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課別・事業別行政評価シートによる事業マネジメント

特集 公会計情報の活用の進め方

自団体の課題解決のために公会計情報を効果的に活用するうえで、先進事例を知ることは大変有用です。本記事では、公会計情報の活用事例として、東京都町田市における課別・事業別行政評価シートによる事業マネジメントの取組を解説します。

1. まえおき

本記事では、総務省「統一的な基準による地方公会計マニュアル(令和元年8月改訂)」において財務書類等活用の先進事例として紹介された東京都町田市の「課別・事業別行政評価シートによる事業マネジメント」の事例を紹介し、各団体で活用する際の留意点を解説します。会計情報をセグメント単位に細分化することで、施策や事業の見直しなどに資する情報を得ることが可能です。

 

2. 事例解説

(1)背景・目的

町田市では、資産や負債、コストの状況をよりわかりやすく分析・公表できるよう、従来より、決算統計をもとに貸借対照表及び行政コスト計算書を作成していました。ただ、こちらは会計全体の財務書類であったため、十分に活用されていないという課題がありました。これを受け、市長の政策的判断により、平成24年4月にこれまでの日々の会計処理に発生主義に基づく複式簿記による会計処理を行う「新公会計制度」を新たに導入するとともに、各組織・事業でストック情報及びフルコスト等を把握し、的確な財務マネジメントを実施する目的で、課別・事業別行政評価シートによる事業マネジメントの取組導入方針を決定しました。

(2)取組内容

町田市では、官庁会計では限定された事業費しか把握できず、資産などのストックが把握できないといった状況において、将来に向けた政策の検討ができないという課題を識別しており、より的確な財務マネジメントの強化を行うために、「課別・事業別行政評価シート」を作成することとしました。
「課別・事業別行政評価シート」の作成により、事業の成果と事業に要したコストを結び付けて当該事業の有効性・効率性を検討することを目的として、各事業の成果である非財務情報がフルコストの財務情報と関連させて評価することが可能となっています。また、「課別・事業別行政評価シート」は、町田市の施策に関する評価が網羅されている資料であり、決算認定時に「課別・事業別行政評価シート」をもとに事業評価の議論を行うとともに、予算編成・政策立案へ反映させることが期待できるものとして、地方自治法第233条第5項に定める「主要な施策の成果に関する説明書」として位置づけられています。

 

図:「課別・事業別行政評価シート」の全体像(トーマツ作成)

町田市「町田市の新公会計制度」(平成23年12月)によると、 「課別・事業別行政評価シート」は、課単位での財務報告である「課別行政評価シート」と特定事業単位の財務報告である「事業別行政評価シート」の2種類で構成されます。「課別行政評価シート」は、全ての課で作成している一方で、「事業別行政評価シート」は、個別に有効性や経済性を分析する必要がある事業について作成しています。

 

図:個別事業の分析の全体像

出典:町田市「町田市の新公会計制度」(平成23年12月)P12を一部加工

 

「課別行政評価シート」は主に、①組織の概要と前年度までに識別された課題、②事業の成果、③財務情報、④総括で構成されています。
「①組織の概要と前年度までに識別された課題」では、事業の現状を把握するため、基本情報と昨年度の課題を記載しています。
「②事業の成果」では、行政評価のための費用対効果の分析を行う目的で、事業の成果の情報を記載しています。
「③財務情報」では、行政コスト計算書、貸借対照表等の財務情報を記載しています。
「④総括」では、これまでに把握した事業の成果や財務情報、財務構造分析、個別分析の結果などを総括し、どのような財務上の課題があるのか把握したうえで、把握された財務上の課題に対する解決策を検討しています。

また、「事業別行政評価シート」も、構成は「課別行政評価シート」とほぼ同様ですが、利用者1人当たりコスト等の単位当たりコスト分析を行っている点に違いがあります。単位当たりコストを用いて各事業を横断的に比較することができるため、各事業における業務コストの差異を見える化することが可能です。また、これにより各事業のスクラップビルドや実施手法の改善、維持管理費・運営費の見直し等今後の事業のあり方に関する政策的議論に役立ちます。
加えて、単位当たりコストを他団体との比較や民間企業との比較などに活用することもできます。平成28年6月に開催された第11回 経済・財政一体改革推進委員会の町田市提出資料において、他団体比較によるベンチマーキングが紹介されています。この他団体比較によるベンチマーキングにより、行政サービスのコストを切り口に、行政サービス提供にかかる多層な要因を検証することが可能となります。

他団体比較によるベンチマーキングの目的は以下のとおりです。

 

図:他団体比較によるベンチマーキングの目的

出典:内閣府「第11回 経済・財政一体改革推進委員会」資料5-1(平成28年6月)P8

 

さらに、「課別・事業別行政評価シート」をもとに「同種施設比較分析表」を作成することにより、各施設の運営状況の違いを見える化しています。この分析表で各施設の課題に関する気付きを得るとともに、それらの課題について市内の他の施設や他市・民間企業のデータと比較することで、改善策の検討に役立てることができます。

 

図:町田市が作成する「同種比較分析表(図書館)」

出典:町田市「令和3年度(2021年度)課別・事業別行政評価シート」(令和4年8月)P35

 

(3)取組の効果

「課別・事業別行政評価シート」により、例えば以下の情報を得ることができます。

・事業の成果と関連付けた行政コスト

・行政コストの経年比較

・単位当たりの行政コストによる効率性の分析

・事業のストックについての財務情報

・事業類型別の財務分析

・財務分析で明らかになった課題

これらの情報を各事業の改善・改革に活用した結果、総務省「統一的な基準による地方公会計マニュアル(令和元年8月改訂)」P382に記載のとおり、以下の効果が得られたとのことです。

(1)組織風土改革
各課の職員が、課別・事業別行政評価シートの作成を通じて、PDCAサイクルを意識して業務に取組むようになり、コスト意識が高まった。

(2)市民への説明責任の向上
課別・事業別行政評価シートを作成している事業の中から、市民にとって身近な事業を取り上げた課別・事業別行政評価シートのダイジェスト版を作成している。庁内会、自治会及び市が協働で開催する市政懇談会で市長が市民と対話する際に、ダイジェスト版を活用し、事業の成果や利用者1人当たりコスト、財源構成を円グラフで説明し、説明責任の向上を図っている。

 

3. 自団体への活用にあたって

町田市の事例を参考に自団体で同様の取組を検討する場合の留意点を2点解説します。

(1)全庁的な取組み体制の構築

行政評価という既存の行政システムに改善を加えるものであるため、トップマネジメントの理解と全庁的な合意形成が重要となります。町田市で実施できた要因としては、市長の政策的判断により、トップダウンで庁内検討組織を立ち上げ、財政課や会計課の職員を中心に関係各課により構成される作業部会を設置し浸透を図ったことが挙げられます。

(2)事業単位の設定

マネジメント単位ごとの区分を明確化するため、一課一目など、予算体系の組替が有効です。これにより各事業の評価に関する責任を明確にすることができます。

また、継続的な取組にするためには、簡易に課別・事業別行政評価シートを作成できる仕組を構築することが重要です。具体的には、各目の執行データを集計することで効率的に各事業の評価に用いる財務会計情報を収集することができるよう、仕訳データ作成の時点で、個々の仕訳に事業単位の情報を紐づける必要があり、会計システム及び予算科目設定の見直しを行うことが重要です。
町田市では、予算科目の歳出目をマネジメントの単位と位置づけていることから、予算体系を一課一目に組替えることとしました。

 

図:町田市における予算科目の見直し例

出典:町田市「町田市の新公会計制度」(平成23年12月)

 

以上

 
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