最新動向/市場予測

令和4年度公営企業管理者会議について

公営企業の最新動向解説

令和5年度の公営企業施策として特に重視されているのは、「社会情勢を踏まえた経営戦略の改定」「GXの取組強化」「公営企業会計の適用」の3点であり、その後押しとして経営・財務マネジメント強化事業の継続や、地方財政措置の拡充が説明されています。

1. 令和4年度公営企業管理者会議の開催

総務省は、毎年1月に公営企業の管理者を対象とした「全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議」を開催しており、令和4年度においても、令和5年1月24日に開催されたところです。公営企業管理者会議は、翌年度の総務省の公営企業施策が説明される場であり、令和5年度からの新たな地方財政措置等も説明されています。

公営企業管理者会議の冒頭には、馬場健公営企業担当審議官より挨拶があり、主に以下の3点が紹介されました。これらは特に重点を置いた施策と考えられます。

  • 中長期的な経営戦略を策定・改定する場合には、料金収入の減少、新型コロナ感染症の影響、電気料金の高騰など、公営企業を取り巻く経営環境の変化を反映する必要があること
  • GX実現に向けて、経営・財務マネジメント強化事業に新たにGXの取組が追加されるとともに、地域脱炭素に係る公営企業の取組に対して、地方財政措置が拡充されること
  • 公営企業会計の適用については、重点事業である下水道・簡易水道に対して令和5年度の期限に間に合うように計画的に取組を進めるべきであること

本稿では、これらを含め、特に新規の施策を中心に、公営企業管理者会議について解説を行います。

なお、公営企業管理者会議の資料は、総務省のウェブサイトに掲載されているほか、当日の説明会の様子は、一般財団法人自治体衛星通信機構のウェブサイトにおいて令和5年8月31日(予定)まで視聴可能となっています。本稿では、新規の施策を中心に解説していることから、詳細や過年度から継続された施策については、これらの資料や動画を確認していただければと思います。

【参照】公営企業管理者会議資料(外部サイト)
          公営企業管理者会議の動画(外部サイト)

 

 

2. 公営企業全体に関する施策

公営企業は、一般会計と異なり事業ごとにその経営状況の良し悪しが判断される状況にあるなか、人口減少に伴う収入の減少、老朽化対策に伴う支出の増加、事業を担う人材不足等の経営課題があり、これらは緊急性の高い課題であると言えます。これら公営企業全体の課題に関する施策については、会議資料のうち、資料1「公営企業課関係資料」にまとめられており、菊地公営企業課長からは、主に次の事項が発信されています。

(1) 地域脱炭素(GX)の推進

GX実現に向けた基本方針(令和4年12月22日GX実行会議決定。その後、令和5年2月10日閣議決定)において、地域脱炭素の基盤となる重点対策を率先して実施するなど、地方公共団体の役割が拡大したことを踏まえ、新たに地方財政措置として、脱炭素事業費が創設されています。対象事業は、太陽光発電、公共施設等のZEB化などの公共施設等の取組に加え、小水力発電の導入をはじめとした公営企業特有の事業も対象となっています。対象事業費の2分の1に脱炭素化推進事業公営企業債が充当可能であり、財政力に応じて交付税措置されます。また、残りの2分の1についても通常の公営企業債が発行可能であり、これに対しても通常の交付税措置が行われます。
なお、財政措置については、国の地球温暖化対策計画の集中取組期間と合わせ、令和7年度までの時限措置とされています。

(2)公営企業のDXについて

公営企業の持続可能な経営の確保に取り組むことが喫緊の課題として認識されていることから、「デジタル田園都市国家構想総合戦略」においても、水道・下水道・交通・医療分野等の公営企業における、業務効率化・経費削減・住民サービスの向上などに資するデジタル化の推進が一層期待されています。これを受けて、令和5年度における「経営・財務マネジメント強化事業」においては、アドバイザーを派遣する支援分野に新たに公営企業のDX及び首長・管理者向けトップセミナーが創設されています。また、施設の遠隔監視や管路状況把握のデジタル化など、公営企業におけるDXの先進・優良事例集が令和4年度中に作成・公表される予定です。

(3) 更なる経営改革の推進

経営戦略については令和2年度までの策定が要請されていたところであり、現在、令和7年度までに改定を行うことが要請されています。現状の経営戦略については、中身が充実していないものも少なくないとの厳しい意見も出ましたが、令和4年1月に「経営戦略策定・改定マニュアル」が改定されたことから、経営戦略の改定に当たっては、質を高める取組が求められています。

特に地方公共団体において、現下の課題である物価高騰への対応や、積極的なデジタルの活用(DX)と地域脱炭素(GX)の推進などが求められていることを踏まえ、各公営企業においても、これらの課題に積極的に取り組み、経営戦略に適切に反映することが重要です。また、新型コロナウイルス感染症に伴い生じている、生活様式の変化や働き方・学び方の変容が各公営企業の経営に与える影響についても、十分に踏まえたうえで改定に係る取組を適切に進めることが必要です。

なお、現在、経営戦略の策定を要件としている水道事業の高料金対策、水道管路耐震化事業、旧簡易水道施設(浄水場、管路等)の建設改良事業及び下水道事業の高資本費対策に係る地方財政措置については、令和8年度以降、経営戦略の改定が要件とされる見込みのため、留意が必要です。

経営戦略の改定に当たってポイントとなる事項は、別途「経営戦略策定・改定マニュアルの改定について」で解説していますので、参照してください。

(4)公営企業会計の適用

公営企業会計の適用について、重点事業である簡易水道事業・下水道事業においては、令和5年度まで(令和6年度の予算決算まで)に取り組むこととされており、いよいよ取組の最終年度となります。総務省の地方財政措置、国土交通省の社会資本整備総合交付金については、会計適用が要件となっていることに加え、厚生労働省の簡易水道に対する補助金も令和6年度以降は会計適用した事業を優先採択することが、令和3年12月の厚生労働省からの通知で明らかになっており、未対応の事業については、早急な対応が求められます。

(5)先進事例の公表等

総務省では、毎年度、抜本的な改革の取組に関する優良事例等を公表しており、経営改革の取組に当たっては、これらを参考にしていくことが考えられます。
 

 

3. 事業別の施策

(1) 水道事業

① 水道事業における広域化の推進

水道事業では、令和4年度までに「水道広域化推進プラン」の策定が要請されており、期限内に全ての都道府県において策定が見込まれています。また、プラン策定にとどまらず、今後は、都道府県のリーダーシップの下でプランに基づく広域化の取組を着実に実行するとともに、プランの充実が求められます。

令和5年度の地方財政措置としては、計画策定後の取組を後押しするため、都道府県が実施する広域化の推進のためのより詳細なシミュレーションの実施や研修会、協議会の開催に要する経費について、普通交付税措置を講じることとされています。また、水道事業者である市町村等については、多様な広域化を推進するため、国庫補助対象事業及び都道府県の策定する「水道広域化推進プラン」に基づき実施される事業に要する経費に対して地方財政措置が講じられています。具体的には、連絡管等の整備、集中監視施設の整備、統合浄水場等の整備やシステムの統合など、広域化に伴い必要となる地方単独事業が対象となっています。交付税措置率は、一般会計出資債の元利償還金に対して60%となっています。

(2) 下水道事業

① 広域化・共同化の推進

下水道事業では、令和4年度までに「広域化・共同化計画」の策定が求められています。また、令和元年度以降は、複数市町村の下水道事業や同一市町村内の複数事業の施設統合に要する施設整備費について、段階的に普通交付税措置がなされてきました。

令和5年度からは、広域化・共同化の取組をより強力に推進するために、地方財政措置の拡充が2点行われます。

1点目は、複数の地方公共団体で事務を共同で処理する際に必要なシステム整備費を下水道事業債の対象に追加するものです。当該経費については、繰出基準を1割引き上げるとともに、うち28~56%が普通交付税措置されます。

2点目は、水道事業と同様に、計画策定後の取組を後押しするため、都道府県が実施する広域化の推進のための調査に要する経費について、普通交付税措置を講じることとされています

これらは、広域化の効果額等の具体的試算や、広域化の支障の解消など、具体的な広域化の取組にあたり、都道府県の更なるリーダーシップの発揮が求められていることから新たに追加されたものであり、準公営企業室長からも同様の趣旨のメッセージが発せられました。

(3) 病院事業

① 公立病院経営強化の推進

公立病院の収支の推移を見ると、新型コロナ感染症拡大以降、国庫補助金等が増加しており、経常収支ベースでは黒字になってます。しかしながら、国庫補助金を除いた修正医業収支比率では、コロナ前の水準を下回っています。また、コロナの感染症法上の位置づけが今春にも5類に引き下がることで、今後、国庫補助金が見直される可能性もあり、公立病院を取巻く経営環境は、更に厳しくなることが見込まれます。

一方で、コロナ対応に公立病院が中核的な役割を果たし、感染症拡大時の対応における公立病院の果たす役割の重要性が改めて認識されるとともに、病院間の役割分担の明確化・最適化や医師・看護師等の確保などの取組を平時から進めておく必要性が浮き彫りとなりました。
こうした背景を踏まえ、公立病院において令和4年度又は令和5年度中に、令和9年度までを標準期間とした「公立病院経営強化プラン」(以下、「経営強化プラン」という)の策定が要請されています。

令和4年度末の見込みでは、令和5年度までに85%の公立病院にてプランが策定される見込みです。一方で、作成検討中の病院が123病院(14%)あり、令和5年度中に適切な対応を行う必要があります。また、今後の病院間での機能分化・連携強化については、「今後検討」としている病院が55%と最も多く、取組の検討が遅れている状況です。準公営企業室長からも、市町村が自治体を横断した調整を個別に行うことは難しいことから、都道府県のリーダーシップの発揮を期待する旨の説明がありました。

なお、経営強化プランについては、国における医療提供体制改革の一環として実施しているものであり、国の動向も踏まえた、全体像を理解したうえでの対応が求められています。

出典:総務省「全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議」(令和5年1月24日開催)資料3 準公営企業関係資料 8ページ

 

② 施設・設備の最適化

経営強化プランでは重要事項として、今後、人口減少や少子高齢化の急速な進展に伴い医療需要が変化していくことを踏まえ、長期的な視点をもって、病院施設や設備の長寿命化や更新などを計画的に行うことにより、投資と財源の均衡を図ることが挙げられています。このため、経営強化プランの計画期間内における施設・設備に係る主な投資(病院施設に係る新設・建替・大規模改修、高額な医療機器の導入等)について、長寿命化・平準化や当該病院の果たすべき役割・機能の観点から必要性や適正な規模等について十分に検討を行った上で、その概要を記載することとされています。

各地方公共団体が、新設・建替等を予定する場合には、実施計画の着手の2ヵ年度前には事業について、総務省に調書等を提出し、事前協議を行うこととされていますが、公立病院の機能分化・連携強化の必要性、適切な規模、地域医療構想との整合性などについては、都道府県が特に積極的な助言や提案を行うことが地域医療を構築する中で重要です。

また、事業の発注にあたっては、多くの利害関係者の意見を聞き入れることで、必要以上に建設費負担が大きくなることが考えられます。このため、会議では、コンストラクション・マネジメント方式(以下、「CM方式」という)を採用することが推奨され、活用効果の例が紹介されました。CM方式とは、コンストラクション・マネジャー(CMR)が、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、品質管理、コスト管理などの各種のマネジメント業務の全部又は一部を担う方式であり、CMRが適切な助言・提案・資料作成等を実施することで発注者を補完できる効果などが期待されるものです。

実際に令和4年1月に公立病院を開院した自治体では、基本設計終了後にCM方式を導入し、コスト抑制策の立案や、発注方式の提案などについて、中立的な立場からアドバイスを受けることで、当初のスケジュールを維持しつつ、全体の15%程度のコスト削減を実現しています。

出典:総務省「全国都道府県・指定都市公営企業管理者会議」(令和5年1月24日開催)資料3 準公営企業関係資料 24ページ

 

③ その他の主な地方財政措置

令和3年度に行われた、不採算地区病院への特別交付税の基準額を30%引上げることについては、令和5年度も継続することとされています。

新築・建替等に対する地方交付税措置の対象となる建築単価については、昨年度に36万円/㎡から40万円/㎡に引き上げられたところですが、最近の建築費の状況を踏まえて、さらに47万円/㎡に引き上げられています。新型コロナウイルス感染症に対する施設・設備の整備等にも対応するため、令和4年度の病院事業債から適用し、継続事業についても令和4年度分の病院事業債から適用される点に留意が必要です。

(4) その他

ここまで解説してきた事業以外の事業については、事業固有の施策として令和5年度に新たに実施されるものは、会議の中では紹介されていません。しかし、過年度から継続する地方財政措置等についての説明があったほか、水道、下水道、病院の地方財政措置等についても、上記で解説したもののほか継続事業についても説明されています。「令和3年度公営企業管理者会議について(前編)」及び「令和3年度公営企業管理者会議について(後編)」で解説していることから、これらを参考にしていただくほか、今年度の会議資料で詳細を確認し、令和5年度の取組に反映していくことが重要です。

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