な推進が必要であると認識していた。

そこで、東京都は、将来的には都内全域へ展開することを見据えつつ、まずは、西新宿エリア及び、都心部の大丸有エリア、竹芝エリア、豊洲エリアなどを先行的に実装に取り組む“先行実施エリア”と定め、分野横断型のリアルタイムデータ連携やデジタル技術を活用し、社会課題解決に向けて官民連携で強力に推進するプロジェクトを立ち上げた。

プロジェクトにおいては、東京都心部のまちづくりは、大手デベロッパーを中心とした民間企業が主導する形でまちづくりが進められるという特徴があることから、民間主導のスマートシティ実現を後押しするために行政がすべき施策や支援を模索していた。

デロイト トーマツのアプローチ

デロイト トーマツではスマートシティを実現するための4つのキーワードを挙げており、東京都及び先行実施エリアの民間企業と連携しながら関連する取り組みを展開している。

 

① 異なる価値を結ぶ:トータルバリュープロジェクトデザイン

各エリアには今までのまちづくりの歴史があり、現在も居住者、通勤・通学者、来街者が多く活動している。例えば西新宿エリアは1960年代に大規模な再開発が構想され、高層ビルが立ち並ぶがエリアへと変貌してきた。しかし、半世紀を超える月日とともに人々のライフスタイルは変容し、昨今はCOVID-19によりさらなる変化が求められている。そこで、西新宿エリアでは、デジタルテクノロジーを活用して人々の生活の質を高める官民共同の西新宿スマートシティ協議会を立ち上げた。同協議会において、いまエリアで活動している人々がどのような困りごとを抱えており、生活の質を向上するために解決するべき課題は何か、アンケートやヒアリングを通じて調査を行い明らかにした(ボトムアップのアプローチ)。また同時に、これからエリアに集めたい、都市で創造的活動を行う人々(アーティストやプロフェッショナル、スタートアップの方々など)へのヒアリングを行い、With/After COVID-19の都心部として西新宿エリアが求められている役割は何か明らかにした(トップダウンのアプローチ)。今いる人、これから来てほしい人、双方の生の声を集めることで西新宿エリアが抱えている課題を分析し、解決の方向性を示した。まちづくりは長い年月をかけて取り組むべきものであるが、デジタルテクノロジーを活用することで短期的に解決できることもある。西新宿エリアでは、デジタルテクノロジーを活用することに着目し、課題解決を図る実証実験を多数行っている。

 図1:西新宿エリアの課題と解決の方向性
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② 人と人を結ぶ:コミュニティ起点のクロスセクター連携

まちの課題解決を図るうえでは、自治体と居住者はもちろんのこと、新たな技術やサービスを開発している民間企業や居住者以外の通勤・通学者、来街者とも共創していくことが重要となる。既に台湾や(vTaiwan)バルセロナ(Decidim)でもデジタルテクノロジーによる合意形成が進んでいるように、従来以上にオープンで透明性の高い意思決定プロセスを実現することで、より多くの個人がスマートシティプロジェクトに参加できる仕組みを構築しようと取り組んでいる。例えば西新宿エリアでは、エリアのSNSコミュニティを構築し、スマートシティプロジェクトに関連する双方向コミュニケーションの環境を用意することで、より気軽なプロジェクト参加を可能とする取り組みを進めている。結果として、まちに対する愛着や課題解決に対する当事者意識が醸成され、コミュニティが起点となったスマートシティの実現が期待できる。

また、都心部においては民間企業複数社によって構成されるエリアマネジメント組織(エリマネ)が、自治体から指定される都市再生推進法人としてまちづくりの中心的役割を担っているケースが多く、民間企業主導型のスマートシティ実現という他エリアとは異なるテーマが特徴的となっている。この場合、論点となるのは自治体とエリマネの役割分担である。特に公共性の高い領域のサービス(防災など)は、最低限のサービスと付加価値としてのサービスの境界線を明確にしづらく、アイディアを実行する段階において体制が課題として浮き上がる。先行実施エリアの都心部3エリアにおいては三者三様の連携体制が描かれるべきと考え、エリアごとに防災をテーマとした検討を進め、ナレッジシェアをする取り組みを進めている。

図2:台湾・バルセロナの合意形成プロセス
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③ 都市とデータを結ぶ:まちづくりと都市OS構築・活用戦略の一体化

スマートシティ実現に向けては、分野を横断したリアルタイムデータの活用が不可欠であり、エリアに特化した都市OS(エリアOS)は民間企業が主導することになる。そのデータ活用の基盤として、データ統合や可視化、分析などを行うデータプラットフォームと、ユーザーとの双方向コミュニケーションを可能とするユーザーインターフェースの設計に取り組んでいる。都市OSを構築することはあくまで手段であるため、活用する目的(=スマートシティ戦略)から検討し、整合を取りながら取り組むことが重要となる。当然ながらエリアによって目指す形が異なり、エリアの基盤として整備するデータや実装する機能はエリアの課題や体制などを踏まえて個別最適化することとなる。構築に向けたアプローチとして、最初から都市OSを構築しきるのではなく、エリアの戦略に則り、提供するサービスの中で限定的な範囲の実証を行うことで、都市OSのあるべき姿を模索しながらアジャイル型でチャレンジする形をとっている。また、データ活用にあたり、まちなかの人々のプライバシーへの配慮が欠かせない。データが支える社会において、個人が不快な思いをすることなく、安心して過ごせる環境をつくるために取るべきコミュニケーションも並行して検討している。

図3:エリアOSの位置づけ
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④ 都市と資本を結ぶ:スマートシティファイナンス

各エリアにおいて、スマートシティを実現するための大きな課題のひとつにファイナンスが挙げられている。日進月歩で進化する技術を社会実装していくことの必要性は理解しているが、民間企業(エリアマネジメント組織)が中心となり、まちづくりを行う都心部エリアにおいては、その社会実装に対する投資による利益創出が大きな関心ごとになっており、様々な議論が交わされている。先に挙げたクロスセクター連携や、都市OSの実現においても、ファイナンスが大きな鍵を握っている。都市OSについては、電気や水道、道路・橋梁などと並ぶ新たな都市インフラと位置づけ、長期的な運営を見据えた検討を進めており、国家戦略特区での規制緩和や税制優遇措置の必要性も議論されている。民間企業はビジネスチャンスとして短期的なP/Lで意思決定を行ってしまわざるを得ないこともあるが、B/Sの観点で都市OSなどを捉え、長い目で取り組んでいくことが求められている。また、新たな投資の形として、ESG投資やクラウドファンディング、STO(Security Token Offering)が注目されている。今まではビル単位などで投資が行われていたが、まちを単位として投資が行えるようにし、そのツールとして各種投資手法を活用するという考え方である。個人のまちづくりの参加促進や都市OSの登場を踏まえ、スマートシティにおけるファンディングにおいても新たな手法を模索・検討している。

図4:スマートシティファイナンスとしての資金調達・マネタイズの考え方(例)
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本取り組みを通じて目指す姿

スマート東京先行実施エリアにおける各種取り組みの結果として、東京都が目指すWith/After COVID-19に向けた、まちのデジタルトランスフォーメーションは間違いなく進み、デジタル技術活用が前提となったニューノーマルなライフスタイル・ワークスタイルの実現に近づくことができる。また、先行した取り組みが共有されることで都内市区町村や各エリアの自治体・エリアマネジメント組織のスマートシティに取り組む機運が醸成されるだろう。先行実施エリアは画一的な方向性で取り組んでいるのではなく、エリアの状況に合わせてカスタマイズしたスマートシティの実現を目指している。各エリアでのスマートシティのプロジェクトデザインやクロスセクター連携、都市OS、ファイナンスの取り組みによって得られる成功と失敗が教訓となり、蓄積され、東京都ひいては全国のスマートシティ化に大きく貢献することになる。また、世界から後れをとっているといわれるデータ活用ではあるが、民間企業が主導するスマートシティは世界に類を見ない取り組みであり、世界のスマートシティ分野において参考とされるリファレンスシティになることは間違いなく、東京の国際競争力強化にも大きく貢献することになるだろう。

お問合せ

スマートシティに関するお問い合わせは以下のメールアドレスにご連絡ください。

デロイト トーマツ グループ Future of Cities
jpdtfutureofcities@tohmatsu.co.jp

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