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インド・コロナ禍から始めるリモートガバナンス

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インドにおける新型コロナウィルス累計感染者数は1,000万人を超えて拡大を続けており、全土封鎖(Janata Curfew)の解除から半年経過した今も収束が見通せない状況です。国外移動は政府特別認可フライト等により可能となっているものの、上記懸念から依然として多くの日本人駐在員がインドに戻れておらず、国内においても感染対策ガイドライン(SOP)に準拠する形で一定割合のリモートワークが継続されています。

このような状況が当面継続するとの見込みから、現地日系企業においても、インド人マネジメントへの権限移譲や日駐在員配置の見直し、さらにリモートワークのあり方を踏まえた現地経営管理の見直しが進められています。また、景気悪化の影響から人員削減・リストラクチャリングに取り組まれるケースも増えており、スタッフのモチベーション低下に伴う不正行為の発生も受け、不正コンプライアンス対応を含めたインドガバナンス全体の再構築の動きが広がっています。

従前より、現地日系企業におけるガバナンスの特徴として、意思決定、オペレーションおよびモニタリングの弱さを、日本人マネジメントの派遣と3K(経験、勘、根性)に依拠する形で補完されている点が指摘されてきました(以下、駐在員ガバナンス)。昨今のグローバルレベルでの急速な環境変化やリスクの多様化・複雑化に加え、今回のコロナ禍に伴う物理的制約が追い打ちをかける形で、駐在員ガバナンスモデルそのものの実効性が低下しつつあります。

こういった現状を変局点と捉え、駐在員ガバナンスからテクノロジーを活用したリモートガバナンスという新たなモデルへと発展させるための取り組みが始まっています。各社とも限りある人材リソース(People)の能力及びパフォーマンスを最大化する観点から、インド拠点においてもデジタル技術やITテクノロジーを活用したガバナンス改善が進められており、下図のとおり、(1) 経営意思決定プロセスの整備、(2) 業務のデジタル・オートメーション化、(3) モニタリングの高度化・継続化 という3点を主軸に、ガバナンス高度化を目指す事例が増えています。

 

【インドガバナンス再構築に向けた取組事例】
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今回の取り組みが一時的な対応に留まるのか、あるいは駐在員ガバナンスを発展させたリモートガバナンスを構築、定着することができるのか、インドガバナンスに苦慮してきた日系企業はまさに分水嶺に立っているということができます。

先月発表された第2四半期(2020年7-9月)のGDP実質成長率もマイナス7.5%(Ministry of Statistics and Programme Implementation)となり、統計開始以降初めての景気後退(Technical Recession)局面に立たされています。その一方、米国はじめ世界の有力企業はインドに対する投資加速の姿が鮮明です。米国SNS企業はインド国内6000万もの零細ストアのデジタル化を促進するため、インド最大の通信会社に対して57億ドルの投資を、米国テクノロジー企業はデジタル・インフラ整備等のためのファンド設立と総額100億ドルもの投資計画を発表するほか、スマートフォン委託製造を請け負うEMS台湾企業3社も「PLIスキーム: Production Linked Incentive」と呼ばれるメイク・イン・インディア政策を活用し、総額9億ドルもの設備投資を計画するなど、インド13億人のデジタル化の加速と、その成長過程に先行的に関与することでのリターン獲得への期待が高まっているように見えます。

苦境の今こそ、中長期目線での持続的成長に向けた戦略的投資と、それを支えるグローバルガバナンスの基盤を強化する好機と考えられます。デロイト トーマツ グループでは、コロナ禍、そしてグローバル競争に打ち勝つ上での日系企業におけるリモートガバナンス高度化の支援を行っています。詳細については当グループのプロフェッショナルまでお問い合わせください。

著者:畠山多聞

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