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未来のオフィスをつくる

従業員のウェルビーイングを高めるためにオフィスを再考せよ

COVID-19下のワークスタイルをふまえ、企業がオフィスを再構築するにあたり、従業員のウェルビーイングを中心に設計することで、従業員がより健康的で、より幸福で、より積極的になる可能性が高いことが明らかになった。

レポートの紹介

“オフィスのあり方”についての検討は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック禍における継続課題です。パンデミックにより、在宅勤務の実験が行われましたが、その結果はさまざまなものでした。自宅での仕事を楽しんでいる人もいれば、オフィスに戻りたがっている人もいます。ビジネスリーダーたちは、どのように未来のオフィスを構築すればよいのか悩んでいるのが実情です。

本レポートでは、雇用者と従業員の両方にとって、オフィスが引き続き重要であることを深く掘り下げています。オフィスの重要性を“物理”、“デジタル”、“財務”、“感情”という4つの側面から考察したレポートになっています。

本レポートにおける洞察は、企業がオフィスの再構築を成功に導くために役立ちます。

 

日本のコンサルタントの見解

今回は、「Building the office of tomorrow」と題して、コロナパンデミック環境を踏まえた今後のワークスタイル・オフィスのあり方に関するカナダ人コンサルタントのレポートを紹介した。一言で言うと、“新しいオフィスをつくろう”という話である。よって、単純に“元のオフィスに戻ろう”という話ではない。今後主流になっていくであろうハイブリッドな(オフィスと在宅を組み合わせた)ワークスタイルが前提となった“新しいオフィスに戻ろう(をつくろう)”という話である。当面の間、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)、マスク着用、在宅勤務が求められる“ニューノーマル”の環境下で事業活動を続けなければいけない点については洋の東西の違いはなく、日本で働く我々にとっても考えさせられるテーマではないだろうか。

本レポートでは、“物理”、“デジタル”、“財務”、“感情”という4つの側面からオフィスとホームオフィス(在宅勤務)のメリット・デメリットを包括的に論じているが、本レポートがとりわけ主張しているのは、“新しいチームメンバーをチームに溶け込ませ、その才能を伸ばし、熟練した専門家をつなぎとめる文化を育むには、共通の(物理的な)職場が必要不可欠”という点である。リモートワーク環境ではこの実現は難しく、こういったデメリットを無視するべきではない、ゆえに、“オフィスに戻ろう”という話だ。“成功している組織のリーダーとは、従業員がオフィスに戻ることをうまく奨励するリーダーかもしれない”とまで言及しているのは興味深い。

こういった主張に対しては、賛否両論があり、その濃淡も含めれば十人十色の意見があることが想像されるが、ここで“今後のワークスタイル・オフィス”に対する日本のビジネスパーソンの意見・希望を簡単に整理してみたい(2021年末時点)。既に多くの調査・統計があり、究極的には個人差が大きな話ではあるが、リモートワークが可能な業種・職種に関して総じて言えることは、“オフィスと在宅とのハイブリッドなワークスタイルが進む”、“(できるのであれば)リモート中心がよい”、“とは言え、時にはオフィスに出社したい(仲間と対面でコミュニケーションしたい)”といったところではないだろうか。リモートワークが可能な業種・職種であれば“絶対にオフィスに出社したい・しなければならない”という声は急速に小さくなった。つまり、新しいワークスタイル・オフィスに変化していくだろうし、変化していきたいという考え・希望が多いように思われる。こういった変化を踏まえると、いまさら単純に“オフィスに戻ろう”という話が受け入れられるかというとそうではなく、ハード面においても、ソフト面においても、新しいスタイルに変わっていくことが想像される。

ハード面において、本レポートでは、『未来の物理的オフィスは、従業員の健康を中心に設計されたスペースとなる可能性が高い。オフィスは、協力し、つながり、革新し、学ぶ場所と見なされるべきだ。調査の結果、健康とウェルビーイング、生産性、イノベーション、つながり、そして信頼は、オフィスの社会的関係によって、さらには単にお互いの物理的な存在を感じることによってさえ強化されることを示す証拠が得られている。つまり、従業員のウェルビーイングを中心にワークスペースを設計することが、より健康的で、より幸福で、より積極的に関与する労働力につながる可能性が高い。従業員が積極的に関与する組織では収益性が向上する。したがって、サイロのような空間や閉鎖された部屋の中に人々を留めるのではなく、人々を集めるためにオフィススペースを再考する必要がある。』との提言をしている。こうしたオフィスのハード面の変化について、実際に“ウェルビーイング”をキーワードにしたオフィスづくりなども一部の先進的な企業の話ではなく確実にすそ野が拡がっており、大なり小なり同様の傾向で変化していくと思われる。但し、日本、とりわけ首都圏の住宅事情を鑑みると、一定の割合で個人が集中して仕事するためのクローズドスペースの確保も必要になるケースは多いと想像される。

ソフト面においては、大袈裟な言い方をすると、企業によっては社員が物理的に集まることのメリット・意義について再考することが必要になるのではないだろうか。本レポートでは、『オフィスは、計画的なものか自発的なものかを問わずコラボレーションを促す物理的な空間であり、そうしたコラボレーションがアイデアを前進させ、ビジネスを発展させるだけでなく、ロイヤルティを植え付け、人材をつなぎとめる。オフィスは今後も企業の文化とアイデンティティにとって必要不可欠な側面であり、成長と収益性を追求する多くの企業にとって極めて重要な要素であり続ける』と主張されており、これらがまさにオフィスのメリットであるはずである。ただビジネスパーソンの声を聞いていると必ずしもそのようには受け止められていないようにも見受けられる。物理的に集まってコラボレーションすることで何かが生み出されるというワークスタイルが根付かないと、集まることにメリットを感じない社員が増えてしまうのは悲しいかな致し方ないのかもしれない。したがって、もしこの点に課題がある場合は、集まったら集まったなりの何かが生み出せるようなワークスタイル・コミュニケーションの変革が必要だろう。

ここで冒頭の“新しいオフィスをつくろう”を改めて考えてみると、ハード面の変化が先なのか?ソフト面の変化が先なのか?両方をうまくバランスさせながらなのか?いずれにしても、多くの企業にとって“新しいオフィスに戻ろう”を実現させるためにはそれ相応の変革が必要になるだろう。「Building the office of tomorrow」とは、“オフィスを、コミュニケーション、コラボレーション、体の健康、精神的健康を促進するスペースに転換し、人々に出会い、イノベーションを起こす機会を与えるオープン・コネクティビティのスペースにしていくための変革そのもの”と言ってよいだろう。最後に、本レポートが各社各様の「Building the office of tomorrow」の実現に向けた一助になれば幸いである。

寄稿者

揚妻 泰紀
デロイト トーマツ コンサルティング ディレクター

不動産・建設・住宅業を中心に、デジタル変革対応、事業戦略立案、業務プロセス改革といったコンサルティング領域に従事。Deloitte 中国への駐在経験も含め、クロスボーダープロジェクトの経験も豊富。

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