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効果的なクライシスマネジメントのために、企業や経営者に求められるステイクホルダーとのコミュニケーションの仕方とは

「クライシスにどう向き合うか ~効果的なクライシスマネジメント~」Vol.3(『企業リスク』2015年10月号掲載記事)

情報漏えい、金融不正、製品リコール、異物混入問題など、さまざまなクライシスの発生頻度が増している昨今。これらのクライシスが起こった場合、どのような対応を行うべきなのか。また企業や経営者はそのマネジメントにどう取り組むべきなのか。「クライシス」の際のコミュニケーション戦略や危機管理を専門とされている、プラップジャパン 執行役員の村 清貴氏に聞いた。

謝罪会見のレベルは上がっている会見の本来の目的も重要

※詳細記事はPDFをご確認ください
 

話し手:
株式会社プラップジャパン 執行役員 メディアトレーニング部 部長 危機管理コンサルタント 村 清貴 氏
聞き手:
有限責任監査法人 トーマツ グローバルクライシスマネジメント日本リーダー パートナー 飯塚 智
デロイト トーマツ アンカーマネジメント株式会社 代表取締役 石坂 弘紀
 

デロイト トーマツ:
 有限責任監査法人トーマツは、2014年11月「クライシスマネジメントに関する企業の実態調査」を行い、上場企業431社から回答を得ました。その結果から、国内外を問わず、クライシスの発生頻度は増えており、同時に企業価値毀損といった影響も甚大になっていることがいえます。
 そうした中でクライシスに直面した際、ステイクホルダーとのコミュニケーションは重要な対応の一つになりますが、最近の謝罪会見における傾向はあるのでしょうか。

村 氏:
 ここ数年顕著なのは、経営トップが会見に登壇することが必然になっている点です。
 かつて特に国内の大手企業では、トップに頭を下げさせること自体がありえないという傾向がありました。このため社長ではなく、副社長や役員が対応することが多かったのです。その背景には、経営トップが出ると、「企業責任=トップの責任」として進退が問われることになりかねないという懸念があります。そこは守りたいという意識もあったのでしょう。
 ただし、謝罪会見を開くという時点で、かなり大型の不祥事です。最近では経営トップが出てきて、自ら説明責任を果たすべきという考え方が主流になっています。

デロイト トーマツ:
 クライシスが起こった際、謝罪会見の開催時期や伝達すべき内容などについて、企業の理解は進んでいるのでしょうか。

村 氏:
 企業が不祥事を起こしたら、謝罪会見を開いて、マスコミを通じてステイクホルダーの方々へ説明しなければならないという認識は広がりつつあります。
 そのために、当社のようなプロのPR会社がサポートとして入るケースも増えています。こういったことから、いわゆるハウツーのような会見の手順などのレベルは上がっています。たとえば、お辞儀のタイミングをそろえるとか、問答集をつくってシミュレーションを徹底的にやってから登壇するといったことも当たり前になっています。
 ただし、ここで忘れてはならないのは、謝罪会見の本来の目的です。謝罪会見とは、不祥事を起こしてしまい、それをパブリックにアナウンスせざるを得ないために開くものです。したがって、まず大切なのは、謝罪のメッセージをきちんと伝えることです。
 さらに、それ以上に重要なのは、不祥事を起こした後、その企業が社会の公器の一つとして、どのようなリカバリーを行うのかという点です。起こったことは過去のことであり、不祥事発生前に戻ることはできません。起こった事故や事件(インシデント)に対してどう対応していくかが注目されるのです。

効果的なクライシスマネジメントのために、企業や経営者に求められるステイクホルダーとのコミュニケーションの仕方とは (PDF, 5,622KB)

企業のクライシス対応は不十分「有事」を想定した対策が重要

デロイト トーマツ:
 前述した「企業の実態調査」の結果では、クライシスに対して十分な対応策を講じていると認識している企業が少ないことがわかりました。クライシスが起きたことを想定したシミュレーションや訓練も進んでいないようです。

村 氏:
 クライシス時のコミュニケーションには、謝罪会見を開く、トップインタビューを受ける、ステートメント(声明文)を出す、といったいくつかの手法があります。それぞれについて、有事を想定したメディアトレーニングや事例研究、トップが広報責任者(スポークスパーソン)として緊急記者会見を行う場合のシミュレーション、インタビューシミュレーションといったメニューを、当社に限らず、多くのPR会社で持っています。企業の不祥事が頻発していることから、当社への依頼も増えています。このほかリスクマネジメント委員会などの組織をつくったり、事業継続計画(BCP)のマニュアルをつくったりする企業もあります。
 ただし、実際にインシデントが起こったときに、まったくそのルールが活かされなかったという話を聞くことが多いのも事実です。ルールをつくっただけで安心してしまって、それを検証していなかったためです。
 メディアトレーニングやマニュアル作成は一定の効果がありますが、本当の意味でのクライシスマネジメントとは言えません。真のクライシスマネジメントとは、「ヒヤリ・ハット」レベルの小さなインシデントも含め、組織内にあるクライシスを検証し、洗い出し、有事を想定した備えとなる対策を施すことです。少なからぬ作業が必要ですし、コストも時間もかかります。
 その実現のためには経営トップの判断が不可欠ですが、これを決断できるトップは少ないのです。日本企業の経営者の多くが、「うちは大丈夫だよね?」といったところでお茶を濁しているのが現状であり、大きな課題と言えます。

デロイト トーマツ:
 企業の広報部などでは、日常的にパブリックコミュニケーションの業務を行っています。平時におけるパブリックコミュニケーションと、有事におけるそれとの違いはどのような点でしょうか。

村 氏:
 平時と有事はまったく異なります。まずはその目的です。
 平時に、たとえば企業が自社のブランドを構築する際のパブリックコミュニケーションでは、できるだけ幅広い層に長期間にわたって自社商品の優位性を伝え続けることを目指します。
 有事はその逆で、できるだけ少ない露出で短期間で情報を出し切り、情報の受け手に満足してもらうことで事件を決着させ、ダメージを極力小さくすることを狙います。以降、その問題に関しては、なるべく触れないというのが有事のパブリックコミュニケーションの基本です。
 マスメディアへの対応も、平時と有事では大きく変化します。新聞社、通信社、テレビ局などでは通常、おもに経済部などに所属し、特定の業界や企業に精通した記者を置いています。平時の際にやりとりするのは、こういった記者です。しかし、有事の際には、この記者ではなく、事件や事故を扱う社会部の記者が担当することになります。
 平時なら自社担当の記者と綿密なコミュニケーションを図り、長期的な関係を保つようにできますが、有事の際に取材にくる社会部の記者は、不祥事に焦点をあてた記事を書き、その後の関係性は希薄になることが多くあります。
 広報部は、普段の慣れているコミュニケーションとは全く違った手法、論理が求められることとなり、スイッチを切り替え、転換ポイントをきちんと押さえたコミュニケーションが必要になります。

ソーシャルメディアの発達が企業にとっての新たなリスクに

デロイト トーマツ:
 日本企業においてもグローバル化が進んでいます。国内向けと海外向けとでは、コミュニケーションのあり方に違いがあるのでしょうか。

村 氏:
 国内のステイクホルダー向けと、海外のステイクホルダー向けでは、コミュニケーションの手法が違う点もないわけではありません。
 ただし、それ以上に注意しなければならないのは、米国などをはじめとする新しい法制度の問題です。たとえば外国政府関係者への賄賂を禁じる「米国海外腐敗行為防止法」では、東南アジアのある国で官僚に対する贈賄を行うといった、米国以外で起こった事件に対しても、同国の司法制裁を受けることになっています。
 米国司法省はこのほか、同国におけるカルテルなどについても、相当数の企業に制裁を行っており、多額の罰金を払っている企業も少なくありません。
 市場がグローバルに広がり、企業の進出が増えるのに伴って、リスクも大きくなっており、見逃せない状況になっています。

デロイト トーマツ:
 テクノロジー、特にソーシャルメディアの発達によって、企業の不祥事についての情報が瞬時に拡散するようになっています。企業の評判(レピュテーション)、あるいはイメージやブランド価値に与える影響も大きいと考えられます。

村 氏:
 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)をはじめとした、消費者による情報発信のリスクに対して最近、企業が非常にとまどっているとともに、失敗しているのも傾向として見受けられます。
 実は、ステイクホルダーの数という観点では、重厚長大な大手企業よりも、ファストフードやコンビニなど、多数のチェーン店舗を運営する企業のほうが多くなります。商品を提供している消費者の数が膨大になるからです。かつて多くの消費者はいわゆるサイレントステイクホルダーであり、声を挙げたとしても企業は、個別に対応していました。
 しかし昨今、それが大きく変化しています。たとえばツイッターの国内の月間アクティブユーザー数は1,000万人以上とも言われています。つまり、1,000万人に情報を拡散できる装置を誰もが持っているという恐ろしい時代なのです。
 ある食品メーカーの商品に異物が混入していた事件では、消費者がすぐにそれを写真付きでツイートし、瞬時に拡散されました。SNSは時にマスメディア以上の伝達力を持ちます。リスクの拡がりが予測できないのも大きな特徴であり、注意が必要です。

外部だけでなく、従業員など内部に向けた情報伝達も大切

デロイト トーマツ:
 ここまで主に外部に対するパブリックコミュニケーションのあり方についてお尋ねしてきました。一方で、クライシス時における、従業員など企業の内部に向けたコミュニケーションも重要だと思われます。

村 氏:
 そのとおりです。インターナル(社内向け)コミュニケーションの重要性については、当社も日ごろから経営者に説いているところです。
 有事にはどうしても、マスメディアや、行政、監督官庁、また、親会社、金融機関などへの対応を優先してしまいます。それはもちろん大事なのですが、社内、特に全国の現場の社員やアルバイトさんも含めた、内向きの情報伝達がおろそかになってしまいがちです。そうすると従業員のモチベーションが下がってしまいます。さらに、それによって不要な内部告発が起きたり、対外的にコミュニケーションをしている情報とは違う情報が内部から出てしまい、組織としての姿勢や内部の規律を疑われることになります。さらに、それを防ごうと「余計なことはしゃべるな」といった通達をすると、その文書も外部に漏れてしまいます。
 有事には、通常の内部統制とは違った意味で、社員の帰属意識を高め、会社を一緒に守っていこうという共通理念の醸成が必要です。そのためには、外部に発信した情報と同等の、より丁寧で詳細な適時の情報伝達が大事でしょう。

デロイト トーマツ:
 パブリックコミュニケーションにおける成功例としては、どういったケースがあるのでしょうか。

村 氏:
 難しい質問ですね。実は、成功例というのは記憶に残らず目立ちにくいのです。だからこそ成功例なのです。
 失敗例とは、謝罪会見をしても収まらず、新たな不祥事がどんどん矢継ぎ早に暴き出されていくような状態です。企業によってはマスコミが特集記事や特集番組を組み、長期間にわたって報道されます。
 それに対して成功例は、誰も知らないうちにひっそりと終わっているような事件です。報道での露出も最小限で、一瞬で終わってしまうようなものです。

デロイト トーマツ:
 クライシスが起こった企業でも、その後、誠実に対処することで、批判された以上に好意的な評判を獲得した例もあるように思います。これも成功例と言えますか。

村 氏:
 事例は少ないですが、そのようなこともあります。ある国内家電メーカーの暖房機の回収・無料点検や、外資系大手製薬メーカーにおける自社製品への異物混入事件にともなう回収やパッケージの改良などは、信頼回復につながった事例として紹介されることがあります。
 前述した食品メーカーでは、初期対応は誠意が感じられるものではありませんでしたが、その後、半年以上にわたって主力商品の販売を停止し、再発防止策に取り組みました。販売再開の際は、メディアに大きく取り上げられ、予想を上回る注文のため、品薄が続きました。同社にはクライシス時に対応する専門の担当者もおらず、謝罪会見も開いていません。その点では、信頼を回復できたのもたまたまかもしれませんが、この食品メーカーが長い間販売を停止して取り組んだことが、商品のファンの方などからいい方向に評価されたと言えるでしょう。

クライシスマネジメントは経営トップにとって重要なテーマ

デロイト トーマツ:
 クライシスが起こった際には、社内外のコミュニケーションをはじめ、さまざまな点で、迅速かつ全社的な対応が求められます。ただし、これは一担当部門だけで行えるものではありません。経営トップの姿勢や取り組みが重要だと思われますが、ポイントはどのような点でしょうか。

村 氏:
 一口で言えば、不祥事の種を持っていない企業はないということです。どの企業でも、不祥事の起こる可能性は必ずあるのです。
 経営トップには、平時の際に有事を想定した対策を行うとともに、いざ有事の際には、ダメージを最小限にし、リカバーする能力が問われるわけです。
 ちなみに有事になると、平時のときには気づかなかった自社の組織としての瑕疵や弱点が如実に明らかになります。普段は頼りにしていた部下や機能すると思っていた組織が、有事のときには役に立たないということも起こります。
 経営者の中には、有事を逆に好機と捉え、旧態依然とした組織や過去のしがらみを排除する事で組織の再生を図るといったポジティブな発想をされるトップもいます。「有事以後」を視野に入れ、3歩先を読んだ備えをした上で、有事すらチャンスにできる経営者は強いでしょう。
 ただ、このような有事は何度も経験できるものではありません。社内にクライシスの経験が豊富な人材を常時置いておくのも現実的ではありません。社内のリソースだけでは知見は限られますので、必要に応じて人材を集めることになるでしょう。また、平時の段階から、経験豊富なパートナーに相談しておくと対策も立てやすいでしょう。

デロイト トーマツ:
 本日はありがとうございました。

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【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)


以降、Coming soon... 

 

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