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基礎からのフォレンジック講座 第8回

不正に対する是正措置

企業の不正リスクや係争・訴訟に関するスキルなど、フォレンジックに関して事例と共に基礎からわかりやすく解説する講座方式の連載記事。 第8回は、不正に対する是正措置の内容と実施上の留意点について述べる。

1. 上場企業における是正措置の内容

不正・不祥事が発覚した際、その対応において、十分な事実解明の調査を行うと同時に、発生原因の深度ある分析に基づいた効果的な是正措置を取ることができるかが損害額の低減や信頼回復のために重要である。

デロイト トーマツ アドバイザリー合同会社(以下、DTFA)は、上場企業約3,800社を対象としてアンケート調査を実施し、回答企業358社の回答結果を分析し、その結果を「企業の不正リスク実態調査2014」として公表した。
【図表1】は、不正に対する是正措置の内容に関する回答結果を取り纏めたものである。

【図表1】是正措置の内容(複数回答)参照

前回調査時に比べて、これまで、是正措置として多くの企業等が取り組んできた業務・ルールの変更・周知や懲戒処分等に加え、主に発覚した不正を事例とした研修、ジョブローテーションおよび内部通報制度の見直しなどの是正措置の実施割合が大幅に増加している。ある大手食料品メーカーでは不正に関する研修に年に1回参加することを義務付け、また相談・通報制度の整備・運用を図るとともに、役員および社員に対して法令順守を求めるトップのメッセージを定期的に発信している。

これらの回答結果から、不正・不祥事の調査後に、業務・ルールの変更・周知といった是正措置だけでなく、従業員等の不正に対する意識の向上、人員固定化による弊害の排除および情報提供の仕組みの整備等を目的としたさまざまな是正措置を策定・導入することで不正を許容しないという積極的な姿勢を示すなど、不正防止の取り組みが広範囲にわたって取り始めていることがうかがえる。

【図表1】是正措置の内容(複数回答)

出典:「Japan Fraud Survey 2014 企業の不正実態調査」よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

2.是正措置策定・実施上の留意点

不正発覚後にとる主な是正措置としては、往々にしてルールや手続きの変更に目が行きがちである。しかし、効果的な是正を考えるにあたっては、不正リスク管理体制のフレームワークを利用し包括的に措置を検討することが重要となる。米国公認会計士協会(AICPA), 公認不正検査士協会(ACFE)および内部監査人協会( IIA)が提唱したフレームワークの5要素は、1)不正リスク管理体制全般のガバナンス、2)不正リスク評価、3)不正防止措置、4)不正発見措置および、5)対処である。

前述のルール・手続きの変更は不正防止措置の一部分でしかなく、経営者による内部統制の無効化や費用対効果など内部統制固有の限界等がある中で部分的な措置では十分な成果をあげられない可能性がある。不正リスクを抑止するためには、5つの要素を効果的に組み合わせ多面的に対策を講じる必要がある。

具体的にどのような対策が効果的かは企業等の置かれた状況によってさまざまである。

不正の概念・手口を正しく理解し、不正に対する経営トップの意向や姿勢を組織に明確に示す、不正リスクの評価を実施しリスクの高い分野に重点的にリソースを配分する、経営層から従業員まで繰り返し教育研修を実施する、内部通報製度を活性化する、不正発見を目的とした監査を実施する、不正の端緒があった場合の調査方針・規程を明確にしておく、など自社に適したさまざまな対策が必要となる。

その点、1で述べた回答結果は、フレームワークの各要素にわたるより広範囲の措置を企業が取り始めていることを示している。

もうひとつ重要な点は、喉元過ぎれば熱さを忘れるといったことにならないよう、導入した仕組みがいつの間にか実施されなくなったり、形骸化することがないよう、従業員等に対し定期的にコンプライアンスに関する研修や意識調査を実施することで、内容の理解と遵守を促進し、各従業員等からの回答項目等についてフォローアップを実施するなど継続的なモニタリングによって運用状況や効果を確認するPDCAサイクルを導入することにある。

3. まとめ

企業等においては早期に損失を回復し、訴訟およびレピュテーションリスクを低減するためには予め不正リスク管理体制のフレームワークに基づき包括的に是正措置を検討するプロセスを構築するとともに、継続的に運用・モニタリングすることができるPDCAサイクルを導入しておくことが重要である。

本分中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス  
ヴァイスプレジデント 川中雄貴

執筆日:2015年8月31日
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

執筆者

フォレンジックサービスについて

あらゆる企業不祥事の調査を専門とするスペシャルチームである。不正・不祥事が発覚した企業に対しては、弁護士や企業担当者と連携し最短かつ効果的な事実解明や解決策の提供し、信頼性ある調査結果を提供するばかりでなく、再発防止策の策定や不正実行者の責任追及等、調査後も企業価値の回復に向けて継続的な支援を行っている。 

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