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危機発生時の情報開示のためのWebモニタリング

「クライシスにどう向き合うか ~効果的なクライシスマネジメント~」Vol.2(『企業リスク』2015年10月号掲載記事)

テクノロジーの発達やソーシャルメディア等の急激な普及に伴い、クライシスの発生から情報が一瞬にして広範囲に拡散される社会となった。加えてその真意にかかわらず、一度拡散した情報を鎮静させることは容易ではなく、結果として企業のレピュテーションを毀損する事象も多く起きている。

1.はじめに

※図表についてはPDFをご確認ください
 

 現代のメディアは実に多様化している。特に急速な普及とともに大きな力を得ているのがCGM(Consumer Generated Media:消費者が情報発信をするメディア)である。Twitter、Facebook、YouTube、ブログおよび掲示板などがその例だ。一般的にはソーシャルメディアやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)と呼ばれる。

 CGMは、たったひとりの消費者であっても、企業あるいは社会を揺るがすような情報発信を可能にした。もし、企業がそういった情報発信にまったく無頓着であると、突然大きなリスクを背負い込んでしまうケースもある。一方で、CGMは企業が危機に見舞われたときに、社会の声をダイレクトに観察できる心強いツールともなりえる。

 本稿では、危機の発生を検知する準備態勢(Readiness)、危機の発生検知とその対処(Response)および危機からの回復(Recovery)における、CGMの監視手段としてのWebモニタリングと、その情報を利用した危機発生時の情報開示の関係について考察する。

危機発生時の情報開示のためのWebモニタリング (PDF, 5,837KB)

2.危機対応の整理と情報開示

 筆者は危機対応にWebモニタリングは欠かせないと考える。図表1はデロイトのクライシスマネジメントの整理:準備態勢、対処、回復のそれぞれの段階において、情報開示に適切に対応するために、組織に具備されるべき機能と、そのとき何を目的にWebモニタリングを実施すべきかを整理した表である。

 そもそもWebモニタリングは、図表1に限らない様々な目的で実施されている。たとえば新商品の開発/販売のための事前情報の収集や、キャンペーンリリースを打った後の反響確認などである。本稿では危機対応、特に危機発生時の適切な情報開示にテーマを限定し、それぞれの段階におけるWebモニタリングについて説明する。

3.準備態勢(Readiness)時のWebモニタリング -不穏な情報の検知

 準備態勢(Readiness)時は、不穏な情報の検知を目的とした、いわば「平時のWebモニタリング」が実施される。このとき大切なことは、どれだけしっかりと対象を絞り込むことができるかということである。

 CGMはインターネット上の情報である。インターネットは誰か(あるいはいずれかの組織)が集中管理しているネットワークではない。誰がいつどのようにアクセスし、どのような情報を掲示したかをリアルタイムで正確に把握している者はいない。よって、「不穏な情報の検知」という言葉から連想される対策は「蟻の子一匹見逃さない」、つまりCGMの100%監視だが、それは論理的に不可能なWebモニタリングである。

 さらに、費用対効果も考慮した、実務的なWebモニタリングが必要になるわけだが、そのためにはモニタリングする対象を絞り込まなくてはならない。通常、この絞り込みは以下の2つの要素に対して行われる。

  • 騒動を警戒する
  • 情報漏えいを警戒する

3-1.“ 騒動を警戒する” Webモニタリング

 騒動を警戒するWebモニタリングには、ITの力を駆使しやすい。一定条件の件数の増大を検知すればよいので基準が明確だからである。企業が警戒すべきネット上の騒動には、「自組織名(あるいは主要ブランド名)」が併記される。また、1件や2件の批判的意見であれば騒動とはいえないので、ある程度の件数を伴うものでなければ静観できる。つまり、

  • 自組織名をキーワードに設定する
  • 設定したキーワードを含む投稿数が、通常時と異なる急激な拡散を起こした際にアラートが発せられる

という仕組みを構築しておけば、たいていの騒動は検知できる。

 そして、こういった騒動における急激な拡散は、現代ではTwitterや新浪微博(Sina Weibo)といったマイクロブログによって発生する。マイクロブログにおける急激な拡散を検知する仕組みのイメージを図表2に示す。この仕組みは24時間365日休みなく稼動していることが望ましい。

 また、この急激な拡散を検知する方法と、騒動のタネとなり得る「リスクサイト」に的を絞ってモニタリングする方法とを併用する場合がある。CGM上の騒動とは「炎上」と言い換えることができるが、その炎上のきっかけとなるWebサイトの中には、「匿名掲示板の特定スレッド」や、それらの情報を転載する「まとめサイト」というものがある。まとめサイトに掲載された記事が炎上を招いた例は多い。2014年から2015年にかけて複数の食品会社に発生した異物混入問題による炎上は、その典型例である。

 図表3はまとめサイトを中心としたリスクの高いサイトを100以上選定し、そのサイトに自組織名を含む投稿が発生していないかを24時間365日監視し、もし発生すればアラートを発するというモニタリングである。


3-2.情報漏えいを警戒するWebモニタリング

 騒動を警戒するWebモニタリングに対して、情報漏えいを警戒するWebモニタリングには、どうしても人の目と労力がより必要となる。つまり、よりお金がかかる。なぜならば、自組織名を明記してくれる投稿だけ相手にしていればよいわけではないということと、急激な拡散が起こってしまった後では遅いからといった理由だ。たとえば、画像で開示された勤務シフト表や売上高管理表を自組織のものであると判別する力は、現代の技術ではITよりも手馴れたオペレータの目視の方が確実なのである。

 2013年の中ごろから、組織の非正規従業員の悪ふざけ行為による炎上が多発したが、その投稿内に企業名や商品ブランド名がテキスト(文字)で明記される例は希であった。添付の画像を開いてみると、会社のユニフォームを着たアルバイトの、目を覆いたくなるような悪ふざけ行為を目の当たりにしてしまう、というものが多かった。

 これはCGM上の情報漏えい案件にも共通している。実はこういった悪ふざけ行為は、程度の差こそあれ現在でも継続して発生しており、社外秘情報の開示を伴うケースも見受けられるのである。非正規従業員を多用する業態では、マイクロブログによる不正投稿を監視し続け、不正投稿発見の都度、当該投稿者を特定して投稿削除を要請している企業が増えている。

 こういったWebモニタリングでは、以下の動作が必要となる。

  • 特定(危険な)アカウントの発見と、他SNSも含んだ継続的な監視
  • 画像等の添付ファイルの閲覧
  • 当該投稿のみではなく、過去の投稿を遡っての所属確認

4.対処(Response)時のWebモニタリング -社外の事実認識の把握

 対処(Response)時では、社外の事実認識を把握する、いわば「危機発生時のWebモニタリング」が必要となる。ここでのポイントは、以下の2点である。

  • すでに社会は発生した危機事象を認識しているか
  • 社会は自組織に何を期待しているのか、その論調 を知ること

4-1.社会の危機事象の認識を把握するWebモニタリング

 組織が危機発生を認識するタイミングは、CGM上の情報拡散とは限らない。たとえば、お客様センターが複数の不審情報を受信し、念のため内部調査を行ったところ情報漏えいが判明する、といったケースもある。そのとき、どのようなタイミングで情報漏えいの事実を開示するかは、危機管理上極めて高度な判断を要する対象である。

 たとえば、当局への捜査協力という観点では容疑者の逃亡や証拠隠滅を警戒して開示を遅らせることは正解である。しかし、被害拡大の防止の観点では、ある程度詳細が不明の段階であっても想定最大規模で早く広く注意喚起を促すことが正解である。

 しかし、もし公開されている媒体にその情報流出に対する懸念が表明されていれば、情報開示は「待ったなし」となる。「自組織を守るために不都合な事実を隠蔽しようとした」という致命的な評価を与えられてしまう、あるいは、事実とは異なる尾ひれが付いた誤った情報の拡散によって、被害を受ける可能性のない人が疑心暗鬼になるなど、社会をより混乱させてしまうかもしれないからだ。

 2014年に発生した教育事業会社による個人情報流出、および2015年に発生した社会保険情報の流出事案では、情報流出に関する懸念が、組織の発表前に公開媒体に投稿されていた。報道によれば、両組織ともに公表の数ヶ月以上前から事象の発生を認識して調査や対策を施していたそうである。その事象の発生を認識した時点からWebモニタリングを行なっていれば、このような先行開示に気づくことができたかもしれない。

 図表4は、対処(Response)時のWebモニタリングに求められる機能を備えた、CGMを中心としたWEBサイト情報の自動収集ツールによるモニタリングの例である。多様な媒体を現在から過去に遡って、自由なキーワードで検索可能で、検索結果はすぐに閲覧できる。


4-2.社会の論調を把握するモニタリング

 社会がすでに危機事象を認知しているかを知ることが重要である一方で、今現在社会がその危機事象をどのように感じているか、という内容を把握する作業も並行して行うべきである。日本のCGMではマイクロブログが多数派であるため、マイクロブログの論調を把握することで、通知色をより強めるか、お詫び色をより強めるかといった開示内容の判断を客観的に下すことができる。また、投稿数と併せて検討し、開示のタイミングや場を合理的に判断することも可能となる。

 図表5は、発生した危機事象の典型的なキーワードを設定し、そのキーワードを含むマイクロブログの投稿が1件でもあれば、1時間ごとにその内容をメールで通知するモニタリングの例である。日次でその日の投稿をまとめて知らせてくれる機能も有効である。

5.回復(Recovery)時のWebモニタリング -見込/既存顧客の声の収集

 不祥事を引き起こした企業には、当分の間「顧客情報を漏えいさせる会社」、「リコールを多発させる会社」、「異物混入をなんとも思わない会社」などとレッテルが貼られる。こういったレッテルによって、企業および主力商品のブランドがどれだけ毀損されたかを正確に知ることは難しい。しかし、図表4の自動収集のような機能を用いて、不祥事発生時前後の声、競合他社に関する声などを集め、比較することは可能である。

 たとえば図表6は、品質事故を発生させ、その事故からの再起に苦慮している架空の製造業A社におけるCGM情報の分析例である。

 「スゴイ」、「ならでは」、「新しい」などの単語を「独創性・革新的」に割り振る。同様にその他の典型的な単語をそれぞれ「安全・信頼」、「不具合・不良」、「退屈・埋没」の分野に割り振り、出現数を計測して全体投稿数に対する割合を計算する。

 事故前の世間の評価は総じて「安全性が高く、信頼でき、独創性にも富んでいる」というものだったが、品質事故によって「不具合・不良」が大多数となり、A社のブランドが大きく傷ついていることが明らかになる。

 A社では様々な改革を断行するが、なかなか思うように進まない。品質事故のほとぼりが冷めてきたころには、社内で「品質事故のトラウマを引きずりすぎていないか、反省は必要だが自信を失うような指摘や施策ばかりでは士気が高まらない」といった意見も出始める。

 しかし、事故後ある程度の期間を置いた同様の分析では、「不具合・不良」に加えて「退屈・埋没」という声が多数という結果が出てしまう。このような客観的な情報を対外的な施策の立案と社内の意識改善に活用するのである。

 もしC GMを解析して前述のような結果が出てしまった場合は、対外的な情報発信において斬新さや先進性を訴求する広告を打ち出すよりも、企業イメージ回復を意識した情報開示を心がけるべきであろうし、商品開発においてはデザインや機能面よりも基本的な品質や安全性における新しい技術の活用に重点が置かれるべきであろう。

 また、社内に対しては、不祥事で動揺する社員に単なる推測ではない客観データに基づいた自己分析と合理的な仮説を提示して、押し付けではない自発的な意識改革を促す方法が考えられる。

 再起を図る回復時には、そのようなWebモニタリングの活用も可能である。

6.Webモニタリングを”しない”リスクと”する”恩恵

 図表7は、図表1に示した各段階で、Webモニタリングをしっかり行なった場合と、全く行なわなかった場合に想定される状態を整理したものである。

 もしWebモニタリングをまったく行なわない場合は、「寝耳に水」という状態で危機対応を開始しなければならなくなるであろうし、自組織の発表もしくは公表に対する社外の反応を掴むこともできず、購買意欲の高まらない顧客に再開商品を押し付けるようなことになるかもしれない。また、社員が自社ブランド力の低下に危機感を抱けずに再発防止に身が入らないかもしれない。ひいては悪評を更に拡大してしまうリスクが高まってしまう。

 常に一定の条件で自社に対する社外の評価や声を集めるWebモニタリングは、このようなリスクを合理的に低減する、危機対応時には欠かせないツールである。

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【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)


以降、Coming soon... 

 

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