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「英国EU離脱への備え」第18回 不確実性を好機に

日経産業新聞 2016年10月5日掲載

ビジネスは経済外交の一部でもあります。政府・民間に関わらず、オピニオンを出していくことは健全な関係構築の一歩を踏み出す契機となります。日本は「英国及びEU双方への要望事項」を提出しました。

不確実性を好機に

デロイト トーマツ グループ ブレグジット レスポンス センター 浅見 光

 ビジネスは経済外交の一部でもある。政府・民間に関わらず、オピニオンを出していくことは健全な関係構築の一歩を踏み出す契機となる。英国が置かれたパワーバランスを考慮しながら、好機を見いだしていく事も忘れてはならない。

 普段はおとなしいとされる日本が提出した「英国及びEU(欧州連合)双方への要望事項」は、衝撃を持って受け止められた。不確実性の中で、踏み込んだ内容だったからだ。

 しかし、日本での受け止め方はどうだっただろうか。報道を見ても確からしいものが何もなさそうなので、様子見が大勢ではなかったか。気が付いたときには他国が手を差し伸べ、「ジャパンパッシング」となりかねない。悲観論のみでは関係構築を台無しにしかねず、気配りが必要だ。

 さて、実際の要望事項はどうだったのか。手間を惜しまず、一次情報を読み込むのは、冷静な判断の第一ステップだ。

 英・EU間の無関税や通関・検疫等手続きの付加的負担の低減、労働者の英・EU間の往来の自由、知財・規格・認証の承継などが含まれていた。原典にあたり、中身を精査していくと、ビジネスの示唆が得られることに気付く。

 製薬業界を例に考えてみたい。日系を含む大手製薬企業はこれまで英国に重要な研究開発拠点を置いてきた。EUの薬事規制をつかさどる欧州医薬品庁(EMA)の本部がロンドンにあるからである。

 EMAで承認された新薬は自動的にEU全体で承認される。EMA本部がロンドンから移転する場合、今後(1)どのタイミングでどこに移転するのか(2)英国がどこまでEUの薬事規制に留まるのか、が焦点となる。研究開発の重要な資産にはデータ・情報や知財はもとより、研究者も含まれるので、ヒトの移動や大学、研究施設といった学術連携の変更にも準備が必要となってくる。

 これらは議論が集中しがちな関税に直接影響しないが、ビジネスの根幹に影響する。短期の金融的動きや通商動向に目が奪われがちだが、事業構造そのものの在り方への洞察につながっていくのだ。

 世界的な政治経済イベントはこれからも続く。言い換えれば情勢判断の変化のタイミングでもある。不確実性をいかに好機に変えていくか。「戦略の前の情勢判断」と「リアリティーのある実務(税務、法務、財務等)」を常に考察していく必要がある。また、大前提はファクトに基づいた議論の重要性を改めて強調したい。

 

*日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。断りなく複写・転載はご遠慮ください。

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