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来るクライシスにいかに備えるか

不正・不祥事を検知する機能としての内部通報制度とソーシャルメディアの活用(『企業リスク』2014年7月号掲載記事)

不正・不祥事の抑止を目指して、金融商品取引法や公益通報者保護法など様々な法が施行されているが、企業内部者による不正行為は継続的に発生しており、不正行為や不祥事を発端としたいわゆる「炎上」に対する懸念も高まっている。上記2点の対応策として、内部通報制度とWebモニタリングを取り上げる。

1.不正を検知する機能として有効な内部通報制度のあり方

※図表についてはPDFをご確認ください
 

1-1.内部通報制度と不正の発覚

 内部通報制度は、不正の早期発見と未然防止を目的として、組織内外の者からの通報を受け付け、調査・対応するために会社が整備する制度である。企業の不正や不祥事は、この内部通報により発覚するケースが非常に多いといわれている。ACFE(一般社団法人日本公認不正検査士協会)の調査によれば、不正の約43%が内部通報によって発覚している。現在、多くの日本企業が内部通報窓口を設けているが、不正を検知し解決に導くためには、内部通報制度が存在しているだけでなく、制度として、通報者が利用しやすく、また信頼されるものである必要がある。
 

1-2.「 不正」の観点で有効な内部通報制度の要件

 ACFEは、内部通報制度が有効と判断されるためのチェック項目を5つ挙げている。(ACFE 「2012年度版 職務上の不正と濫用に関する国民への報告書」より)

●従業員は既知のまたは潜在的な不正行為の通報手段理解しているか。
●第三者による内部通報窓口など、従業員は匿名の通報手段を利用できるか。
●不審な行動に関する通報は匿名または内密に扱われ、報復を恐れずに通報できるとの信頼が、従業員の間に存在するか。
●不審な行動の通報に対して早急かつ徹底的な判断が成されることが従業員に明確に伝わっているか。
●通報手段および方針につき、業者、顧客、その他の外部の第三者にまで行き渡っているか。

 こういった項目も重要であることは間違いないが、もっとも効果的な内部通報窓口とは、通報のハードルが低い窓口である。

 内部通報が不正発見の有効な手段であることは間違いないが、一方で筆者が今までに受け付けた内部通報のうち、不正行為もしくは不法行為を示唆するものは、寄せられる通報の6%ほどに過ぎない。また70%弱はハラスメントや職場環境等のいわゆる労務問題に類する通報である。つまり、企業は6件の不正の種を見出すために100件の通報を集める必要があり、そのほとんどは通報者個人の問題であるということだ。真に不正を検知する機能を有する内部通報制度を整備するためには、窓口が通報者にとって気軽に連絡ができ、かつ信頼できるものでることが求められる。


1-3.内部通報制度の体制整備のポイント

 通常、内部通報制度は、

(1)内部通報規程の策定
(2) 内部統制通報制度を司るコンプライアンス体制の整備・運用
(3) 危機管理体制の整備・運用
(4) 独立した窓口の運営
(5) 通報された事実の確認と不正調査
(6) 第三者委員会の設置・運営
(7) 再発防止策の策定
(8) 内部通報制度簡易レビュー

といった工程を経て整備されるのが一般的である。

 通報者が利用しやすい内部通報制度を整備するためには、これらの工程の中でも通報を受けた後の対応、すなわち「(5)事実確認・不正調査」が重要である。

 この工程でのポイントは、以下の3つである。

A) 通報は事実ではない、という前提を忘れないこと
B) 通報者に協力を要請すること
C) 証言ではなく事実を積み上げる調査を行うこと

 まずA)について述べる。通報は事実ではない。決して、通報者は信頼できず虚偽の通報をする、と申し上げたいのではない。通報者は人間であり、通報はその人間の脳が作ったストーリーであるということを忘れてはならない、ということである。通報に至るまでに通報者は様々な葛藤を経過している。その中で自分の被害と相手方の非を拡大していく傾向がある。勇気を振り絞って通報した通報者に思いやりをもってハートフルな対応することを忘れてはならないが、裏をとるまで通報を疑うアイシーな頭脳も併せ持つ必要がある。

 次にB)について述べる。一般的に内部通報窓口の機能として絶大な注目をあびるのは「匿名性の担保」である。この傾向は、特に内部通報の受け付けや対応に携わったことのない者により強く出る。しかし、実際に多くの通報に対応すると、通報事案の調査にも解決にも通報者本人の協力が不可欠なケースがほとんどであることを痛感する。大切なことは、名乗って通報しても通報者が不合理な不利益を被らないように守ることである。通報者を守ることができるのであれば、匿名か顕名かは大きな問題ではない。

 最後にC)について述べる。通報者が通報しやすい窓口とは「しっかり対応してくれる」という実績を伴った窓口である。それは経験者の口コミによって伝達されるでもよいし、企業側の案件開示によるものでもよい。しっかり対応してくれる、という口コミや評判は、綿密な調査によって導き出された事実を積み上げて調査結果を判定し、対象者を懲罰し、再発防止を講じる対応の積み重ねによってしか形成されない。

 内部通報制度にとってもっとも重要な要素は、幅広いチャネルを有し、長時間の受け付けが可能で匿名性を担保する窓口機能ではない。通報を受け付けた後の調査体制、対応体制の充実である。逆に、通報受け付け後の対応体制を十分整備せずに、表面上の機能を充実させて始める内部通報窓口は、企業にとってのリスク対策ではなくリスクの要因となる可能性がある。

来るクライシスにいかに備えるか (PDF, 2,539KB)

2.ソーシャルメディアの活用

2-1.Webモニタリングの概要

  TwitterやSNSで起こる「炎上」は利用者の投稿が引き金であり、利用者の投稿が燃料である。そして、利用者は私有のスマートフォンで私的な時間に投稿を行う。つまり企業のコントロール(予防統制)が及ばない場所で引き金が引かれ、延焼するのである。予防統制が効きづらいリスクには、発見統制の強化で対処する必要がある。

 それがWebモニタリングである。

 Webモニタリングは、(1)急上昇アラートによる事象の検知、(2)自動収集分析機能による事象内容の閲覧、(3)有人監視機能による事象内容の吟味、(4)ビッグデータ分析による情報の有効活用、の4つの段階に分けられる。

 まず、特定の媒体(Twitterのようなマイクロブログ)にキーワードを設定し、そのキーワードの投稿数が上昇した場合にメールを受信する急上昇アラートと呼ばれる手法によって「炎上」の早期発見を期す(第一段階)。しかし、急上昇アラート機能はマイクロブログ上の投稿数増大のみを検知するので、ブログ、掲示板、ニュースサイト等の他の媒体への拡散状況を確認することができない弱点がある。この弱点への対応として、自動収集分析(第二段階)を併用する。しかし自動収集にも弱点があるため、有人監視(第三段階)を更に併用する。そして、収集した大量の情報をデータ分析(第四段階)でリスク管理以外の目的にも活用する、という具合に段階的に実施していくのが一般的である。


2-2.Webモニタリングの代表的手法

2-2-1急上昇アラート
 急上昇アラートは、マイクロブログにキーワードとして複数の文字列を登録し、キーワードを含む投稿が媒体に掲載される回数が上昇するとアラート(メール)が登録者に届く機能である。急上昇アラートは、リアルタイムに近い頻度で投稿数の急上昇を検知し、登録者に警報する。

 受動的に炎上の兆しを察知できるアラート機能は、比較的安価でかつ担当者にとっては負荷の少ない作業であるが、以下のような弱点もある。

A) 他媒体への影響が一目でわからない
B) 急上昇が発生して初めて認識できる
C) 大量のデータを活かしきれない

 この急上昇アラートの弱点を補う方法として、自動収集分析や有人監視、ビッグデータ分析といった対応が考えられる。

2-2-2 自動収集分析機能
 自動収集分析機能とは、ブログ、掲示板、SNSといった複数の媒体の投稿数の動向や論調を確認できる機能である。急上昇アラートは単一媒体を対象とする機能であるため、他の媒体への拡散状況を確認したり複数の媒体の動向を把握することはできない。しかし、自動収集分析機能を用いれば、媒体の垣根を越えて総合的に動向や論調を把握できるため弱点を補うことができる。自動収集分析機能では、キーワードを自由に変更することでき、また変更したキーワードを含む多媒体の状況を即座に表示できるため、インシデント発生時に、その対応をより効果的に検討できる。

2-2-3 有人監視機能
 急上昇アラート及び自動収集分析機能は、登録キーワードに関する書き込みの数の増加に着目した機能であるから、企業への悪影響が著しい投稿ではあるが、投稿数が少ないものは、検知しづらいという弱点を持つ。

 この弱点を補う機能として有人監視機能がある。これは、人間が一定の条件で定期的に各媒体を直接確認する機能である。有人監視機能を導入することで、投稿内容を吟味したり、媒体による特性を適切に把握することができるようになる。また専門の調査担当者を設置すれば、各媒体特有の用語を読み解くこともできるようになる。通常、こういった作業は企業の事業活動を行う上で必要なコアスキルとはかけ離れているケースが多いため、急上昇アラートや自動収集分析と併せて外部委託されるケースが多い。

2-2-4 ビッグデータ分析
 有人監視機能まで併用すると、媒体特有のリスクに対して見逃しが少なく完成度の高いモニタリングを実現することができる。そこで、不正発覚の枠を超え、蓄積されたデータを利用して一定の傾向を確認し、専門家の仮説と比較するといったビッグデータ分析を行うことで、より有益な効果を得られる。ITを用いて、文章を単語に分解する形態素解析や多数回同時に用いられる単語の対を見出す共起語分析といった解析を行うことで、人間の経験や勘だけでは見いだせない気付きを得られるケースもある。

3.まとめ

 企業不祥事は、長年培ってきた信頼を一気に崩す。

 予防統制を充実させて発生可能性を低減させることは今後もますます重要になるが、発見統制の強化により、できるだけ早く発見し適切な対応を施すこともますます重要になる。特に、内部者に起因する不祥事の発見には内部通報制度の整備が有効であり、組織外で発生する不祥事に対しては、Webモニタリングの活用が有効である。読者の所属する企業において、両者がどの程度適切に導入されているか検討することをお勧めする。

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【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)


以降、Coming soon... 

 

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