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クライシスにおける経営

「クライシスにどう向き合うか ~効果的なクライシスマネジメント~」Vol.5(『企業リスク』2015年10月号掲載記事)

企業のライフサイクルの様々な局面において、クライシスに陥る場合がある。クライシス状況における経営は、平時の経営とはまったく異なり様々な制約事項が存在する。本稿では、事例を含めてクライシス状況下の企業経営を乗り切るために必要な要素について論じる。

1.はじめに

※図表はPDFをご確認ください
 

 企業が誕生し、創業期の様々な試練を乗り切り、成長し、そして安定軌道にのる。その企業のライフサイクルの様々な局面において、クライシスに陥る場合がある。クライシスにおける企業経営は、通常時の企業経営と異なることは多い。本稿では、そのクライシスにおける企業経営に焦点をあて、それを乗り切るために必要な要素について論じる。

クライシスにおける経営 (PDF, 5,478KB)

2.クライシスとは?

 本特集では、これまでクライシス発生時の備えと対応について論じてきたが、ここで今一度定義を行いたい。クライシスとは、文字通り「危機」であり、何らかの事象の発生により企業活動もしくは企業の存続が危ぶまれる状況である。結果として資金が続かなくなることや、オペレーションの停止など様々な展開が考えられる。

 クライシスがおよぼす影響範囲は、企業全体の場合もあれば、企業の一事業部、一子会社など部分的な場合もある。

 その原因、自然災害、取引先の破綻等外的要因から、業績悪化、事故、不祥事、粉飾決算等の内的要因まで多岐にわたる。

 クライシスに陥った場合、経営者はどのように対応するのがよいのだろうか。

3.クライシスにおける制約事項とその解決策

 クライシスの状況下では、様々な制約事項が存在する。まず、時間的制約である。致命的な事態が起きるまでに残された猶予がほとんどない場合が多い。

 次に、ステイクホルダーの多さが挙げられる。株主、債権者(銀行)、従業員、当局等、様々な利害関係者がそれぞれの問題意識をもって行動するため、それらの関係者間の合意をとることが困難である。

 さらにこのような状況下では課題そのものが多く、それぞれの難易度が高いことも問題を大きくさせている。厳しい時間的制約の中でこなさなければならない課題の数も膨大であり、また、関係者の多さ等からそれらの実行も困難を極める。

 そして、異なる課題が相互に関連していることも、対応を進めにくくさせている要因だ。何らかの打ち手を講じた場合、それが別の場所に波及し、結局うまく進まないことがある。戦略的に複数の打ち手を適切なタイミングで講じていく必要がある。

 そのような状況の経営者や社内で対応できる人員が少ないことも、対応を難しくさせる要因であろう。

 さらにはクライシス時にオーナーシップを取る人材がいない(存在し得ない)ことも、対応をより困難なものとさせる。クライシス時には、平時の司令塔が司令塔としての役割を果たさなくなることも少なくないのだ。

 上記の制約事項を克服するためには、以下のような事項を実践することが考えられる。

  • 時間的制約に関しては、全体像を把握した上で課題の優先順位付けを行い、迅速な意思決定を図るとともに、強力な期日管理をしいていく必要がある。
  • ステイクホルダーに対しては、課題の全体像を把握し、各ステイクホルダーの立場に立った交渉案を立案し、状況の変化に応じて方針、タスク、スケジュールを機動的に見直していかなければならない。
  • 多くの課題のマネジメントに関しては、その道のプロを起用するとともに、リソースを柔軟に配分し、指揮命令系統を明確化していかなければならない。
    また、相互に関連する課題のマネジメントに関しては、各プロジェクト間の連関図を作成し、工程表による管理をするとともに、各課題の優先順位付けを行いつつスケジュールを機動的に見直していかなければならない。
  • 社内リソースの限界に対しては、外部プロフェッショナルを起用することが解決策となる。
  • オーナーシップの不在に関しては、権限体系の中で適切な部門にエスカレーションを行うとともに、中立的な第三者を起用することも解決策になる。

4.クライシスにおけるアプローチ

 このように大きく状況が変わるため、クライシス状況における経営は、平時の経営とはまったく異なる。しかしながら経営者は、このように各種制約条件がある中であっても、企業価値を高めていくよう行動しなければならない。

 そのための第一ステップとして、目指すべきゴールを明示することが必要である。

 まず、残された時間的猶予を測定するため、資金繰り、その他の条件(株主、金融機関等の置かれた状況)を詳細に分析しなければならない。その後、対象範囲が一部にとどまるのか、全社に拡大するのかを見極める必要がある。

 範囲が特定された後は、再生の可能性を見極める必要がある。当該企業若しくは一部事業が単体で再生する可能性がある場合は再生計画を策定する。単体での努力に限界がある場合には、業界再編の可能性を探る。業界再編の可能性も乏しい場合には、円滑な清算プロセスに移行する方策を検討しなければならない。

 再生計画の策定段階においては、本質的な問題点を明確化(不祥事の原因究明含む)し、ステイクホルダー(経営陣、株主、債権者等)の認識の共通化を図る必要がある。

 第二ステップとしては、実行のための工程表を詳細に作りこまなければならない。

 各タスクは、重要性と緊急性を吟味した上で、誰が、何を、いつまでに行うかというスケジュールを明確化する。また、リソースは外部も含めて確保する。情報ルートと意思決定プロセスを明確化しておかねばならない。

 その中で、課題や障害を乗り越えるための「武器」を見極めなければならない。資産売却、組織再編、コスト削減、私的整理、法的整理等様々なものを適切に使いこなす必要がある。(図表1参照)

 第三ステップとしては、その工程表を実行し、フォローアップを行っていかなければならない。

 すべてが順調に行くとは限らないため、コンティンジェンシープランを持っておく必要もあるし、プランそのものを柔軟に見直していかなければならない。また、何よりも、ステイクホルダーを適切にマネージしていく必要がある。社内、社外向けのコミュニケーションも適切に行う必要がある。

 危機が収束に向かいつつある場合には、「平時」への移行プランを作成し、業務プロセスを再定義するとともに、引継ぎ、残務処理を適切に行っていく必要がある。

 以上のようなクライシスにおける経営を遂行していくためには、Project Management Office(PMO)を設けることが有効である。クライシスに陥った場合、意思決定に必要な情報がどこにあるのかわからなくなり、全体を見回すことができずに部分最適か場当たり的な対応になってしまい、傷口を広げてしまうことが多い。そのためPMOを設け、可能な限りの情報を一元的に集約し、経営トップの立場から全体像を俯瞰する必要がある。その上でPMOをハブとしながら、まずは前述の第一ステップの目指すべきゴールを早急に検討、決定し、第二ステップの実行のための工程表作りを行う中で各タスクの優先順位付け、連携、柔軟なリソース配分を図り、第三ステップでそれを実行していかなければならない。

 このPMOを推進するにあたっては、クライシスにおける経験をベースに、「武器」に対する広く深い理解を持ち、中立的かつ全社的立場で一から物事をとことん考え抜き、人を動かすことのできる力が必要になる。

5.クライシスを乗り切った事例

 以上のようなクライシスを乗り切った事例として、ライブドアのケースをあげてみたい。(図表2参照)

 ライブドアは日本のインターネット・バブル期の寵児的存在であったポータル・ブログ企業であったが、有価証券報告書の虚偽記載等により旧経営陣は辞任、上場廃止になり、株価暴落の損害を被った株主(機関投資家、個人)等により総額800億円超の損害賠償請求訴訟を提訴されていた。同時に、上場廃止直前に大株主となったヘッジファンド等が経営陣に対し、配当等による資金の早期還元を要求していた。

 当時の経営陣は、株主の要求に応えるべく、(1)訴訟の早期かつ有利な解決、(2)資産の早期現金化、(3)既存主要事業の価値向上、(4)旧経営陣からの損害賠償回収が課題となるも、対応しきれていない状況にあった。

 そこで、筆者が同社にCEOとして転籍するとともに、法務、財務、事業子会社の経営企画のそれぞれの分野に執行役員クラスを外部より招聘した。

 まず、どこで何が起きていて、いつまでに課題解決をしなければならないかを把握するため、PMOを設置し、すべての情報を一旦テーブルにのせ、課題の優先順位付けを行い、1ヶ月~2年程度のタイムスパンでアクションプランを詳細に作りこんだ。

 具体的には、訴訟においては自ら陣頭指揮をとって全体の進行のマネジメントを行うとともに、財務面では延滞債権の回収、子会社売却など資産現金化を推進し、経営企画面では、各事業会社の経営計画策定、実行を支援するとともに、最終的には新スポンサーへの売却プロセスを実行した。その一連の過程の中で、株主を中心としたステイクホルダーには、全体像を指し示した上で、それぞれの期待するものがいつ与えられるかを明示し、良好な関係を継続した。

 結果として、訴訟マネジメントにおいては、大型訴訟の和解を成立させ、訴訟解決を推進する一方、旧経営陣から200億円超を回収した。財務面では、各子会社の売却等、資産現金化を推進するとともに、大型の貸付金の回収にも成功した。事業経営面では、オペレーションを立て直して新たなスポンサーに売却した旧ライブドアは、現在LINEとして事業拡大を続けている。

6.おわりに

 企業のライフサイクルの中では、規模の大小はあれ、何らかのクライシスを経験する場合が多い。それらのクライシスを乗り切ることにより、企業・事業として更なる高みに上っていくことが可能になるのである。

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【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)


以降、Coming soon... 

 

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