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公営企業主要施策の取組状況調査結果の解説 令和6年10月総務省

1.総務省による取組状況調査結果の公表

令和6年10月25日に、総務省から令和5年度における公営企業における更なる経営改革の取組状況が公表されました。総務省では公営企業の主要施策として「経営戦略の策定・PDCA」と「抜本的な改革の検討」を改革の両輪とし、「公営企業の見える化」(公営企業会計適用、経営比較分析表)を改革の両輪を支えるものと位置付けています。このうち、経営戦略の策定・改定状況、抜本的な改革の取組状況及び公営企業会計の適用状況について毎年調査を行い、その結果が公表されています。

出所:総務省「全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議」(令和6年1月23日開催)資料1 公営企業課関連資料  13ページ

 

公営企業シリーズにおいて、経営戦略抜本的改革公営企業会計の適用について解説してきたところですが、本稿で実際の取組状況について考察していきます。

2.経営戦略の策定状況について

経営戦略は、総務省から令和2年度までの策定が要請されていました。令和6年3月31日時点において、経営戦略を策定済みの事業は6,350事業(全事業の97.8%)であり令和5年度までに未策定の事業は141事業(同2.2%)となっています。 事業別にみると、令和5年度までで未策定の事業数は、多い順に宅地造成35事業、下水道19事業、観光施設18事業となっており、各事業の事業数に占める割合を高い順にみると、宅地造成事業14.2%、と畜場事業13.2%、市場事業10.6%となっています。

参考:総務省「公営企業の経営戦略の策定・改定状況」別紙2

 

令和5年度の調査で令和4年度に策定済みとなっていた事業は全体で6,325事業であるのに対し、令和6年3月31日時点で策定済みになった事業は6,350事業であることから、25事業は令和5年度中に策定が完了したことが分かります。

また、総務省では経営戦略策定済みの団体について、より質の高い経営戦略となるよう、令和7年度までの改定を要請しています。令和4年度までに改定済の事業は1,639事業であるのに対し、令和6年3月31日時点で改定済みの事業は2,137事業(経営戦略策定済み事業の33.7%)であることから、498事業は令和5年度中に改定したことが分かります。さらに、令和7年度までに改定予定の事業は3,633事業となっております。

令和5年1月に開催された全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議において、経営戦略の策定を要件としている地方財政措置については、令和8年度以降は経営戦略の改定を要件とする予定であることが示されていますので、未策定の事業は早急に策定・改定を行うことが必要です。また、令和6年1月に開催された同会議では、当該地方財政措置の要件となる経営戦略の改定に当たっては、下記①~④の取組を盛り込んだ経営戦略の改定を要件とする予定であることも示されていますので、留意が必要です。

① 今後の人口減少等を加味した料金収入の的確な反映

② 減価償却率や耐用年数等に基づく施設の老朽化を踏まえた将来のおける所要の更新費用の的確な反映

③ 物価上昇等を反映した維持管理費、委託費、動力費等の上昇傾向等の的確な反映

④ ①②③等を反映した上での収支を維持する上で必要となる経営改革(料金改定、広域化、民間活用・効率化、事業廃止等)の検討

出所:総務省「全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議」(令和6年1月23日開催)資料1 公営企業課関連資料  20ページ

 

なお、総務省では、「経営・財務マネジメント強化事業」のうち課題達成支援事業の対象となる団体として、令和6年3月31日時点で経営戦略を策定していない公営企業について、以下のとおり公表しています。

対象団体一覧

経営戦略未策定事業の策定支援や改定にあたっての見直し支援のため、「策定・改定ガイドライン」や「策定・改定マニュアル」の公表に加え、令和3年度より総務省と地方公共団体金融機構の共同事業である「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」が開始されています。

<参考>経営・財務マネジメント強化事業とは?

3.抜本的な改革の取組状況について

公営企業における抜本的な改革の検討は、平成21~25年度に集中的に取り組むことが要請されていたことに加え、平成26年8月の「公営企業の経営に当たっての留意事項について」(平成26年8月29日付総財公第107号・総財営第73号・総財準第83号総務省自治財政局公営企業課長等通知)により引き続き推進することが要請されています。平成26年の新たな要請による取組状況の公表は平成28年3月31日時点から毎年度実施されています。

令和5年度(令和6年3月31日時点)の調査によると、令和5年度の取組件数合計は264件となっています。

「広域化等」は、令和4年度の83件から令和5年度は100件に増加しています。これは、令和4年度までに、各都道府県が、汚水処理の事業運営に係る広域化・共同化計画や、水道広域化推進プランを策定し、令和5年度から、計画やプランに基づき、広域化等の取組が徐々に実施され始めたことが要因と考えられます。また、「事業廃止」の令和5年度の件数は、97件となっており、事業別の主な内訳は下水道事業25件、宅地造成事業21件、介護サービス事業18件となっています。

4.公営企業会計の適用状況について

公営企業会計の適用は、人口3万人以上(平成22年国勢調査ベース。以下、同じ。)の団体の簡易水道、下水道(公共下水道及び流域下水道に限る)については、令和2年度の予算・決算までに取り組むことが総務省から要請されていました。令和6年4月1日時点において、簡易水道事業111事業、下水道事業のうち公共下水道事業及び流域下水道事業1,157事業ともに、すべての事業が取組を完了しています。

また、平成31年1月には、人口3万人未満の団体における簡易水道及び下水道、並びに人口規模を問わず集落排水事業等のその他下水道事業についても、令和6年度の予算・決算までに公営企業会計の適用が要請され、要請期限を迎えて、大半の事業が適用済みになりました。

なお、要請の期限は経過しましたが、令和6年1月には、重点事業については、特に公営企業会計を適用する必要性が高いことから、早急に公営企業会計を適用することが必要であることが「公営企業会計の適用の更なる推進について」(令和6年1月22日付総財公第1号総務省自治財政局長通知)により示されています。 

さらに、同通知では、資本費平準化債の発行について、重点事業は令和7年度から、その他の事業は令和11年度から公営企業会計の用を要件とする予定であることも示されたため、重点事業に限らず、資本費平準化債を活用しようとしている事業については、法適用の取組みを進める必要がある点に留意が必要です。

出所:総務省「全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議」(令和6年1月23日開催)資料1 公営企業課関連資料  23ページ

 

出所:総務省「公営企業における更なる経営改革の取組状況」(令和6年10月25日)別紙4(3)公営企業会計適用の取組状況

 

令和5年4月1日時点と比較した令和6年4月1日における取組状況は、人口3万人未満の簡易水道事業では、「適用済」が昨年度から比較して154事業(調査時点事業数の36.1%)から388事業(同95.1%)へ、下水道事業においても756事業(同46.8%)から1,582事業(同98.3%)とどちらも大幅に増加しています。取組中の事業も含めると、簡易水道では418事業(同97.9%)から401事業(同98.3%)へ、下水道事業では1,600事業(同99.1%)から1,599事業(同99.4%)へと件数は減少していますが、割合はいずれも98%を超えています。

人口3万人未満の団体において一定の進捗が見られますが、簡易水道、下水道ともに一部の団体では「検討中」又は「検討未着手」となっています。上述した通り、令和6年1月に、早急に公営企業会計の適用が必要であることが総務省より公表されていることから、法適用の意義を踏まえ、取組が遅れている事業についても、早急に推進していくことが必要です。

参考:総務省「公営企業会計の取組状況」(令和6年4月1日時点)

 

なお、総務省による取組状況調査では、重点事業として位置付けられている簡易水道、下水道のみ結果が公表されていますが、平成31年1月に公表されたロードマップでは、その他の事業についても、公営企業会計に「できる限り移行」することとされていることから、公表対象とされなかった事業においても取組を進めることが望まれます。また、令和6年1月には、その他の事業の中で、特に、資産規模が大きく、多額の更新投資を要する公営企業を経営する地方公共団体においては、「積極的に」適用を検討することが重要であると総務省より示されています。

総務省では、下水道事業及び簡易水道事業で、令和5年度までに公営企業会計を適用していない公営企業について以下のとおり公表しています。

対象団体一覧

さらに、公営企業会計の適用促進にあたっては、マニュアル・先進事例集の公表や都道府県による支援、地方財政措置に加え、前述の「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」によるアドバイザー派遣が令和3年度から開始されています。

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