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IR推進会議取りまとめ(案)の概要とIR実施法案

統合型リゾート(IR、Integrated Resort) 

IRに関する有識者で構成される特定複合観光施設区域整備推進会議(IR推進会議)は、平成29 年7月31 日に内閣総理大臣に対して議論内容を「特定複合観光施設区域整備推進会議取りまとめ~「観光先進国」の実現に向けて~」(IR推進会議取りまとめ)として会議の報告書を提出しました。IR推進会議取りまとめは、IR設置に必要となる法制上の措置(IR実施法案、特定複合観光施設区域整備法案)の骨格となる内容です。本稿ではIR推進会議取りまとめの概要を解説します。

I. IR推進会議の開催

2016年12月の臨時国会において特定複合観光施設区域の整備に関する法律(通称、「IR推進法」)が成立しました。IR推進法は、あくまで「特定複合観光施設区域の整備の推進」に係るいわゆるプログラム法であり、IR設置に必要となる法制上の措置(いわゆる「IR実施法案」)は、IR推進法案成立後、一年以内を目途として成立するものと規定されております。特定複合観光施設区域整備推進本部(通称、「IR推進本部」)及びIRに関する有識者で構成される特定複合観光施設区域整備推進会議(通称、「IR推進会議」)が設置され、2017年4月から7月まで、合計10回の会合がもたれ議論がなされました。

特定複合観光施設区域整備推進会議 開催実績

 

開催日

議題

第1回

平成29年4月6日

推進副本部長(石井国務大臣)挨拶
議長選任、会議運営規則の決定
IR推進法、諸外国のIR、今後の進め方等の説明

第2回

5月10日 

関係省庁からのヒアリング(観光先進国を実現するための「日本型IR」の姿)
推進会議における主な検討事項
特定複合観光施設制度

第3回 

5月31日 

カジノ規制制度の基本的な考え方
事業者からのヒアリング(諸外国の背面調査等の実態)
カジノ事業の参入規制

第4回 

6月13日 

カジノ施設・機器の規制
カジノ事業活動の規制

第5回 

6月20日 

有識者からのヒアリング(依存防止対策)
懸念への対応
 ・依存防止対策
 ・青少年の健全育成
 ・マネー・ローンダリング対策等

第6回 

7月4日 

カジノ事業者に係る公租公課等
カジノを含むIR事業・カジノ事業の監督等
カジノ管理委員会

第7回 

7月11日 

IR事業の監督・IR区域整備等
その他の諸論点
 ・IR 事業の事業形態の類型
 ・いわゆる「ジャンケット」
これまでの議論の整理

第8回 

7月18日 

公共政策としてのIR
全体レビュー
刑法の賭博に関する法制との整合性
有識者からのヒアリング(刑法学者)

第9回 

7月25日 

取りまとめ素案

第10回 

7月31日 

取りまとめ案

出所:IR推進会議取りまとめ「参考資料2」より転載

 

II. IR推進会議取りまとめの概要

IR実施法案の骨格となる「IR推進会議取りまとめ」では、以下の7項目について、報告がされています。

特定複合観光施設区域整備推進会議 開催実績

1.日本型IRの全体像

 

・世界初のIR法制度:「観光先進国」にふさわしい集客施設と収益面の原動力となるカジノ施設を法制度上一体化
・魅力ある「日本型IR」:民間事業者ならではの創意工夫を活かし、(1)世界で勝ち抜くMICEビジネスの確立、(2)滞在型観光モデルの確立、(3)世界に向けた日本の魅力発信等により、「観光先進国」としての日本を実現
・諸外国と比較して遜色ない世界最高水準のカジノ規制

2.IR制度の枠組み

【IR区域・IR施設】

・IRの中核施設を「MICE施設」「宿泊施設」「魅力発信施設」「送客施設」と定義
・各施設が国際競争力を有し、我が国を代表するものであることを要件化
・カジノの収益により、大規模な投資を伴う施設の採算性を担保
・1つのIR区域に1つのIR施設(カジノ施設は1つ)を1つのIR事業者が設置・運営
・IR事業者は、カジノ事業を含めたIR事業全体を所有・経営・運営する一体性が確保された事業形態が原則。一方、カジノ管理委員会の免許等を条件に、土地・施設の所有権等が分離する事業形態及びカジノ事業以外のIR事業の運営委託を伴う事業形態も可能
・都道府県又は政令市がIR事業者を公募・選定後、区域整備計画と併せて区域を申請し、主務大臣が認定
・当初のIR区域数の上限は、推進法の提案者の答弁等を踏まえ検討

【IR区域整備・IR事業者の監督】

・主務大臣(国土交通大臣)は、IR制度の運営に向けた「基本方針」等を示し、都道府県等による「区域整備計画」を認定(更新制)
・主務大臣は、国際的・全国的な見地等から必要であると認める場合に都道府県等及びIR事業者を監督
・都道府県等は、IR区域整備をIR事業者と共同して実施する立場からIR事業者を監督
・都道府県等及びIR事業者に対して、IR事業に係る詳細な事項を定めた「実施協定」の締結・主務大臣の認可を義務付け
・実施状況の評価制度を設け、主務大臣は必要に応じて改善等を指示
・主務大臣は区域整備計画の認定更新時に評価の結果が適切に反映されていることを確認

3.世界最高水準の規制(1):カジノ規制

【免許制等による事業者等の廉潔性確保】

・カジノ事業免許はIR事業者のみに付与
・事業者のみならず、役員、株主、取引先等幅広い関係者に対し、免許・認可等の際の背面調査を通じて廉潔性を確保
・カジノ事業の従業者もカジノ管理委員会による確認等を通じて廉潔性を確保
・施設供用事業者は免許、土地権利者は認可の対象とし、廉潔性を確保

【カジノ面積規制】

・IR施設との相対的な位置付け及び「ゲーミング区域」の上限値(絶対値)で規制

【カジノ事業活動の規制】

カジノ内で行えるカジノ行為は刑法上の「賭博」に限定
・カジノ事業に係る業務の委託を原則禁止
・与信はカジノ事業者のみ行えることとし、与信対象を外国人等に限定、カジノ場内にはATMを設置できない
・いわゆる「ジャンケット」は認めない・カジノ面積規制:IR施設との相対的な位置付け及び「ゲーミング区域」の上限値(絶対値)で規制

4.世界最高水準の規制(2):弊害防止対策

【依存防止対策・青少年の健全育成】

・日本人等の入場回数を長期(1か月程度)及び短期(1週間程度)で制限
・入場に当たって、日本人等に、マイナンバーカードにより本人確認を実施、入場回数を確認
・日本人等に、1日(24時間)単位で入場料を賦課
・20歳未満の入場禁止、20歳未満を対象とする広告・勧誘を禁止
・事業者に、本人・家族申告による利用制限措置を義務付け
・IR区域外では、カジノ事業に関する広告物等の設置を原則禁止

【マネー・ローンダリング対策等】

犯罪収益移転防止法の枠組みに加え、一定額以上の現金取引の報告を義務付け
・暴力団員の入場禁止をカジノ事業者及び暴力団員本人に義務付け

5.カジノ事業者に係る公租公課等

【納付金】

・固定的なカジノ管理委員会の経費に相当する定額部分とともに、GGR
 ※比例部分を合わせて徴収。GGR比例部分は幅広く公益に活用
 ※カジノ事業の粗収益:賭金総額-顧客への払戻金
・GGR比例部分については、諸外国の実効負担率やIRを取り巻く競争環境を踏まえ設定

【入場料】

・外国人旅行客以外の利用客から入場料を徴収し、幅広く公益に活用

【国・地方の配分関係等】

・納付金(GGR比例部分)及び入場料は、国が一括徴収することとし、国・認定都道府県等と折半
・立地市町村等及び周辺自治体に対して、区域整備計画に基づき、認定都道府県等から納付金の一部を交付できる

6.カジノ管理委員会

 

・委員長及び委員は国会同意人事
・一般的な権限である調査・監査・行政処分権限に加え、金銭的不利益処分を導入

7.刑法の賭博に関する法制との整合性

 

射幸性の程度の観点からIR区域の数を制限するとともに、IR区域で設置可能なカジノ施設の数を1に制限し、かつ、カジノ施設の面積も制限
・運営主体の廉潔性の観点からカジノ事業を免許制とし、事業者やその役員のみならず、IR事業活動に支配的影響力を有する外部の者等、幅広い関係者について背面調査を実施し、その廉潔性を確保
・運営主体の財務的健全性の観点から事業ごとの区分経理の実施、独立した監査人の設置、業務監査の実施、財務に係る内部管理体制の整備等の義務付け

 

III. 実施法にて注視される内容

IR推進会議取りまとめは、IR制度の具体化に向けたスタートであり、IR実施法案の骨格を定めたものとなります。今後、政府において、IR推進会議取りまとめも参考とし、IR実施法案の作成を通じて具体的な制度設計が進められます。政府において、国民の十分な理解が得られるよう、情報発信等の場を幅広く設ける目的でIR推進会議取りまとめを基に全国各地での公聴会やパブリックコメントの募集を通じた国民的な議論も行われました。
今後は国会にIR実施法案が上程される見通しです。IR実施法案では、政府の掲げる「世界最高水準」に相応しいカジノ規制を具体化する詳細な制度設計を進めることが期待されています。今後の企業のビジネス展開に大きな影響を与えることになる入場規制(入場回数、入場料規制)、ゲーミング(カジノ)税の税率がどの程度の水準に決定されるか、IR施設の設置数など具体的な数値や基準等を定める必要があるものについては、IR実施法案の内容の中でも注視が必要なテーマであると考えられます。

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IR(統合型リゾート)ビジネスグループでは、Deloitteのグローバルネットワークを活用し、海外事例等を踏まえたIRビジネスに関連する幅広い調査・分析を行っています。

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IR(統合型リゾート)ビジネスグループとは

IR(Integrated Resort:統合型リゾート)実施法案の審議開始から免許交付までの間に、IRビジネスグループでは参入を目指す日本企業に対し、さまざまなアドバイザリーサービスを提供します。

また、カジノ施設の設置と運営にはさまざまな課題やリスクが指摘されています。そのため、IRビジネスグループでは、日本企業に対する事業支援サービスだけでなく、企業と自治体に対し、IR施設を設置・運営する上で懸念される課題と社会問題の解決に関するアドバイザリーサービスも提供します。

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