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公益通報者保護法
通報を行った人を不当な解雇、人事異動などから守る法律
公益通報者保護法において、対象となる法律は400を超え、多岐にわたる法律に関して公益通報になるよう法整備されています。一方、この法律には罰則がなく、また通報の動機になる材料が少ない。そのため公益通報者にとって不利益となる事案が散見されるため、罰則の導入や通報者への報奨金を与えることを求める声も存在する。
1.公益通報者保護法の目的
公益通報を行った人が不利な人事異動や解雇などの報復を受けることがないように作られました。
2.公益通報とは
公益通報とは、組織で働く人が勤務先で行われている不正を勤務先、行政機関またはその他事業者外部に通報することです。なお、その際通報する人が利益を得ること、他人に損害を与えることを目的としてはいけません。
2-1.組織で働く人とは
正社員の他、派遣社員、アルバイト社員、パート社員、請負契約等による従事者、公務員です。取締役は含まれません。
2-2.不正とは
条文では「通報対象事実」と言います。対象とする法律が定めてあり、その法律に違反する犯罪行為または最終的に刑罰につながる行為のことです。
全ての法律が対象となるわけではなく、435の法律が対象とされています(2012年12月4日現在)。
2-3.通報する人が利益を得たり、他人に損害を与えることとは
以下のようなケースが該当します。
1 不正に利益を得る(例えば、通報の見返りに金銭を得る)
2 他人に損害を加える(例えば、告発対象者を誹謗中傷しおとしめる等)
3 その他の不正(例えば、公序良俗に反する等)
2-4.勤務先とは
条文では「労務提供先」と言います。以下のいずれかに該当する事業者のことです。
・直接雇用し使用している事業者
・労働者派遣契約に基づき役務の提供を受けている事業者
・請負契約、業務委託契約等に基づき労務の提供を受けている事業者
また、勤務先が予め定めた窓口も通報先に含まれます。条文では「労務提供先等」と言い、労務提供先があらかじめ定めた者に対する通報も公益通報となり得ます。
例えばグループ企業などで親会社が一括して設置する窓口、通報受付と会社への報告を生業とする企業も通報先とすることができます。
2-5.行政機関とは
通報対象事実について処分もしくは勧告等をする権限を有する行政機関のことです。各府省庁のほか、都道府県などの地方公共団体も含まれます。
2-6.その他事業者外部とは
通報対象事実を通報することがその発生・被害の拡大防止のために必要であると認められる者です。
例えばマスメディア、近隣住民、消費者団体などが該当します。ただし、ライバル企業などの労務提供先の競争上の地位などにある者は対象外です。
3.通報者の保護と公益通報の要件
通報者が下表の通報先へそれぞれの要件を満たして公益通報をした場合、それを理由とした解雇、労働者派遣契約の解除は無効とされます。また、降格、減給、派遣労働者の交代要求等のその他不利益な取扱いも禁止されます。 自社と関係が遠くなるにつれ、通報するために必要な要件が増えます。
1.労務提供先(労務提供先があらかじめ定めた窓口も含む)
要件…通報者が、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合
2.行政機関
要件…通報者が、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合
3.その他事業者外部(通報対象事実の発生又はこれによる被害拡大を防止するために必要であると認められる者)
要件…通報者が、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合、かつ、次のいずれかに該当する場合、
1 労務提供先等、もしくは行政機関へ通報すれば、不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
2 労務提供先等へ通報すれば、証拠の隠滅や偽造等のおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
3 労務提供先等、もしくは行政機関へ通報しないことを労務提供先から正当な利用がなく要求されている場合
4 労務提供先等へ書面(Eメール含む)により通報した日から20日を経過しても調査を行なう旨の連絡がない。または正当な理由なく調査を行わない場合
5 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
4.公益通報を発信するまたは受信する上での各者の義務
4-1.発信した公益通報者の努力義務
通報者は私利私欲でなく、他人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めることが求められます。
4-2.受信した事業者の努力義務
書面(Eメール含む)により公益通報を受信した場合、以下いずれのケースでも速やかに通報者に通知することが求められています。
・通報対象事実の是正のための措置の実施
・通報対象事実自体が存在しない
4-3.受信した行政機関の義務
必要な調査を行い通報対象事実がある場合には、法令に基づく措置等をとる必要があります。 処分又は勧告等をする権限のない行政機関に誤って通報された場合は、処分又は勧告等をする権限のある行政機関を通報者に教える必要があります。
【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント<全8回>
連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)
- 【第1回】※2017年5月号(2017年3月21日発売)掲載
クライシスマネジメントのアプローチと経営陣の役割 - 【第2回】※2017年6月号(2017年4月21日発売)掲載
クライシスマネジメントにおける“備え”の重要性 - 【第3回】※2017年7月号(2017年5月20日発売)掲載
クライシス発生時の行動原則 - 【第4回】※2017年8月号(2017年6月21日発売)掲載
クライシスをばねにより強い企業を創る - 【第5回】※2017年9月号(2017年7月21日発売)掲載
クライシスの要因ごとに3つの「R」を考える(その1) - 【第6回】 ※2017年10月号(2017年8月21日発売)掲載
製品事故への備えとSNS炎上への備え - 【第7回】※2017年11月号(2017年9月21日発売)掲載
グローバル企業に必要な国・地域別のクライシスマネジメント
- 【第8回】※2017年12月号(2017年10月21日発売)掲載
世界の国・地域におけるクライシスの特徴