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基礎からのフォレンジック講座 第5回

不正発覚時の初動対応

企業の不正リスクや係争・訴訟に関するスキルなど、フォレンジックに関して事例と共に基礎からわかりやすく解説する講座方式の連載記事。 第5 回は、不正発覚時の初動対応について述べる。

不正はビジネスリスク、何処にでも存在しうる

不正に関する報道を目にした際、貴方がもし「不正が起きるような会社はよほど問題のある会社で、当社には関係ない」と考えているとしたら、考えを改める必要があるだろう。

前回もご紹介した当社の企業の不正リスク実態調査では、不正発生時に公表を行うと回答した企業は約55%に留まり、また、不正調査の体制も「内部調査委員会に留める」および「特別な機関を設置しない」と回答した企業が実に約77%にもなる。

【図表参照】: 調査の調査のため設置した機関、不正の公表および時期

報道される不正は、外部調査委員会等の外部の識者を加えて調査を行うような大規模なケースが多いことを踏まえると、近年増加しているこれらの報道は、ほんの氷山の一角であることを物語っている。また、不正は通常「隠蔽」を伴うものであり、サーベイ回答者が気付いていない潜在的な不正は、さらに相当数存在するということも忘れてはならない。

調査のため設置した機関(複数回答)

出典:「企業の不正リスク実態調査2014」より、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

不正の公表および時期(複数回答)

出典:「企業の不正リスク実態調査2014」より、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

初動対応の巧拙がその後の被害を左右する

貴社も、実は不正の端緒に気付いているかもしれない。しかし、最も難しいのはそれを不正と気付くことかもしれない。

不正の端緒を把握した際の初期的な調査を一般に初動対応という。真に不正か否か明らかでない初動調査の段階では、証拠保全とその後の対応を検討することが出来る程度に事件の概要を把握することが、その主な目的となる。裏を返せば、初動調査の失敗は、証拠保全を行わず不正行為者にその隠蔽や隠滅の機会を与えてしまうこと、不十分な実態把握の結果、問題のない行為と誤認して放置するなど、結果的に誤った対応を行ってしまうことといえる。

不正対応は、傷病と同様に応急処置を誤るとその後のリカバリーが困難になる。仮にそれが重要な不正であった場合には、発見自体が遅れることによる直接的な被害が拡大する、証拠隠滅等により不正調査の困難性が増し調査コストが増大することは勿論、端緒を掴んでいながら適時に対応しなかったことが後日明らかになった場合など、組織的隠蔽までもが疑われ、企業体質への不信が生じ、重大なレピュテーション毀損といった深刻な被害が生じる可能性すらある。

この証拠保全や対応判断の他、初動調査時に考慮すべき事項の例として、情報統制(公表前情報および調査情報)と初期段階での公表検討が挙げられよう。

【初動調査における失敗事例】
国内製造業を営む甲社において、内部通報窓口に匿名でA氏による不正に関する通報があったが、通報内容が断片的で不完全な情報であったため、通報窓口担当者がこれを放置した。その後、この通報の内容が外部のインターネット掲示板に書き込まれ、不正の情報が公になってしまった。
甲社において、社内調査委員会を立ち上げて調査を開始したが、不正の情報が公になったことで、容疑者であったA氏は不正の証拠の隠蔽をしようと関係書類を破棄してしまい、調査による事実確認が困難となってしまった。

初動調査の失敗を防ぐには組織として平時の備えが必要

不正に備えることは、同様に有事である災害に備えることと似ている。例えば、災害時に家族で避難場所を話し合うように、内部通報や内部監査で不正の端緒を掴んだ際に、組織としてどのように判断し、対処するかを平時から検討し、教育研修などで周知しておかねばならない。

ただし、実被害が生じていない平時の段階から、組織としてそもそも投資を行うのか否か、行う場合にはどの水準を目指すのかは、不正に対する経営者の意向や姿勢(Tone at the top )によるところが大きく、マネジメント自らがこの姿勢を指し示すことが不正対策の第一歩といえよう。


本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス
ヴァイスプレジデント 立川 正人

執筆日:2015年5月20日
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

執筆者

フォレンジックサービスについて

企業が事業活動を遂行するにあたり、不適切な会計処理、資産横領、贈収賄、情報漏洩、不正アクセス、知的財産の侵害等の不正リスクが存在しますが、潜在的な不正リスクは広範囲に及びます。また、近年、企業間の紛争は増加傾向かつ複雑化しており、企業は係争・訴訟に関するスキルや経験が求められ、弁護士以外の財務やデータ収集の専門家の活用のニーズが着実に増加しています。デロイト トーマツ グループは、不正リスクに対してガバナンス、リスク評価、予防、発見、調査、再発防止の総合的なアプローチで企業の不正対応を支援します。

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