ナレッジ

基礎からのフォレンジック講座 第7回

不正調査の範囲

企業の不正リスクや係争・訴訟に関するスキルなど、フォレンジックに関して事例と共に基礎からわかりやすく解説する講座方式の連載記事。 第7回は、不正調査の効率性・有効性に重要な影響を及ぼす不正調査の実施範囲について述べる。

1. 上場企業における不正調査の現状

不正発覚時における調査範囲の決定は、不正調査の効率性・有効性に重要な影響を及ぼす事項のひとつである。
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、DTFA)は、上場企業約3,800社を対象としてアンケート調査を実施し、回答企業358社の回答結果を分析し、その結果を「企業の不正リスク実態調査2014」として公表した。
【図表1】は、不正発覚時の調査の実施範囲に関する回答結果を取りまとめたものである。

【図表1】不正調査の実施範囲 参照

不正が発覚した企業の約半数は、不正実行者の業務範囲・所属部門に留まらず、関連部門や全社・全グループにまで調査範囲を拡大している。これは、発覚した不正は氷山の一角であり、他にも同様の不正が発生しているリスクがあるためである。
調査範囲を見誤った場合には、既に発生している他の不正を発見できないだけでなく、不正の原因究明と再発防止策が不十分となり、後になって同様の不正が再発することもある。

【図表1】不正調査の実施範囲

出典:「Japan Fraud Survey 2014 企業の不正実態調査」よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

2.類似不正事象の調査

不正調査の一義的な目的は発覚した不正の実態解明であるものの、調査過程で不正手口や発生要因等が明らかになるに従い、「他に同じような不正はないか」という調査の十分性・網羅性の検討も重要となる。

【図表2】は、発覚した不正について、(1)実行者・関係者(社外関係者も含む)、(2)不正手口(リスク要因も含む)の類似性に着目して、他の発生可能性のある不正を分類したマトリクスである。図表のBおよびCが類似不正事象に該当する。少なくとも類似不正事象は不正調査の範囲に含めるべきである。

【図表2】不正発覚企業における不正リスク 参照

「B 類似不正事象」は、「A発覚した不正」の不正実行者・協力者(サプライヤー等社外関係者を含む)による他の不正である。
不正手口は必ずしも単一ではなく複数の不正手口が存在する場合も多いため、発覚した手口とは異なる方法により他の不正を行う可能性に留意して調査範囲を検討する必要がある。

具体的には、自社のみならず同業他社等を含む社内外の不正事例を収集・分析し、不正実行者の業務に関連して発生可能性のある他の不正手口を検討し、構築した仮説に基づいて調査範囲(対象組織、対象期間、対象取引記録等)を決定するアプローチが有効である。

「C 類似不正事象」は、他拠点・部門における「A発覚した不正」と類似の手口による不正である。

「A発覚した不正」の手口および発生要因を分析し、事業環境や内部統制等に関して類似の不正リスクがある他拠点・部門についても対応を検討する必要がある。

【図表2】不正発覚企業における不正リスク

出典:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

3. まとめ

不正調査においては、調査期間、人的資源、情報アクセス等の限界・制約の下で、効果的かつ効率的に不正の実態解明を行うため、調査初期・途中段階で暫定的に仮説を構築しながら、調査範囲を決定し調査を行うこととなる。
常に調査結果と当初の仮説との整合性を検討し、必要に応じて調査範囲を柔軟に見直すことが重要である。

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス
ヴァイスプレジデント 大田和範

執筆日:2015年7月27日
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

執筆者

フォレンジックサービスについて

あらゆる企業不祥事の調査を専門とするスペシャルチームである。不正・不祥事が発覚した企業に対しては、弁護士や企業担当者と連携し最短かつ効果的な事実解明や解決策の提供し、信頼性ある調査結果を提供するばかりでなく、再発防止策の策定や不正実行者の責任追及等、調査後も企業価値の回復に向けて継続的な支援を行っている。 

関連するサービス
■ 不正対応・係争サポート

シリーズ記事一覧
■ 基礎からのフォレンジック講座
お役に立ちましたか?