ナレッジ

基礎からのフォレンジック講座 第6回

不正調査チーム設置における留意点

企業の不正リスクや係争・訴訟に関するスキルなど、フォレンジックに関して事例と共に基礎からわかりやすく解説する講座方式の連載記事。 第6回は、企業等での不正調査チーム設置における留意点について述べる。

1. 不正発覚時の調査体制構築の実情

企業等において不正が発覚した場合、発覚した不正に適切に対処するというクライシスマネジメントが極めて重要となるが、多くの企業においては実際に不正が発生した際に状況に応じて担当部署・対応内容を都度考えているのが実情であろう。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)は、上場企業約3,800社を対象としてアンケート調査(回答企業数358社)を実施し、その結果を「企業の不正リスク実態調査2014」として公表した。

【図表1】は、回答企業が不正発覚時に設置した調査機関の種類・内容を纏めたものである。

【図表1】調査のために設置した機関(再掲)

出典:「Japan Fraud Survey 2014 企業の不正実態調査」よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

調査方法: 上場企業法務・コンプライアンス部門等を対象に2014年3月末までの2年間の不正実態および不正への取り組み関するアンケート調査を実施し358社からの回答結果に基づき分析を行っている。

上記のとおり、不正発覚時に設置された機関は内部調査委員会が43%と最も多い結果となっている。しかしながら調査のための機関を設置していない企業も34%と多い。

これは、発覚した不正の内容、規模、そして対外的な説明責任を果たすと言う観点を勘案していると考えられる。例えば、上記の結果を発覚した不正の実行者別に見ると(図表2)、正社員・管理職以下の従業員による不正の場合は、損害規模もそれ程大きくなく、かつ公表を要するものでもないケースが多いため、社内のメンバーのみが実態調査を実施するケースが多いと考えられる。

これに対して、経営陣による不正の場合、損害規模も大きく、かつ実態の解明や再発防止につき対外的に説明を行う必要があることから、外部専門家を加えた調査委員会あるいは第三者委員会を設置して実態の解明を行うケースが多いものと考えられる。

【図表2】不正実行者別にみた調査機関の設置状況

出典:「Japan Fraud Survey 2014 企業の不正実態調査」の回答データを元にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

2. 自社の社員を調査メンバーとして選定する際のポイント

前述のとおり、発覚した不正の実態解明調査を行う調査メンバーの選定に際しては、発覚した不正の内容・規模・対外的な説明責任を果たすことを念頭におく必要がある。特に自社の社員を調査メンバーとする際には、いくつか留意する点がある。

チーム編成の失敗事例
A社は、ある取引先と共謀による不正が発覚し、当該取引先と取引を行っている部門の社員を含む調査チームを組成し調査を開始したが、証拠が残っておらず調査を進める際に困難が生じた。これは、不正の発覚部門の部長であり、メンバーとして調査チームに参画していたC氏自身が不正行為者であり、調査チームによる調査に先んじて証拠となりうる電子データ・証憑書類を隠滅し、調査を妨害していたことによる。

 

上記は、社内調査メンバーの中に、不正実行者自身が入っていたために、実態解明調査が進まなかった失敗事例である。
一般的には、社内調査チームに、不正が発覚した部署・子会社の社員がメンバーとして参画するケースがある。このメリットとして、(1)証拠となり得る証憑書類や電子データの所在場所を知っているため、効果的に証拠の保全を行うことが出来る。(2)当該部署・子会社に所属する社員の経歴・業務内容を熟知しているため、効率的に情報を収集できる。(3)不正が発覚した部署・子会社の業務内容・業務フロー・取引先毎の取引内容といった業務に精通しているため、効率的に調査を進めることが出来るなどが挙げられる。

しかしながら、不正が発覚した部署・子会社の社員を調査メンバーに含めると、実態解明を進める上で3つの危険性がある。すなわち、(1)調査メンバーに選ばれた社員が不正実行者もしくは共謀者である場合、当人は証拠となり得る書類やデータの所在を知っているため、上記の事例のように調査の実施に先立って関連書類やデータを隠滅することできる。(2)不正実行者およびその共謀者を含む不正発覚部署・子会社に所属する社員に調査に関する情報が漏洩する危険性がある。(3)不正実行者およびその共謀者が調査の実行部隊に含まれている場合には、意図的に他の調査メンバーに対して事実と異なる情報を与える等により調査を誤った方向へ誘導し事実を隠蔽することが出来るといった危険性がある。

従って、実態解明調査を効率的に進め、かつ上記のデメリットを回避するためには、不正の発覚した部署・子会社の社員に対しては、調査の初期の段階で、資料の所在、当該部署・子会社が行っている事業内容や業務フローといった概要を聴取するにとどめ、資料の収集や保全・資料の閲覧に関与させない、調査の実施に関与させない、調査の進捗状況についても情報を与えないといった対応を検討する必要がある。

また、調査に着手した段階で、上記のように電子データの破棄等の証拠隠滅が発見された場合には、コンピュータフォレンジックの専門家等の外部リソースを活用することも検討する必要がある。

3. まとめ

以上のように、実態解明の調査を実施する調査体制を構築する際には、発覚した不正の内容や規模、そして対外的な説明責任を果たすと言う観点から、調査体制・調査メンバーを選定すると共に、必要に応じて外部専門家の参画も検討する必要がある。


本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス
シニアヴァイスプレジデント 曽我 勝一

執筆日:2015年6月23日
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

執筆者

フォレンジックサービスについて

企業が事業活動を遂行するにあたり、不適切な会計処理、資産横領、贈収賄、情報漏洩、不正アクセス、知的財産の侵害等の不正リスクが存在しますが、潜在的な不正リスクは広範囲に及びます。また、近年、企業間の紛争は増加傾向かつ複雑化しており、企業は係争・訴訟に関するスキルや経験が求められ、弁護士以外の財務やデータ収集の専門家の活用のニーズが着実に増加しています。デロイト トーマツ グループは、不正リスクに対してガバナンス、リスク評価、予防、発見、調査、再発防止の総合的なアプローチで企業の不正対応を支援します。

関連するサービス
■ 不正対応・係争サポート

シリーズ記事一覧
■ 基礎からのフォレンジック講座
お役に立ちましたか?