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アジアの成長物語
地政学的競争がASEANに強いる経済発展の新たな方程式
米国で新たな政権が発足し、米中関係の緊迫化や貿易戦争の勃発の懸念が高まる中、アジアの地域経済秩序が大きな変曲点を迎えている。中国の経済成長が鈍化する傍らで、膨大な潜在市場を持つASEANに世界中の企業や経営者から改めて視線が注がれている。そして、地政学的な競争が技術発展を加速させ、新しい産業に投資が集まる中、ASEANを「牙城」として捉えてきた日系企業も市場戦略の見直しを急速に強いられている。デロイトの地政学とマクロ経済の専門家が独自の視点で分析する。
※ レポート本文は、ページ内のリンクからPDFをダウンロード下さい。以下は、文章の要約になります。
変わりゆくアジアとASEANの成長期待
「東洋の奇跡」とも呼ばれた高度成長を遂げた日本から、「世界の工場」としての急速な発展を遂げた中国まで、アジアの経済成長は半世紀以上に渡り世界を魅了し続けてきた。足元では、米中関係の緊迫化や貿易戦争の勃発の懸念が高まり、中国経済の成長が鈍化する中、膨大な潜在市場を持ち地政学的な中立国が多いASEANが、世界中の経営者や投資家の注目を改めて集めている。特に、ここ数年間においては、ASEANを米中間の貿易障壁を「迂回」する新たな輸出拠点として、そして重要鉱物の供給元として認知する動きが拡大している。それは、合理性だけでなく強靭性を求められる市場において、様々な文化や宗教が共存し、経済成熟度や構造が異なる国々から成るASEANの多様性が「強み」となっている証だとも言える。
ASEANを取り巻く経済成長の課題
ASEAN各国は、2000年以降比較的安定した経済成長を続けており、日系を含む外国企業の直接投資、そして輸出製造業の発展がその原動力となってきたと言える。しかし、地政学的イベントが世界経済に分断の圧力をかけ、半導体やクリーンエネルギーといった領域で産業構造転換が加速する市場においては、安さや効率性だけでなく、付加価値を追求していく必要がある。かつての日本や韓国、そして昨今の中国は、研究開発(R&D)支出を大幅に伸ばすことにより、産業の高付加価値化に成功したという共通点を持つ。世界経済が急速に変化する中で、「上位中所得国」や「高所得国」の仲間入りを目指すASEAN各国には、量的成長による経済発展が道半場の状態で質的成長も求めていくという難題が突き付けられている。
ASEAN各国が取り組むべき課題と日系企業にとっての機会
ASEAN各国が、量的成長と質的成長を両立させ、持続的な経済成長を目指すにあたっては、3つの課題に取り組む機会があると考えられる。
- 製造業の地場企業育成
- デジタル産業の裾野拡大
- 長期目線でのエネルギーサプライチェーン構築
そして、日系企業がASEANへの長年の投資で構築してきた競争力を維持し、域内各国の経済成長に貢献し続けるにあたっては、3つの施策が重要になると言える。
- 他国企業との連携機会の模索
- 日本とのデジタル連携強化
- 技術競争力を活かしたエネルギー投資
アジア新興国を「巨大な市場」や「安い生産拠点」というレンズで捉えるのには限界がある。今後、日系を始めとする外国企業がASEANの多様性をどのように活かし、産業構造転換に事業機会を見出すかが、域内経済の成長を大きく左右すると考えられる。
著者
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
Monitor Deloitte Institute
ディレクター 柴田 宗一郎
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
リスク管理戦略センター
シニアマネジャー 市川 雄介
※所属などの情報は執筆当時のものです。