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Deloitte UK EMEA規制に関するブリーフィング

欧州・中東・アフリカ地域(EMEA)規制の概況(2016年6月)

Brexit(英国のEU離脱)を支持する投票結果となり、金融市場とビジネスコミュニティにある不確実性は極めて高くなっています。

英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利:金融サービス会社への影響を検討

英国民投票では、欧州連合(EU)離脱派が勝利しました。金融市場とビジネス界に漂う先行き不透明感は、当然のことながら極めて大きくなっています。現在、特に英国で営業を行っている金融サービス会社が今後、どのようにしてEUの単一市場にアクセスし、取引できるのかについて、判明していることより判明していないことの方が多い状況です。
しかしながら当面は、確実なこともいくつか存在しています。純粋に規制の観点から見れば、現状はこれまでとほぼ同じです。

  • 英国は現在もEU加盟国であり、2007年にリスボンで最新の修正が行われたEU条約(TEU)の定めた離脱プロセスに則り、少なくともこの先2年間は、離脱する立場に置かれる可能性は低いでしょう。
  • 英国がEUを離脱するまで、EU法が引き続き適用されます。
  • 正式にEUを離脱するまで、英企業は現在と変わらない、市場アクセスの恩恵を受け続けることができます。

短期的には極めて不穏な見通しが示されている中で、規制面は平穏です。しかし今後数週間、数カ月間に行われる政治・経済および市場のイベントは、予想やコントロールが難しいものになるでしょう。こうした極めて不確実な環境において、企業は、財務面の影響を管理することや国内外の広範なステークホルダーとコミュニケーションを図ることに短期的に焦点を置くと我々は予想しています。

さらに、英政府が正式に離脱する意思をEUに対して伝えた後も、離脱までの期間と最終的な結論の両方に関して、交渉に大きな不透明感が残るでしょう。そして、政治的な交渉ではよくあるように、一部の結論は土壇場まで出ない可能性があります。

こうした背景の中で、最も頻繁に尋ねられる質問は「いつ、何を行うのか」ということです。現段階で、明確な答えはほとんどありません。しかし、当リポートでは、金融サービス会社の取締役会と経営幹部にとって、この不確実性の高い初期を切り抜ける助けとなるように、当面の状況についての考察と疑問を明示します。我々は、次のことを重視すべきだと考えています。それは、より慎重な計画を策定すること、従業員や株主、格付会社、規制当局を含むステークホルダーと一貫したコミュニケーションを図ること、シナリオ分析を精緻化すること、決定を明確化すること、また一部のケースにおいては「後悔しない」決断を下すことです。

我々は英国のEU離脱のプロセスが明らかになる中で、各種のリポートを発表する予定です。そして当リポートはこうした一連のリポートの第1弾となります。

判明していること

離脱の通告
国民投票で「離脱派」が勝利したことのみで、離脱に向けた動きが始まるわけではありません。離脱に向けての動きが正式に始まるのは、英国がTEU第50条に基づき、欧州理事会に対して離脱の意思を表明した時点からとなります。ここから「離脱合意」に関して正式な交渉が始まります。離脱合意には、EUと離脱する国との将来的な経済関係などが含まれることになっています。現時点から正式な離脱通告までの間に何が行われるかについては、国民投票の結果の承認に議会が関与するという観点から、政府によって明確化されます。
英国はまた、第50条に基づく正式な離脱通告を行う前から、他のEU加盟国と予備的な交渉を開始することも可能です。予備的交渉が行われる現実性と、その継続期間は、EU機関と他の加盟国が非公式に英国と関わりあう意思があるかどうかにかかっています。このことが、欧州と英国の政治的進展と並んで、第50条発動のタイミングに影響を与える可能性は高くなっています。

通告期間
英国が離脱の意思を通告すると、2年間で離脱合意について交渉を行うことになります。離脱合意には、他のEU加盟国との新たな関係に関する条件や、英国が正式にEUを離脱する正確な日程を定めた効力発生条項が盛り込まれるとみられます。政治的に「離脱」が避けられないことと、金融市場などの混乱を最小限に抑えるためには長い移行期間が望ましいこととの間でバランスをとらなければならず、そのことが正式な離脱日の決定に影響するでしょう。
2年の期限が終わろうとしても、何の合意にも達しない場合は、2つのことが起こりえます。まず、交渉期間が、他のすべてのEU加盟国の承認に基づいて延長される可能性があります。あるいは、合意に達せず、通告期間の延長も承認されなかった場合、世界貿易機関(WTO)の規則に基づき、英国は通商協定で「最恵国」となります。その際に、EU域内を自由に往来できる権利と、市場へのアクセスは自動的に失われます。あらゆることを考慮すると、(可能性はかなり低いが)2年を大きく下回る期間で離脱合意に達することや、第50条に基づかず、英国が一方的にEUを離脱すること(不必要に乱暴な選択)をしなければ、最早で現実的な離脱は2018年になるでしょう。

英国とEUの新たな関係:前例に基づく、可能性のあるモデル
英国とEUとの将来の関係について、以下の広範な3つのシナリオを分析し、英市場で営業する金融サービス会社のために検討を行いました。

  1. EEA+EFTA(ノルウェー・モデル):このルートが選択された場合、英国は、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインが加盟する欧州経済領域(EEA)と欧州自由貿易連合(EFTA)の両方に加盟することになります。EEA加盟国はEUの単一市場に完全アクセスできますが、EU予算に拠出する必要はありません。ただし、EEAの助成や特定の政策プログラムに対して拠出が求められます。EEAに加盟する場合、英国はEUの関税同盟を離脱することになりますが、4つの自由、すなわち商品、サービス、人、資本の移動の自由を認めるEU法を導入することが求められます(新規則の成立と導入に対する英国の実質的な影響力は失われます)。
  2. EEA非加盟+EFTA(スイス・モデル)は、他のEU加盟国との関係を調整する十分な余地を提供するので、合理性や柔軟性を求める英国で共感を得られる可能性が高いでしょう。スイスはEFTA加盟国ですが、EUと数々の二者間合意の交渉を行ってきました。EEA加盟の選択肢と比べて、このルートを選択することで、英国はEUの単一市場へのアクセスで明確な恩恵を受けることのできる分野を選ぶことができ、二者間合意でカバーされる分野にのみEU法を導入すればよくなります。二者間合意でカバーされない分野の市場アクセスには、英国が該当するEU法と「同等の」法律を定めていること(大まかには、目的と厳格さが類似しているとみなされること)を証明する必要があります。どちらのケースでも、英国がEU法の成立に及ぼす影響は限定的となります。
  3. 純粋な第三国になるという選択は、規制や財政などで独立性を獲得することを意味します。しかしながら上述のように、少なくとも金融サービス関連法の分野においては、こうした自由も、第三国としてEUの単一市場にアクセスするには、EU法と「同等の」国内法を制定しなければならないことにより帳消しになります。同等かどうかの判断は通常、EUが法律ごとに行います。これまで他の第三国が同等の判断を求めたケースから、このプロセスに長い時間がかかる可能性があることが示唆されます。

現段階で、最も可能性が高い選択肢は、スイス・モデルか第三国のアプローチであるように思えます。EEAモデルは、そもそも英国が国民投票を行うきっかけとなった根本的な問題のいずれにも対処しません。それどころか、いくつかの点で、問題をより深刻にしてしまうでしょう。交渉の結論について確信を持つには時期尚早ですが、何が起ころうとも、EUの金融サービスセクターに関するルール作りで、英国の影響力が小さくなることは明らかです。それにもかかわらず、英国で営業する金融サービス会社がEUの単一市場にアクセスできるようにするために、英国法の規則をEU法の規則と同等にする必要があるならば、英国はかなりの程度までEU法の縛りを受け続ける可能性があります。

英国とEUとの将来の関係について、広範な3つのシナリオ

Deloitte UKにて作成した図表を翻訳

少なくとも、企業は、前述のシナリオが従業員や業務、インフラストラクチャー、ビジネスモデルに及ぼす影響を分析する必要があります。まだ分析を行っていない場合は、業務とインフラストラクチャーの大幅な変更には長い時間がかかることを考慮して、最優先で取り組むべきでしょう。


正式離脱までの既存規則の位置づけ
通告期間中も、(英国でこれを変更しようとする、具体的な政治的介入が行われなければ)現行のEU規則が引き続き適用されます。しかしながら通告期間中でも、新たなEU規則と指令が多く発効する予定です。EU規則には、自動的かつ直接的に全EEA加盟国に適用され、国内法に置き換える必要がないという性質があります。一方、EU指令を発効させるには、国内法や法的規則に置き換えなければなりません。英国がEUを離脱し、多くの法律を発効させなければならない場合、英国政府が新EU指令の導入に向けて、法律制定にどのくらいの時間をかけるのかについて疑問が生じるに違いありません。これは政府の早期の指針表明が、企業の計画策定に大いに役立つ数多くある分野の一つです。

2016年から2018年の間に発効する規則と指令には、以下のようなものがあります。 

2018年第2四半期までに発効するEUの規制・指令

発効予定時期

市場濫用指令Ⅱ・市場濫用規則(MADII/MAR)

大部分の規則は2016年7月3日に発効。一部の規則は2018年第1四半期以降に発効。

中央証券預託規制(CSDR)

2016年下期から段階的に施行予定。

証券金融取引規制(SFTR)

2016年第3四半期から段階的に施行。

保険ベースパッケージ型投資金融商品規則(PRIIPs)

2016年第4四半期に施行。

金融ベンチマーク規則

2018年第1四半期に施行。

金融商品市場指令II・規則(MiFID / MiFIR)

2018年第1四半期に施行。

決済サービス指令II(PSD II)

2018年第1四半期に施行。

保険販売指令(IDD)

2018年第1四半期に施行。

一般データ保護規則(GDPR)

2018年第2四半期に施行。

金融サービス会社の計画策定に関する検討

上述のような背景の下、一部の規制問題の見通しがつくのは、交渉終盤になりそうです(あるいは、法的な同等性を確保する第三国になる場合は、それより遅くなる可能性があります)。これらの中で最も重要なことの一つは、英国に拠点を置く金融サービス会社がEUの単一市場にアクセスする条件と、互恵待遇協定(EUのどこかを拠点とする企業が英市場にアクセスできることを定めた協定)の条件に関わることです。これらが極めて重要である主な理由は、国境をまたぐサービス提供に基づいて、あるいは支店開設の自由(多くの場合、移動の自由と呼ばれる)を通して、英国に拠点を置き、そこからEU加盟国にサービスを提供している企業が、今後も同じ権利を持ち続けたいと考えるなら、他のEU加盟国に新しい子会社を設立するか、既存の子会社に事業を移さなければならなくなるかもしれないからです。同様に、英国に重要な支店を持つEU企業も、会計モデルと英国支店で行っていた活動のいずれか、もしくは両方を見直し、修正しなければならなくなるかもしれません。

市場アクセスに関する疑問に対して、現時点で明確な回答が得られそうにないなら、企業は今何ができるでしょうか。

  1. 市場のボラティリティがバランスシートや顧客・取引先に及ぼす影響に関して、英国などの監督機関から、極めて急な通知で情報提供要請があった場合に備えて、回答の準備をしておきましょう。市場の反応の速さと規模を考えると、監督機関は企業、とりわけ大企業に提出が期待されている報告の頻度と範囲について、厳しい要求を突きつけてくるかもしれません。急激で大幅な相場とレートの変動は、支払能力や資本の算出、マージンコール、投資家と顧客の信頼感に広範な影響を及ぼすでしょう。また、当面はこうした影響を管理することが難しくなるため、従業員やプロセス、システムに大きな負担がかかることになります。監督当局は企業に、相場が大きく変動し、流動性が逼迫した前回の経験から教訓を得ており、緊急資金にアクセスする必要がある場合は、適切なガバナンスを通して迅速に対応する準備ができていることを期待するでしょう。企業は、顧客または取引先が不安を感じている兆候を早期に感じ取り、声明の発表やコールセンター能力の増強などを通して迅速な対応を行う必要があります。
  2. 広範で深度のあるシナリオ分析とコンティンジェンシー・プランの策定を行いましょう。国際的に活動する金融サービス会社の多くは、すでにこうしたことを行っていると認識しています。中には詳細なレベルで行っている企業もあります。しかし、こうした対応が広く行われていないことは確かであり、すでに先進的な分析を行っている企業でも、見直しや更新が行われていることを確認する必要があるでしょう。例えば、現在英国に拠点を置く顧客や取引先が、他のEU加盟国に移転することが自らの利益にとって最善だという決断を下すかもしれません。これによって、その顧客は「国内顧客」から「海外顧客」へと変わります。そして、将来の顧客との関係が、英国がEUを離脱する条件にかかってくるのです。そのため、企業は自社のシナリオ分析とコンティンジェンシー・プランの策定が引き続きダイナミックであること、計画を策定する際には、主要な顧客と取引先に注目し続けることを確実にするべきです。ダイナミックなシナリオ分析の重要性が浮き彫りになるもう一つの例は、格下げや成長見通しの下方修正、資産価格の下落といった二次的、三次的な影響が、規制上の資本資源と資本要件に及ぶことです。
  3. 十分に考慮され一貫性のあるコミュニケーションを、国内外のステークホルダーとの間で構築しましょう。このことの重要性を、特に市場が激しく変動する中で、過小評価してはいけません。適切なガバナンスメカニズムを確立し、明確で簡単にアクセスできる情報を提供する(表示が明確なイントラネットやインターネットのページなどで)ことで、矛盾したメッセージの発信や、企業の立場についての市場の「当て推量」を防ぐことができるでしょう。
  4. Brexit(英国のEU離脱)の条件によって、将来の戦略がどのような影響(ポジティブまたはネガティブの影響)を受けるのか検討しましょう。競合相手が移転することで、事業を買収したり市場シェアを拡大したりする戦略的な機会が生まれるかもしれません。しかし、脅威が発生する可能性もあります。例えば、EUのデジタル単一市場の利用を目的としたデジタル戦略は、英国が単一市場へアクセスできなくなれば、脅威を受けるでしょう。
  5. 移転戦略が必要になる場合は、まずは詳細な計画とスケジュールを策定しましょう。ここには他のEU加盟国に、規制対象子会社を新設する場合の仮スケジュールも含まれます。このとき、他の金融サービス会社も同様の戦略を検討するため、新規申請が急増し、通常なら対応可能な監督当局のリソースと対応時間に大きな負担がかかる可能性を考慮する必要があります。すでに現地に子会社があるため、新たに認可を受ける必要がない場合でも、スケジュールを立てることは重要です。新しいIT基盤、新しい規制上の認可、新しい内部モデルの承認、新しい取締役会と経営幹部の任命も必要かもしれませんが、どれも早急に行うものではありません。詳細な計画とスケジュールの作成には複雑な準備が求められますが、多くの場合、取締役会や経営幹部がいつコンティンジェンシー・オプションを発動させなければならないのかを把握するために必要になるでしょう。
  6. 会社のビジネスモデルを大きく傷つける可能性のある結果に対して、「保険」を掛ける意欲があるかどうか検討しましょう。例えば、「最悪のケース」を想定したシナリオで、活動の大部分を他のEU加盟国に移すことを含めた対応が必要になる場合、企業はどの時点で現地の社屋を確保し、移転を実行するのに必要なリソースを囲い込むのでしょうか。こうした人材と物件の「取引」について、一部の地域では価格が急騰する場合があります。英国が交渉を行う離脱の条件によって、最も大きな危険にさらされる企業はすぐにでも保険を掛ける(オフィス・スペースの確保など)決断をするとよいでしょう。

結論

過日の国民投票が前例のない、根底にかかわる結果となったにもかかわらず、英国で営業している金融サービス会社を統治する規制の枠組みに関しては、短期的には「通常どおり」となっています。英国がEU加盟国である間は、それを変えようとする政治的干渉が行われない限り、EU法が引き続き適用されます。しかしながら、下記の理由、とりわけ短期的に市場が変動する可能性があることから、英国だけでなくどこの監督当局にとっても「通常どおり」とならないことは確実です。企業、特に大手企業は、監督当局からしばしば極めて急な通知で、さまざまな情報提供を求められる場合があるので、それに備えておかなければなりません。

英国内のみで、英国内から英国外に向けて、そして英国外から英国内に向けて営業を行う金融サービス会社は現在、変動が激しく、弱含みな市況に直面するとともに、将来的に単一市場にアクセスできるかどうかの根拠について、長引く先行き不透明感にも直面しています。この不確実性は、離脱の条件が決定するまで続き、それには、離脱の意思を正式に通告した日から少なくとも2年はかかる可能性が高いとみられています。一部の重要事項の詳細は、交渉の終盤になってようやく決まる可能性があります。

とりわけ英国をハブとして、移動の自由を行使したり、他のEU加盟国に海外取引ベースでサービスを提供したりする一部の金融サービス会社にとって、英国が交渉するEUの単一市場へのアクセス条件は、将来の戦略とビジネスモデルの根本となります。事業の大部分と人員を移動させるのに必要な時間の長さを考えれば、こうした企業の多くにとって、見通しが立つまで「様子見すること」は適切ではないでしょう。

先行き不透明感が著しい中で、こうした企業は決断のときを迎えています。この環境で事業を上手く行うには綿密な計画策定が必要となります。そこには、シナリオ分析とコンティンジェンシー・プラン策定、計画発動のきっかけとなるトリガーの特定、そして場合によっては、将来のために最大の柔軟性と選択性を確保するよう早期に決断することが含まれます。

本記事の原文はDeloitte UKのWebサイトに掲載しております。
下記よりご参照ください。
 

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