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企業クライシスと「真の顧客主義」 

「クライシスにどう向き合うか ~効果的なクライシスマネジメント~」Vol.4(『企業リスク』2015年10月号掲載記事)

日本企業の寿命はどんどん短命化している。短命化の背景の1つに企業クライシスがある。本論では、寿命の短命化への致命傷を避けるために、企業クライシスをマネージする最も根本的かつ効果的な方法である「真の顧客主義」への転換の価値を論じて行きたい。

日本企業の短命化を憂える

※図表はPDFをご確認ください
 

 日本企業の寿命はどんどん短命化している。そして、間違いなくその短命化は進み続ける。日本企業の経営層はその過酷な現実を自分自身の問題として捉えているのであろうか。

 その過酷さを証明している事実がある。1983年に日経ビジネスが特集を組み、一つの企業の売上高と総資産額が100社ランキングに留まり続けた平均年数を発表している。当時は平均30年という結果であった。2013年にも日経ビジネスが同様の特集を組み、100社ランキングに留まることが出来た企業の平均年数は18.7年である事を明らかにしている。

 この短命化の背景には、様々な理由がある。ビジネス環境が大きく変化しているにも関わらず、経営トップによる改革は捗々しくなく、グローバル化への推進も進まず、商品自体への問題も様々な角度から表出している。更にはマーケティングやブランド戦略への理解は遅々として進まず、デジタル化もなかなか進んでいない。その一つひとつがこの短命化の原因になっているのである。ただでさえ過酷なビジネス環境の中にいる日本企業に、更に製品事故、品質問題、サイバー犯罪などの企業クライシスが加わることを想像して欲しい。それは日本企業の致命傷になり、短命化を決定づけることになるのである。日本企業の経営者は、その厳しい現実を認識するべきである。

 では、その致命傷を避けるために、日本企業は何をするべきであろうか。方法は2つある。1つ目は企業クライシスの発生に事前に備える方法で、製品事故、品質問題などが発生した際の速やかな対処方法の確立である。日本企業の多くが製品事故、品質問題などの発生に備えクライシス対策をしていると言うが、前述の「クライシス実態調査」によると、現実的に十分なガバナンス対策を講じている企業は全体の20%以下に過ぎない。この事実も憂える状況ではあるが、日本企業の経営者が認識するべき更に深刻な課題がある。その課題への解が2つ目である。企業クライシスの際に多大な役割を果たす、「真の顧客主義」に基づいた顧客との強い関係の構築である。

 本論ではその「真の顧客主義」への転換の価値を論じて行きたい。なぜならそれこそが、企業クライシスをマネージする最も根本的かつ効果的な方法だからである。

企業クライシスと「真の顧客主義」 (PDF, 5,390KB)

早急なデジタル化対応の必要性

 では、「真の顧客主義」への転換を図り、企業クライシスを適切にマネージするために最初になすべきことは何であろうか。それはデジタル化への早急な対応である。デジタル世界で交わされるコミュニケーションは企業クライシスの最大の起点になるからであり、そこで交わされるコミュニケーションを上手くマネージすることが企業活動に大きな影響を与えるからである。

 現代のデジタル世界には大きく分けて、企業が直接コントロールできるコミュニケーションプラットフォームと、商品やサービスに関する評判、批判、噂などを即時に交換し、意見形成をするデジタルコミュニティがある。現代のデジタル化社会の中での本質的な企業クライシスは、企業が直接的に関与するのが難しいデジタルコミュニティの存在から来ることが多い。なぜならば、このコミュニティは共感出来るテーマを基に自然発生的に構築され、意見形成の場として活用され、その意見は企業側の意図とは関係なく一方的に大きなコミュニティになっていくからである。一度企業クライシスが発生すると、このデジタルコミュニティの発言力が大きく企業活動を左右する。ところが日本企業の殆どはこのデジタルコミュニティへの対応が出来ていないばかりか、対応のために不可欠なデジタル世代への理解が全くなされていない。確かにデジタルコミュニティへの対応は困難ではあるが、方法がない訳ではない。大切な事はデジタル世代のメンタリティを正確に理解することである。

 では、彼らをどう理解するべきであろうか。デジタルの世界に身を置き、その利便性や有効性を知り尽くしている彼らは、デジタルを介し、より人間的で、パーソナルに自分を1人の人格として認めてくれるコミュニケーションを求め始めている。デジタルの無機的な閉ざされた世界だけでは物足りないからこそ、オープンで透明性の高い、血の通った人間臭い会話を求めているのであり、企業にも人間的な側面を感じたいのである。彼らのメンタリティを正確に理解し強固な関係を構築することが、真の顧客主義への起点であり、企業クライシスをマネージする根本的な解決方法なのである。

デジタル世代との関係構築のために為すべきこと

 デジタル世代は、企業の人間的な側面、つまり企業が何を考えているのか、何に悩んでいるのか、なぜ企業がそのアクションを取っているのかなどを感じ、様々な角度から会話をしたいと考えている世代である。では、その彼らと強固な関係を構築するためには何が必要であるのか。それは、企業が自らの「顔」を定義することである。所謂、「ブランドアイデンティティ」の発想である。自らが何者で、何を目指し、何に悩んでいるのか、何が分からないのか、どういう価値を誰に提供したいのか、そして顧客に何を便益として約束するのかを示すのがブランドアイデンティティであり、企業がデジタル世代と会話をするためには最も重要な姿勢である。なぜなら、表情が見えない、何を考えているか分からない企業とは、誰も積極的に会話をしたいと思わないからである。

 ブランドアイデンティティの発想から自らの「顔」を定義し、デジタル世代との会話をする起点を持つことで何がもたらされるのであろうか。

 日本企業の経営の根幹は、自社商品やサービスの優位性を大量のコミュニケーションを通じて訴える「プロダクトアウト」の発想が中心である。顧客にその商品をどう使って欲しいか、何を便益として感じて欲しいかという顧客視点がなく、どれもが同じに見える商品価値訴求が主体になっている。故にデジタルの活用も商品機能が競合商品とどう違うかを認知、理解させることに主眼が置かれ、「これが可能です、こんな特徴があります」と長いリストを使い、一方的に押し付けるものになっている。企業を理解したい、企業と自然な会話をしたいというデジタル世代に対し、押し付けのメッセージを発しているのである。これでは彼らとの会話が成立するとは到底考えられない。しかしながら、自らをもっと知って欲しいという企業側の強い意図が伝わり、その意図がデジタル世界に表出することで、初めてデジタル世代も企業を受け入れ本音で会話をしたいと感じるはずである。

 では本音の会話がデジタル世代で構築できると何が可能になるか。まずは商品やサービスができた「後」に如何に売るかという発想から、商品ができる「前」に何を作るべきかをデジタル世代と考える発想へと転換することが出来る。そして、開発されたものに対しても意見交換を展開し、本当に受け入れて貰えるものに仕上げていく。そうすることで初めて消費者は自分の感覚に合った商品やサービスを手に入れられる事を実感し、その企業の顧客中心の姿勢を肌で感じるのである。またその姿勢に共感して商品への関心が深くなり、継続的な関係を築くことも期待出来るのである。真の顧客主義の価値がここにある。

デジタル世代との永続的な会話のために

 企業の姿勢を感じて貰い、信頼に基づく会話を開始したデジタル世代とどう永続的な関係を構築するべきか。デジタル世代との会話をベースにして開発した商品を機能的価値からではなく、情緒的価値から定義することが必要になる。つまり彼らのライフスタイルや感覚的な側面から、その商品の役割を明確に位置づけ、彼らの共感を醸成することである。

 図表1は顧客への価値訴求レベルを示している。上のレベルに行けば行くほど顧客との強い絆が生まれることを説明している。自らが企業と開発した商品が自分の日常で欠かせないものになり、愛着が生まれるような商品価値に昇華されると、デジタル世代は簡単にはその企業から離れない。その関係こそが企業クライシスの緩和に繋がるのである。企業の姿勢を本当に理解し、自らの会話と貢献から生まれた商品やサービスに対し、不測の事態があったとしても一方的な批判や根拠のない噂は流布する筈もない。少なくとも企業側の考え方や意見を聞いてから、自らの意見を表明するに違いない。

企業クライシスマネジメントと真の顧客主義

 日本企業の経営層と話をすると、必ず「我が社の経営の全ては顧客のためにあり、経営戦略のトッププライオリティは顧客である」という言葉が返ってくる。しかしながら、殆どの日本企業の社是、基本理念、経営理念には、顧客とどう向き合いたいかという具体的な視点が全くなく、況してや多くの企業の商品やサービスが顧客視点から生まれてきたとも感じられない。顧客主義とは言いながらも、実体が全く伴っていないのである。

 日本企業はその希薄な顧客との関係こそが、企業クライシスが発生すると深刻な事態を引き起こす要因になっていることを深く認識するべきである。自らのアイデンティティを明確化し、顧客との会話を成立させ、顧客が真に欲する商品を開発する。そして常に会話を継続させることで、更に顧客の意見を取り入れ改良を重ねた商品を市場に送り出す。そのサイクルを絶やさないことが、真の顧客主義に基づく企業クライシスマネジメントの姿であり、企業価値の永続性に繋がると考えている。日本企業の経営層は、その価値を深く心に刻むべきである。

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【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)


以降、Coming soon... 

 

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