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地政学動向・金利変動・コロナ対応の経済影響

ウクライナ危機以前からの要因と地域の特性考慮が必要

新型コロナウイルス感染症対策解除とロシアのウクライナ侵攻という好悪要因が交錯する中、各国・地域の社会生活や経済状況は様々である。

企業が今後のグローバル経済動向のリスクシナリオ分析を実施するにあたって、3つの留意点がある。一つは直近のロシア・ウクライナ問題のみならず、新型コロナ感染症や米中対立など従前からのリスク要因との連続性の中で見通しを立てることである。次に、これらの影響が各国・地域に与える影響の違いを考慮することである。更に、本稿で論じる短期的影響の先には、コロナ、ウクライナ危機、国際秩序の変化に伴う構造的変化が考えられる。

 

ウクライナ危機で経済成長は約1%低下するも回復は続く~グローバルなベースライン

当方(デロイト トーマツ グループのリスク管理戦略センター)の4月中旬時点のベースライン経済見通しでは、米国・ユーロ圏・日本・アジアではロシアのウクライナ侵攻の影響などが今年の成長率をそれぞれ0.5~1%押し下げると見ている(図表1)。ただし総じて短期的には、グローバル経済は新型コロナウイルス感染症による景気後退からの回復軌道は維持すると考えられる。

成長率低下の要因は、商品市況高や不透明感の高まりにより内需が下押しされること、原材料や半導体の不足による供給制約で生産活動が抑制されること、以上の結果として国際貿易も縮小することである。他方、家計の消費需要は移動制限解除により回復、IT需要もデジタル化等を背景に拡大が継続する。さらに、先進国を中心にコロナによる労働参加の低下で労働力は不足状態になり、経済は需要超過状態になるだろう。もっとも今回の需要超過は、主に供給制約によるいわば「縮小型」の過熱である。

インフレ圧力は少なくとも1―2年は続くであろう。戦争や対ロシア制裁が続く限り、エネルギー価格や商品価格の高騰が継続しよう。労働力不足により賃金は上昇し、スパイラル的なインフレを引き起こす可能性もある。米国のFRBなど一部中央銀行は、利上げペース加速スタンスを明確にしている。しかし、戦争などの外部要因や供給制約によるインフレに対する金融引き締めの効果は限定的とも思われる。

このベースラインシナリオよりも悪いシナリオ(リスクシナリオ)として、各国・地域の環境毎に異なるシナリオが考えられる。ロシアとの経済関係が密接な欧州経済の悪化や欧州ソブリン危機の再来、米国利上げやインフレ影響を受ける新興国経済の悪化や債務危機などである。さらに、これらが同時発生するグローバルなインフレ下での景気後退シナリオも想定しうる。しかし、もっともありそうなリスクは必ずしもウクライナ危機にのみ起因するとは限らないものである。

(図表1) 主要国・地域の2022年成長率見通し

図表1:主要国・地域の2022年成長率見通し
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中国のゼロコロナ政策、米国の利上げ加速~地域毎のリスクシナリオ

その一つは、中国の景気急減速リスクである。中国はロシアのウクライナ侵攻以前から、不動産市場の悪化やゼロコロナ政策により景気の減速が目立っていた。中国の企業景況感と生産は、政府・中銀の景気てこ入れ策で昨年後半に一時持ち直したものの総じて低下・減速傾向にあり、特に企業景況感は2020年2月のコロナ発生時以来の低水準に低下している(図表2)。ウクライナ危機の中国経済へのインパクトは相対的には小さく、寧ろ国内事情による景気悪化リスクの方が高いといえよう。当方では今年の中国の経済成長率を、今春の全国人民代表大会で定めた5.5%を大きく下回る4%台後半とみている。特に、上海などの主要都市でのゼロコロナ政策が長期化した場合、港湾や国内の物流停滞が長期化することで中国の内需のみならず海外経済への影響もより深刻になりうる。地理的にウクライナ危機の直接影響が相対的に小さい日本にとっては、隣国中国の経済急減速シナリオへの備えが特に重要と思われる。

(図表2)中国の企業景況感と鉱工業生産

図表2:中国の企業景況感と鉱工業生産
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次に、米国FRBの利上げがリスク資産価格の下落につながるリスクである。米国の株価指数S&P 500の株価収益率(PER)の逆数である株式益回りと、リスクフリーレートである米国債10年物利回りとの差分、つまり株式の国債に対するリスクスプレッドの推移をみると、4月以降の米国債10年物利回り急上昇により株式のリスクスプレッドは縮小し、過去5年間のほぼ最低水準になっていることが分かる(図表2)。つまり長期金利の上昇を勘案すれば現在の株価は再び2021年レベルの割高になっている可能性があることになる。株式市場は依然下落リスクに晒されているといってよいだろう(なお、これはあくまでリスクシナリオであり、当方のベースラインシナリオでは、株価の高値維持の背景を主に量的緩和の効果とみているため、FRBのバランスシートの縮小が現在のFRBの計画程度であれば、株価の急落は起きないものと考えている)。

(図表3)米国S&P 500株価指数 益回りと長期金利

図表3:米国S&P 500株価指数 益回りと長期金利
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構造変化は中長期的ビジネスモデル変革の契機でもある

企業としては、上記の短期リスクシナリオを踏まえた業績見通し修正のほか、経済制裁(の応酬)に伴うクロスボーダー資金決済や投融資に対する規制など実務対応を万全にすることが当面の課題であろう。

ただ中長期的には、西側諸国の脱ロシア政策や米中対立激化によるグローバルサプライチェーンの更なる分断、エネルギー脱炭素化の過程で、再生可能エネルギー生産能力が十分でない間に化石燃料の生産能力が削減されることによる化石燃料価格の高止まり、などの下方リスクが考えられる。他方、こうした構造変革に伴う設備投資拡大による経済プラス効果も考えられる。米中対立、新型コロナウイルス感染症、ウクライナ危機は、企業が経営環境の構造変化に鑑みた10年単位のビジネスモデル変革を真剣に検討する一つの大きな契機になりそうだ。

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