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事業別予算・決算による行政評価への公会計活用

特集 公会計情報の活用の進め方

効果的な公会計情報の活用を検討するうえで、自団体の課題解決のために参考となる、先進事例を知ることは有用です。本記事では、小規模団体に着目して、人口5千人程度の小規模団体における事業別予算編成・決算と公会計情報の活用の取組みを解説します。

1. 公会計情報活用の現況

地方公共団体においては、平成28年度決算から統一的な基準に基づく財務書類の作成が開始されています。制度開始より一定期間が経過し、直近の総務省「統一的な基準による財務書類の作成状況等に関する調査(令和4年3月31日時点)」においては、令和4年3月31日時点において令和2年度決算に係る一般会計等財務書類を作成済であった団体は、90%超と回答されており、地方公会計制度が一定程度定着したことが認められます。

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他方、依然として財務書類等の活用が十分に進んでいない状況と見受けられ、どのように活用を行っていくかが課題であるといえます。例えば、同調査において、「施設別・事業別等の行政コスト計算書等の財務書類を作成した」と回答した団体は75団体(4.2%)と、施設別・事業別行政コスト計算書等を作成し、それを予算編成や各種計画策定等に活用している団体はまだ少数であることが示されています。

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本記事では、総務省の地方公会計の推進に関する研究会で先進事例として紹介されたこともある福島県古殿町の協力を得まして、小規模団体における「事業別予算編成・決算と地方公会計活用の取り組み」の事例を紹介します。また、各団体で活用する際の留意点を解説します。公務ご多忙の中、ご協力いただきました古殿町の職員の皆様に厚く御礼申し上げます。

 

2. 事例解説

(1)背景・目的

古殿町は、官庁会計の歳入歳出予算書や決算書の中で必要に応じて費目の説明を行っていました。しかし、いわゆる「款・項・目・節」の目的別・性質別の予算編成では、総合計画との整合性がとりづらいことや、どの事業にどれだけ予算を投入しているのかが分かりづらく、予算査定等がしにくいという課題がありました。

 

(2)取組内容

古殿町では、総務省から統一的な基準による財務書類作成の要請があった際に、単に財務書類を作成するだけでなく、これを機に予算編成等の行政マネジメントの課題の改善を同時に行うべきとの考えに基づき、取組みを推進されています。

具体的には、総合計画、実施計画で位置づけられた事業をもとに、事業別予算書、事業別決算書を作成し、予算編成から行政評価までを一気通貫して実施する仕組みを構築することで、予算の「見える化」を図るとともに、庁内におけるPDCAサイクルの構築、さらには総合計画の進捗管理を行えるように、取組みを進められています。

【総合計画を起点とするPDCAサイクルの構築】

こちらは官庁会計の歳入歳出情報だけでも実施可能ですが、減価償却費を含む行政コストや貸借対照表等の情報があると、より深度のある行政評価が可能となるため、公会計情報の活用を前提として取組まれています。そのためには、基礎となる公会計情報が「正確」かつ「効率的」に提供できることが重要であり、それを可能とする公会計体制の整備が進められています。具体的には、予算科目の見直しによる整理仕訳の削減や、期末一括仕訳方式から日々仕訳方式への変更、固定資産台帳上での固定資産と事業の紐づけなどを進められています。

なお、日々仕訳方式を導入する中で、これまで外部委託していた固定資産台帳更新事務は、自団体内部で実施(内製化)できることが分かったため、内製化を図られています。

上記取組みは、行政マネジメントの見直しを含むもので複数年かけて現在進められているところであり、事業別決算書及び事業別財務書類の作表や行政評価等への活用は今後実施予定とのことです。

 

(3)取組みの効果

事業別予算・決算の導入により、以下の効果が見込まれます。

  • 予算の「見える化」、事業ごとのコストの可視化、限られた予算の適正配分
  • 最上位計画である総合計画を起点とするPDCAサイクルの構築、総合計画の進行管理
     

また上記のほか、予算科目の見直しや、日々仕訳方式の導入、固定資産台帳上の事業との紐づけ作業などの地方公会計の取組みの効果は以下があげられます。

  • 公会計情報の正確性向上、作成の早期化・効率化
  • 自治体職員の公会計知識の向上及びコスト意識の向上
  • 公会計情報の予算編成等への活用
     

例えば、道路の改修工事の予算要求の査定の際に、路線別の有形固定資産減価償却率の情報を公会計情報として活用することで、路線別の改修工事の優先順位付けなどが可能になります。この場合、路線別の有形固定資産減価償却率という客観的なエビデンスに基づき予算の査定を行うことが可能になりますが、これは昨今推進されているEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)への取組みにもつながります。

なお、路線別の有形固定資産減価償却率情報を利用するためには、路線別に固定資産情報が得られるよう、固定資産台帳を整備更新する必要があります。

 

3. 自団体への活用にあたって

古殿町の事例を参考に自団体で同様の取組みを検討する場合の留意点を4点解説します。

(1)全庁的な取組み体制の構築

予算編成や行政評価という既存の行政システムに改善を加えるものであるため、トップマネジメントの理解と全庁的な合意形成が重要となります。

古殿町で実施できている要因としては、首長などのトップマネジメントの理解と全庁的な取組み体制の構築が可能であった点が考えられ、こうした点からは、大規模団体よりも小規模団体の方が全庁的な合意形成が実施しやすいという面があるものと考えられます。

(2)事業単位の設定

予算編成から決算までを事業別で一気通貫して行う際には、「事業」の単位設定が重要となります。

古殿町では、総合計画に基づく事業の実施とその進行管理を行うことを意図して、基本的には総合計画を基に事業単位の設定を行っていますが、どの単位設定が適しているかは、各団体の事情に基づき検討する必要があります。

(3)事業別予算書・決算書等の様式

行政評価等を実施するにあたり、どのような情報が必要かは各団体によって異なります。作成すべき事業別予算書・決算書等の様式を検討する際に、公表されている他団体の様式をそのまま用いた場合、情報に過不足が生じ、使いづらいものとなる可能性があり、注意が必要です。

この点、古殿町では、まず、予算編成等にどういった情報が必要かという観点から公会計に限定せずに広く検討し、その中で公会計情報の活用を検討するというスタンスと取っています。

(4) 職員の負荷軽減の取組み

事業別予算書、事業別決算書の作成では、職員の負荷をなるべく抑える工夫が求められます。

古殿町では、例えば財務会計システムから予算データを既存機能によりデータ出力したのち、表計算ソフトのマクロ機能にて事業別予算書へ転記できるようにすることで、事業別予算書の作表にあたって同じ情報を何度も入力する手間を無くしています。財務会計システムを改修して事業別予算書様式でデータ出力させようとすると、高額な予算が必要となりますが、表計算ソフトのマクロを活用することで、システム自体の改修を避けることで、コストを抑えることが可能です。

また、古殿町では、予算科目が1対1で複式仕訳に変更できるように、予算科目の見直しを行い、仕訳変換の自動化を図っています。これにより、日々の複式仕訳への変換作業において勘定科目を選択する機会が減り、複式簿記になじみのない職員でも比較的容易に事務処理が行えるよう取組まれています。

日々仕訳方式は仕訳処理の負担がデメリットに挙げられることが多いですが、予算科目の見直しによる仕訳変換の自動化により、改善を図ることが可能です。

以上

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