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内部通報制度の整備状況に関するアンケート調査結果

内部通報制度は不正抑止の切り札となりえるのだろうか?(『企業リスク』2016年10月号掲載記事)

本調査は、過去にデロイト トーマツ グループが開催したセミナーの出席者(主に企業のリスク管理部門、コンプライアンス部門、内部監査部門の方)等を対象とした内部通報制度に関するアンケート調査である。230社からの回答の集計結果を踏まえ、日本企業の内部通報制度に関する課題について筆者の考えを述べる。

1.通報窓口の有無

※図表および詳細記事はPDFをご確認ください

 

 公益通報者保護法の成立および施行によって内部通報制度は日本企業に広く浸透し整備は進んでいる。内部通報窓口の設置状況を尋ねたところ、「通報窓口がある」217社94%、「その他」8社4%、「通報窓口はない」はわずかに5社2%強という状況であった(図表1)。
 企業外部に通報窓口を設置する企業も155社67%にのぼっている。外部通報窓口は組織の要員ではないため通報者の安心感を高めるとともに、匿名通報を可能にする。多くの企業が採用するに至っている(図表2)。
 アンケートに回答した企業230社のうち、海外進出をしているとみなされる企業(以下、「海外進出推定企業<*1>」)は計127社であった。海外進出推定企業が海外からの通報を受け付ける窓口を有しているのは64社50%であった。グローバルな内部通報窓口の設置は道半ばのようである(図表3)。



<*1>「海外進出推定企業」は、末尾本調査についての「調査項目」の設問2-5において、海外子会社の存在を認める選択肢 C,D,Fのいずれか1つを選択した企業を指す。

内部通報制度の整備状況に関するアンケート調査結果 (PDF, 7,427KB)

2.通報受信件数について

 「窓口はないもしくは実績値を把握していない」と回答した企業24社を除き、国内の通報受信件数は直近1年間で、10件未満の企業が最多であり、149社72%(図表4)である。
 海外進出推定企業においても、「窓口はないもしくは実績値を把握していない」と回答した企業56社を除き、海外通報の受信件数は10件未満が60社85%と国内と同様の状況である(図表5)。
 消費者庁が平成24年度に実施した内部通報制度に関する調査<*2>(図表6)とも大きな乖離はない。通報受信件数はそれほど増えていないようである。


<*2>図表6は本調査によるものではなく、消費者庁公表の「平成24年度 民間事業者における通報処理制度の実態調査報告書」に記載の情報を基に筆者が作図した。

3.エスカレーションと対応の意思決定

 受信した通報のエスカレーションを判断する機関は通報を受信した部署が143社 64%と最多であった(図表7)。また、重篤な通報の対応を判断する機関の多くは社内の取締役等で構成される委員会組織であるが、社外取締役/社外監査役が重篤な内部通報対応の意思決定機関に含まれる企業は60社27%にとどまった(図表8)。いずれも「内部通報制度は無い」と回答した5社は除いている。
 日本取引所グループ2015年6月1日発行のコーポレートガバナンスコードの補充原則2-5(1)には、社外取締役の内部通報窓口への参画が記されている。経営層の不正関与を考慮する場合、多くの企業が採用するこのエスカレーションと意思決定の仕組みには、課題が残る。

4.外部窓口事業者の比率

 消費者庁から提示された、内部通報制度ガイドライン(改訂案)<*3>は、内部通報制度の構築に関連する様々なテーマに一定の解を与えている。その一部に、利益相反関係の排除として「通報の受付や事実関係の調査等通報対応に係る業務を事業者外部に委託する場合には、中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所や民間の専門機関等の起用は避けることが適当である。」と記されている。
 図表9は、「外部受付窓口はない」を選択した企業74社を除く156社が、外部受付窓口にどういった事業者を選定しているかを集計したものである(複数回答を可としているので、足し合わせると230社から74社を差し引いた156社よりも多くなっている)。のべ95社60%の企業が外部受付窓口を顧問弁護士に依頼しており、最終的に企業側に立つ必要がある顧問弁護士が、通報者から中立的な立場を暗に期待される、内部通報制度の外部窓口を務めることによる利益相反の可能性が懸念される。
 一方、顧問弁護士を立てることは、一般的に企業の内情・実状に詳しいため、通報の背景を理解するための詳細な情報提供や周辺環境を把握させる工程を合理的に省略でき、通報にすばやく対応できるという利点もある。利益相反を外見的に解消する形態に進んでいく必要はあるものの、信頼できる代替の外部受付窓口事業者の選定には時間がかかるはずである。すぐに顧問弁護士への依頼を解除することはできない場合は、「外部窓口が顧問弁護士であることの利点と注意点を内部説明する」、「顧問弁護士との内部通報受信業務の契約の中に、中立性に関する注意事項を追記する」といった対応を行いつつ、代替事業者の選定を進める必要があるだろう。
 いずれにしても、外部受付窓口の見直しは、通報者の視点、経営者の視点の双方に立って慎重に検討すべきである。



<*3>2016年7月5日消費者庁から「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(素案)が提示された。このガイドラインの素案は2005年に開示されてから初回の改訂を控え、2016年7月現在パブリックコメントを募集している。

5.通報受信件数に関する考察

 以上のアンケート集計結果の中で、通報受信件数に関して筆者が顧客企業からよく相談を受ける内容と合わせて考察してみたい。
 筆者がお会いする内部通報制度の管掌役員や担当者から、「実は、通報受信件数が少ない。内部通報制度が機能していないのではないか。」と懸念する相談をいただくことが増えている。つまり”内部通報制度の形骸化”に関する相談である。その場合、多くの顧客が以下のような内部通報受付窓口の外見的機能を充実させれば通報数が増えるのではないか、と考えている。

  • 通報の受信時間を拡げる(理想は24時間)
  • 通報の受付手段(電話、Eメール、Webフォーム等)を多様化する
  • 受信者を組織外の者にして、匿名通報を可能にする
  • 受信者にカウンセラー等を配属しなんでも相談窓口にする

 しかし、残念ながらこういった施策は多くの企業が狙っている方向に内部通報制度を向かわせないようである。
 次ページに示す図表10は、筆者が所属する企業が提供する内部通報の外部受付窓口サービスを含む国内内部通報の受信件数の内容別比率である。多くの企業が内部通報制度に期待する、不正や法律・法令違反等の不正の告発は全体の6%ほどに過ぎないという実績値で、上司への不満・パワハラが圧倒的に多く、職場の人間関係を含む広い意味での労務問題が多数を占めるという状態になっている。そして、こういった労務問題周りの事案の解決には二次トラブルが発生しやすいという性質もあることから、注意深い対応が必要であり、内部通報の担当部署は狙った内容ではない多数の通報の対応に悩まされることとなる。
 他方、「通報が多すぎて困る。年間で500件以上の通報を受け付けている」という企業から相談を受けることもある。つまり”内部通報制度の疲弊”に関する相談である。そういった企業の中には

  • 通報の受信は平日のごく限られた時間(午前数時間、夕方数時間等)
  • 受付手段は電話のみ
  • 受信者は内部の担当者

 といった、極めて限定的な内部通報の受付機能しか有していない企業もある。前述の「通報件数が少ない」と相談をもちかけられる企業の仮説を否定する仕様であり、外見的な受付機能の充実が通報件数の増大に寄与するとは限らない、という証左となってしまっている。
 こういった相談や内部調査に携わる機会が増えていく中で、だんだんと確信が高まってきた考えがある。「内部通報制度の形骸化と疲弊、外見的な症状としては、通報の僅少と過多という真逆の症状が出ている企業の問題点は、実は同じところにあるのではないか」という筆者の仮説である。そのイメージを図表11に示す。

  • 不正やリスクを自覚する当事者の知見不足:教育や研修が十分ではないため、何がいけないことかよくわからない。あるいはよいことかいけないことかの判断に自信が持てない
  • フラットではない組織風土:自信が持てないことに関して、上司や同僚に相談したり、合理的な拒絶の意思を述べられる雰囲気ではないため、不満は鬱積していく
  • 組織側からの能動的な徴候把握の不足:全員が対象となっているサーベイ、アンケートあるいはカウンセリングなどの機会が提供されないため、管理部門がリスクの徴候に気付く機会を失している
  • 客観的に指摘する環境の不足:監査や検査が定期的に実施されないため、是正よりも惰性に流される

 こういった組織のコンプライアンス体制の機能不足については、”形骸化パターン”においても、”疲弊パターン”においても実は共通しているのではないかという仮説である。
 この仮説では、図表11の右端の判断肢が分かれ道になっており、最後の砦である内部通報制度に対して組織の要員の殆どが不知であったり、あるいは不信を抱いている場合は上4点で埋もれたリスクは、通報として顕在化することもなく大量に組織内に潜在してしまう(形骸化パターン)。逆に内部通報制度が周知され信頼されている場合は、内部通報制度にそれまで鬱積した大量のリスクが集中して顕在化する(疲弊パターン)。いずれも、内部通報制度に過度に期待あるいは依拠してしまい、それ以前に企業が実装すべきコンプライアンスの施策に不十分な点がある場合のケースである。もし、図表11の点線部分の判断肢4つが有効に機能していれば、内部通報制度に至る以前に組織のリスク情報はそれぞれの局面で顕在化し議論され、内部通報窓口にもたらされる通報は合理的な数に収まるはずである。
 つまり、内部通法制度の形骸化が懸念される企業においても、内部通報制度の疲弊が問題となっている企業においても、内部通報制度内の改善のみで解決を図ることは難しく、組織のコンプライアンス全体を対象とした改善活動を行うべき、というのが筆者の仮説の主旨である。

6.内部通報制度は保険

 巨額の不正会計、大規模な試験数値の不正申告等、企業不祥事に関する報道は途切れない。これらの発生抑止あるいは早期検知に対して内部通報制度に対する期待の高まりを感じる。内部通報制度はそういった不正抑止の切り札となりえるのだろうか。筆者の意見は、切り札にはなりえないが保険にはなる、である。
 図表7が示している通報のエスカレーションを受信部署が判断する企業の割合の多さ、および図表8が示している重篤な通報の対応方法意思決定に社外取締役等外部の目が入らない企業の割合の多さ、はともにコーポレートガバナンスの問題である。図表11が示している内部通報制度の形骸化あるいは疲弊の問題点に関する仮説はコンプライアンス全体の問題である。
 組織不正を起こしにくい安全運転で進む企業となるためには、ドライバーである担当者自身の自制、性能の良いブレーキ役となる上司や仲間、異常接近や車線はみだしを適時に警告する管理部門、ドライブレコーダを検証して運転を評価してくれる監査、検査機能などが必要である。それでも違反や事故が起きてしまったときのために、被害を低減させる保険のような役割を担うのが内部通報制度であろう。保険は定期的に見直すべき重要なリスク対策であるが安全運転の切り札にはなりえない。同じように、内部通報制度も組織不正抑止の切り札になることはないと、筆者は考えている。

本調査について

対象 

  • 過去にデロイト トーマツ グループ主催のセミナーにお申込みをいただいた方のうち、経営企画/総務/法務/内部監査/国際管理 の各部門にご所属の方
  • 過去にデロイト トーマツ リスクサービス株式会社の内部通報サービスをご説明した企業のご担当者


アンケート実施期間

  • 2016年6月22日~7月15日


依頼・回答方法

  • Eメールで案内を送信し、Webアンケートフォームより回答入力


アンケート配布・回答数

  • Eメール配信数:4,929件
  • Webフォーム入力回答数:241件


有効回答数

  • 230件


調査項目

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【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)


以降、Coming soon... 

 

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