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公会計情報を活用した予算編成のためのセグメント分析の取組み
特集 公会計情報の活用の進め方
効果的な公会計情報の活用を検討するうえで、自団体の課題解決のために参考となる、先進事例を知ることは有用です。 本記事では、公会計情報の活用事例として、熊本県宇城市における予算編成のためのセグメント分析の取組みを解説します。
1. まえおき
本記事では、地方公会計に関する取組事例集における熊本県宇城市の「セグメント分析(予算編成への活用)」の事例を紹介します。
財務書類を作成するために公会計情報を整備したことで、固定資産台帳における資産価値の金額情報やフルコスト情報が把握可能となりました。把握した公会計情報を活用し、施設別のセグメント分析を実施することで、施設の適正配置や効率的・効果的な管理運営のあり方検討の一助となり、より実態に即した施設評価が可能になっています。
一方で、多くの団体では財務書類の作成過程で公会計情報にセグメント単位(施設)の情報を紐づけていません。そのため、これらの団体がセグメント分析を実施する場合、セグメント単位(施設)における公会計情報の集計作業が追加で生じてしまい、時間的制約から予算編成への活用が困難となっています。
施設別のセグメント分析の結果を予算編成に活用していくためには、セグメント単位(施設)の情報を早期に集計出来る仕組みづくりが重要になると考えられます。具体的には、各団体の特性や状況に応じた予算科目の設定や、仕訳データにセグメント単位(施設)の情報を紐づけるなど、既存の業務フローの見直しが必要であると考えられます。
2. 事例解説
(1)背景・目的
宇城市は、平成17年1月に旧宇土郡三角町、不知火町、下益城郡松橋町、小川町、豊野町の5町が合併して誕生したため様々な課題がありました。中でも、行政コスト計算書の他団体比較で物件費等が多いことが判明し、少子高齢化、市民ニーズの多様化、合併による生活圏の変化に合致した施設規模・配置などに課題があった施設の統廃合に着手することになりました。改革を実施するにあたり、合併時点では、事業や施設管理の予算編成の基準が旧町ごとに異なっていたため、予算編成時点で行政コスト等の比較検討をすることが必要でした。
図:将来バランスシートと具体的な改善策
出典:地方公会計の活用の促進に関する研究会(第1回)「資料4 地方公共団体の事例(熊本県宇城市資料)」を参考に作成
(2)取組内容
宇城市では、施設の効率的な運営や維持管理の合理化を図ることを目的として、施設毎のバランスシートと行政コスト計算書を作成し、施設毎の収入・支出の状況を明らかにしました。手動処理をなるべく避けるために予算科目を細かく設定したことで、予算編成時点で事業別・施設別等の行政コスト計算書等を作成することが可能となりました。これにより、利用者一人当たりコストや利用状況等を勘案した上で、施設や事業の在り方を検討することが可能となりました。また、仕訳を意識した細々節の設定により、予算執行時点で固定資産に係る仕訳が起票され、固定資産台帳への登録漏れの防止に役立っています。
また、図書館や公民館などの統廃合の実施に際しては、住民などの利害関係者に対し、公会計情報を活用した施設の問題点及び管理運営の改善策等を公表するなど、行政の意思決定の透明性向上を図っています。
表:取組内容のポイント
○予算科目の設定(款・項・目の下に担当係別、施設別等に事業単位を設定)
→予算編成時点において事業別・施設別等の行政コスト計算書等を作成し比較分析
○固定資産台帳への登録要否を勘案した「細節」や「細々節」の設定
→地方公会計の財務書類の各勘定科目への仕訳対応
図:予算編成のための仕組みづくり
出典:総務省「地方公会計に関する取組事例集【事例】予算編成のための行政コストの比較(熊本県宇城市)」を参考に作成
図:施設別バランスシート・施設別行政コスト計算書の作成
出典:地方公会計の活用の促進に関する研究会(第1回)「資料4 地方公共団体の事例(熊本県宇城市資料)」を参考に作成
図:セグメント分析(施設の統廃合)
出典:地方公会計の活用の促進に関する研究会(第1回)「資料4 地方公共団体の事例(熊本県宇城市資料)」を参考に作成
3. 自団体への活用にあたって
宇城市の事例を参考に自団体で同様の取組みを検討する場合、以下の点に留意する必要があります。
(1)財務書類の作成目的の確認と業務フローの見直し
公会計情報の活用が進まない理由として、多くの団体で財務書類の作成自体が目的となっており、分析やその後の活用を踏まえた業務フローとなっていないことが挙げられます。活用をより一層推進するためには、手動処理をなるべく避けるなどの業務効率化の方策について、各団体の特性や状況に応じた検討が必要となります。例えば、財務会計システムと一体的な地方公会計システムの導入や表計算ソフトのマクロを活用することで、予算執行時の仕訳変換を効率的に行う仕組みを構築することが考えられます。
表:統一的な基準による公会計自治体対応(初期設定の例)
○事業別・施設別に対応した事業体系への見直し
○予算科目に応じた資金仕訳変換表の設定
○人件費等の各種の按分設定
出典:地方公会計の活用のあり方に関する研究会(第3回)「資料2 宇城市に於ける公会計情報活用と財務会計システムのポイントP14」を参考に作成
(2)予算科目の事業別・施設別の情報への紐付け
セグメント分析の結果を予算編成に活用するためには、セグメント単位(施設)の決算情報を早期に集計し、翌年度の予算編成時までにセグメント分析を終わらせておく必要があります。そのためには、予算科目を事業別・施設別の情報にあらかじめ紐付けておき、決算分析の結果をそのまま予算編成に生かせる仕組みを構築することが考えられます。
表:現行宇城市の歳出予算体系
○目の下に事業別・施設別の事業設定
○事業設定は担当係別設定
○委託料・工事費・備品購入等の節の下に細節を細かく設定
○細節の下に説明コードを設定
○説明コード別に決算統計コード及び仕訳コードを割振り
出典:地方公会計の活用のあり方に関する研究会(第3回)「資料2 宇城市に於ける公会計情報活用と財務会計システムのポイントP15」を参考に作成
以上
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【特集 公会計情報の活用の進め方】に関するコンテンツ一覧
- ①総論 公会計を含む財務会計情報を行政経営に活用する際のポイントとは?
- ②事業別予算・決算による行政評価への公会計活用
- ③課別・事業別行政評価シートによる事業マネジメント
- ➃市民参加型事業評価の取組み
- ⑤固定資産台帳を活用した受益者負担の適正化について
- ⑥公会計情報を活用した予算編成のためのセグメント分析の取組み
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- 地方公会計に関する最新の動向
- 財務書類の作成・固定資産台帳の更新に関するナレッジ
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